プティ・パレで、オランダ人画家にちょっと詳しくなる
Paris 2018.04.24
忘れられた画家、あるいは語られずじまいとなった画家。そうした芸術家の作品を紹介する展覧会を心がけているプティ・パレでは、前回はスウェーデンの画家アンデシュ・ソーン展が大成功を収めた。9月には伊藤若冲展が予定されているが、フランスにおけるオランダ文化年でもあることから、現在は『パリのオランダ人画家、1789〜1914年』を5月13日まで開催中だ。
オランダの画家といったら、フランスでもまずゴッホの名前が挙がる。展覧会のポスターも彼の作品である。『Vue depuis l’appartement de Théo』(1887年)。Amsterdam, Van Gogh Museum(Vincent van Gogh Foundation)
セルフポートレートを多く描いたのは、モデル代が不要というのが理由のひとつだったとか。『Autoportrait』(1887年)。Van Gogh Museum (Vincent van Gogh Foundation)
フランス革命(1789年)から第一次世界大戦(1914年)の間、光の街であるパリ、芸術が花開く街パリに引き寄せられ、オランダからパリにやってきた画家は1,000名近いとか。 ルーヴル美術館もあり、芸術面が活気づいているパリは、世界のアーティストにとって“the place to be”で、とりわけ絵画の黄金時代を18世紀に迎えたオランダの画家たちは、そこからの脱却を求めてパリに向かったのだという。
彼らにフランス絵画が与えた影響、両者の間の交流にポイントをおき、この展覧会では9名のオランダ人画家を時代順に紹介している。18世紀末はヘラルド・ファン・スペンドンク、ロマン派のアリ・シェフェール、19世紀半ばはヨハン・ヨンキント、ヤコブ・マリス、フレデリック・ケームレールの3名、19世紀後半はジョージ・ヘンドリック・ブライトナーとヴィンセント・ファン・ゴッホ、そして20世紀初頭のキース・ヴァン・ドンゲン、ピエト・モンドリアンという9名だ。ゴッホ以前の名前は確かに広く知られている名前とは言い難い。でも、プティ・パレはそうした作家たちに興味を持たせるように、彼らに影響を与えたフランス絵画を並べて紹介したり、彼らがパリのどこに暮らしていたかを示す地図も展示するなど、上手に紹介している。
オランダ人画家のヨンキンはインスピレーションを求め、ノルマンディ地方によく出かけて行った。オンフルールではブーダン、コロー、モネ、クールベなど画家たちが集う宿として有名だったフェルム・サン・シメオンに滞在。ウジェーヌ・ブーダンが残した水彩の『A la ferme Saint-Siméon』(Courtesy Galerie Schmit)から察せられるように、宿では画家たちの間には友好的な雰囲気があふれていた。会場ではジェリコ、シスレー、コローといったフランスの画家の絵画も展示している。
植物画で知られた有名なピエール=ジョゼフ・ルドゥーテの作品も3点展示。彼はかつてオランダの南部だったベルギーの街に生まれている。会場の入り口部分に、1815年から1920年までのオランダ、ベルギー、ルクセンブルグの地図を境界線の移動を記して掲示。1813年から1830年までネーデルランド連合王国時代があったことなど歴史的背景の説明もプティ・パレは怠らない。
壁の左右とも、子供を抱いた母親を描いた作品だ。左はオランダのヨゼフ・イスラエルスの『Femme à l'enfant』(1867年頃)、右は彼にインスピレーションを与えたジャン・フランソワ・ミレーの『Femme faisant manger son enfant』(1861年頃)。
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着物姿の少女を描いたオランダ人画家。
こうした画家の中で世界中に密かなファンを持っているのは、ジョージ・ヘンドリック・ブライトナー(1857〜1923)だろう。オランダの印象派画家、オランダの19世紀絵画のアイコンなどと呼ばれる彼。オランダでフランスの印象画家展が開催された翌年の1884年から1890年の間、暮らしたのは1年だが、祖国とパリの間を何往復もしている。彼は初めてのパリ滞在中に見たエドガー・ドガの作品に影響を受けていて、バレエの舞台稽古だったり、舞台裏の光景などダンスをテーマにした作品を自身でも描いた。当時のオランダにおいて、これは未知のテーマだったそうだ。
ドガに影響を受けたブライトナーの1884年の作品。
1891年に裸婦を描いた作品の展覧会を開催し、オランダ画壇にショックを与えたそうだ。
彼の作品中でもとりわけ人気が高いのは、着物を着た若い女性のシリーズだと言われる。プティ・パレでも、赤い着物姿の女性が横たわる作品の前は観客が絶えない。なかなかパリでは展示されることのないブライトナーの作品だが、ジヴェルニーの印象派美術館で始まった「ジャポニズム/印象派」展でも、白い着物を着た娘を描いた1894年の作品が展示され、これもまた、人々を引きつけている。
『Le Kimono rouge』は1893年の作品。©Collection Stedelijk Museum Amsterdam
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時代順に辿る、オランダ人画家の展示作品。
残り8名の画家の展示作品を、会場同様、時代順に紹介しよう。展覧会のポスターに使われているのは、1887年のゴッホの作品。パリ暮らしを始めた翌年に、弟テオのアパルトマンの窓から見えるモンマルトルの景色を描いたものだが、灰色とブルーの静かな色調の点描画風なので、これがゴッホ?と驚かされる。パリ暮らしの間、作風がどう変化してゆくか、パリがどんな影響を絵画に与えたのか。これはゴッホだけでなくモンドリアンの部屋でも知ることができる興味深い展覧会となっている。
会期:開催中〜2018年5月13日
会場:Petit Palais
Avenue Wilson –Churchill
75008 Paris
tel:01 53 43 40 00
開)10:00〜18:00(金〜21:00)
休)月、5月1日
料金:13ユーロ
réalisation:MARIKO OMURA