宝飾展も開催する、ヴァン クリーフ&アーペルの学校。

Paris 2018.04.26

“宝石商広場” の異名を持つヴァンドーム広場の裏手、ダニエル・カサノヴァ通りにヴァン クリーフ&アーペルによる宝飾芸術学校がある。ここでは時々、誰でも無料で見ることができるジュエリー展が開催される。4月25日で終わってしまったが、サドルディン・アガ・ハーン王子とカトリーヌ妃が所蔵していた、アールデコスタイルの宝飾オブジェのコレクションの展示は多いに話題を呼んだ。滅多に見ることのできない貴重なコレクションゆえ、開催期間が短かったのが残念である。

展示されたのは、パウダーケース、シガレットケース、ネセセール(必要な品を納める小箱)など1920〜30年代にクリエイトされた50点近いオブジェ。サドルディンが妻に愛の証として、また愛の記念として、20世紀の終わりに収集したコレクションからのセレクションである。ヴァン クリーフ&アーペル、カルティエ、ブシュロンといった著名ジュエラーが、ミニチュア絵画を描くように、サヴォワール・フェールを小さな世界に発揮した品々は、ひとつひとつが見応えたっぷりだった。フランスのジュエラーが守り続けるサヴォワール・フェール、クリエイティビティに改めて思いを馳せさせる機会ともなった。

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「ヨーロッパの影響」のコーナーより。カルティエによるネセセールの左は1913年、奥は1920年ごろのもの。右のネセセールは1920年ごろのロシア製。

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カルティエの1913年の円筒形ネセセールの底を開くと鏡が現れる。中には取り外し可能のリップスティック用のスペース、そしてパウダー用のスペースが設けられている。アールデコの初期のスタイル。

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上記の写真で中を見ることができるロシア製のネセセールの外側。天使が彫られ、蝶番と留め具にはダイヤモンドが。

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1928年頃のネセセール。日本の影響で菊の花がルビー、アメジスト、サファイアなどの宝石で描かれている。リップスティック、2種のパウダー用に分かれた内側にも菊。日本の影響はアールデコスタイルに多く見られる。

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ターコイズの花が咲く風景の中をパンテールが歩くネセセールは、1925年頃のカルティエ。山景色が描かれているのは、1928年頃のブシュロンのネセセール。どちらにも白蝶貝が用いられている。展示されている全てのオブジェの保存状態の良さは驚くほど。夫妻はコレクション品を実際に使うのではなく、ふたりのプライベートなスペースに常に展示していたそうだ。

国連難民高等弁務官を務めたこともあるサドルディン・アガ・ハーン。私生活では大富豪として、美術やジュエリーなどさまざまなコレクションをしていた。彼の最初の妃はカルティエのパンテールのコレクターとして有名なニナ・ダイヤーで、カトリーヌは二人目の妃だ。会場では中国、日本、ペルシャ、ヨーロッパの影響と、テーマを分けてオブジェを展示した。ふたりが集めた100点近い品を現在所蔵しているコレクターが所蔵するデッサンも、テーマにあわせて公開。このスペースでは、ジュエリー・ファンを喜ばせる珍しい展覧会がこうして時々開催されるので、サン・トノーレ通り、ヴァンドーム広場あたりを散策する機会があるなら、気にかけておこう。

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日本の影響のコーナーに展示されている3点のネセセール。手前の2点はカルティエ製。

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複雑なモチーフ、複数の色合わせ……「ペルシャの影響」のコーナーで見られるネセセール。

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ヴァン クリーフ&アーペルのオブジェ。「フランスの影響」のコーナーに展示されている1926年のネセセールは楕円のフォルムの中央にヘビ皮を用いているのが珍しい。1927年のシガレットケースはグラフィックでとてもモダン。展示されている機能を備えたオブジェの数々から、この時代に女性たちが解放され、社会に積極的に進出していたことが読み取れる。

なお建物の上階にある学校の図書室では、ジャン=バティスト・タヴェルニエが17世紀にムガール帝国まで旅をし、彼がフランスに持ち帰ったダイヤモンドの中からルイ14世が買い上げた20のダイヤモンドを常設。レプリカだけど、伝説の青いホープダイヤモンドも含まれている。タヴェルニエは地図製造者の家に生まれ、17世紀にインド方面へフランスから6回も往復した人物。旅の記録も本に残している。ヴァン クリーフ&アーペル宝飾芸術学校は、タヴェルニエのダイヤモンドを巡る冒険というような、珍しい物語も教えてくれる貴重な場所だ。来年、日本でも再び講義が開催される予定があるとか……。

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タヴェルニエからルイ14世が買い上げたダイヤモンドのレプリカと彼の著作を常設している。ムガール帝国においてダイヤモンドは透明度が命という時代ゆえ、タヴェルニエがルイ14世のために青いダイヤモンドを簡単に入手できたそうだ。

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宝飾学校の入り口は、ダニエル・カサノヴァ通り31番地から入った通路の右側。入り口から展覧会場へは案内に従って。

L’Ecole des arts joailliers
31, rue Danielle Casanova
75001 Paris
休)日
https://www.lecolevancleefarpels.com/ja

réalisation:MARIKO OMURA

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