20世紀前半、40組のクリエイターカップルの創作。
Paris 2018.07.13
メスのポンピドゥー・センターで開催中の『モダン・カップル 1900-1950』展は、時間の余裕をたっぷりとって見に行くのがいいだろう。リー・ミラーとマン・レイ、ドラ・マールとピカソ、フリーダ・カーロとディエゴ・リベラ、ジョージア・オキーフとアルフレッド・スティーグリッツ……2フロアで紹介されているのは、1900〜1950年に活動した40組以上のクリエイターカップルの作品。有名なカップルもあれば、知られていないカップルも。展示作品は約900点だという。準備に歳月をかけているだけあって、大規模で多彩な展覧会は見応えたっぷり。
写真家アルフレッド・スティーグリッツと画家ジョージア・オキーフ。photo: Centre Pompidou Metz
パブロ・ピカソとドラ・マール。ドラをモデルに描いたピカソの作品のみならず、ドラの撮影したシューレアリスムの写真も展示して、彼女の創作活動も紹介。photo:Centre Pompidou Metz
シューレアリストのマックス・エルンストについては、レオノーラ・キャリントンとドロテア・タニングのふたりの女性との関わりが作品と併せて展開されている。photo:Centre Pompidou Metz
ロベール・ドローネーとソニア・ドローネー夫妻など、展覧会が紹介するのは両者とも創作活動が有名なカップルはもちろん! photo:Centre Pompidou Metz
愛情あふれる冒険に生きたカップルは、4つのテーマ別に紹介されている。ひとつめは音楽・舞踏関連の分野、ふたつめは空間に関わる創作者たち、3つめは愛情関係と創作が緊密な関係にある男女や女女、4つめは自然をテーマにしたクリエイター。
カップルごとに小部屋形式となっていて、展示を追うのにちょっと疲れたな、と感じるころに、タイミング良く広い空間で紹介されている3カップルの仕事の再構築を見ることができる。アイリーン・グレイとジャン・バドヴィッチのヴィラE.1027、イームズ夫妻のケーススタディハウス No.8、ジャン・アルプの妻ソフィー・トイバーが手がけたストラスブールのバー。こうした空間に入り込んで、彼らの発想のモダニティに浸るのも楽しい。
イームズ夫妻。会場では広いスペースを使って、ふたりの仕事を展開している。写真はケーススタディハウス No.8の建築現場にて。©1949.2018Eames Office LLC (eamesoffice.com)
ソフィー・トイバー(1889〜1943)と夫ジャン・アルプについてはかなりのスペースを割いている。ふたりで半分ずつを仕上げたタペストリー作品も展示。また、1920年代にストラスブールでソフィーが手がけたカフェSalon des Aubettesも一部再現してみせている。photo:Centre Pompidou Metz
アイリーン・グレイとジャン・バドヴィッチによるE.1027内のリビングルームは、家具を配して空間を再構築。photo:Centre Pompidou Metz
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知られざるカップルたちの創作背景に迫る。
これまであまり紹介される機会がなかった気になるカップルについて、幾組か紹介しよう。
ディオールの2018年プレフォール・コレクションのためにマリア・グラツィア・キウリのインスピレーション源となった、アーティストのクロード・カーン。
作品も人生もあまり知られていない彼女について、ここで多くを知ることができる。高校時代に出会ったクロード・カーン(本名ルーシー・シュウォブ)とマルセル・ムーア(本名シュザンヌ・マレルブ)は、それぞれの片親が結婚したことで義理の姉妹になったという、不思議な結びつきをしている。ふたりのイニシャルを結びつけたLSMと署名したデッサン内で、「彼女たちは愛し合っている」とクロードは15歳のときに宣言。ふたりは共に前衛演劇に参加したり、ジェンダーをテーマにした写真を撮影したり。またクロード・カーンはさまざまな変装をしたセルフ・ポートレート撮影も多く手がけたのだが、あまり多くが残されていない。というのも、第二次大戦中にジャージー島でレジスタンス運動に関わった彼女たちは投獄され、その際に多くが破壊されてしまったからだ。
ポンピドゥー・センター内のポスターに使われているふたり。左がカーン、右がマルセル・ムーア。
クロード・カーンが自分をモデルに撮影した「don’t kiss me I am in training」。1927年頃の作品。collection Natalie & Léon Seroussi, Paris
10月11日からロンドンのテート・モダンで個展が開催されるアニ・アルバース。この『モダン・カップル 1900-1950』展でも夫ヨゼフ・アルバースと並列で、彼女のテキスタイルデザインが紹介されている。ふたりが出会ったのはバウハウスにて。男女平等をうたうバウハウスではあるが、彼女は女性であるということで建築や絵画などのワークショップには参加できず、仕方なく織物を学ぶことに。しかし、テキスタイルを介して芸術表現できることを彼女は見出し、絵画的織物を追求してゆくことになるのだ。コラボレーションすることはなかったが、それぞれに抽象表現、幾何学的構造の道を歩んだふたり。これまでは夫の仕事に光があてられがちだったが、今後はアニの創作活動にもより関心が持たれることになりそう。
カリフォルニアのマウンテンカレッジにおける夫妻。1935年。©Albers Foundation/Art Resource, NY
©Centre Pompidou.MNAM-CCI/Bertrand Prévost/dist RMN-GP©The Josef and Anni Albers Foudation ©ADAGP, Paris 2018
アニ・アルバース(1899〜1994)のテキスタイルを多数展示。photo:Centre Pompidou Metz
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芸術家集団、ブルームズベリー・グループの活動も紹介。
多くがふたり組のカップルの紹介だが、グループがひとつ。ヴァネッサ・ベル、ロジャー・フライ、ダンカン・グラント、ヴァージニア・ウルフなどが属したロンドンのブルームズベリー・グループである。ここはメンバーが多いだけに、人間関係も複雑だ。アーツ&クラフト運動をウィリアム・モリスが提唱した時代、オメガ工房を設立し、装飾芸術の製造を目指した彼ら。個々のアーティストの仕事としてではなく、オメガ工房の作品として家具、オブジェ、さらに内装なども手がけたのだが、1920年に解体する。工房が設立された場所がロンドンのブルームズベリー・スクエアだったことからこの名前で呼ばれている。英国の田舎チャールストンにアーティストの理想郷のような家を築いたのは1916年。工房解体後もグループ内の気のあった仲間たちは、ここで制作活動を続けた。
オメガ工房の仕事として紹介されることが多いヴァネッサ・ベルの「Bathers in a Landscape」。1913年。©Victoria and Albert Museum ©Estate of Vanessa Bell , courtesy of Henritta Bell
グループの中心に君臨していたのは ヴァージニアの姉ヴァネッサで、個性と美の持ち主である。ヴィクトリア時代の古い因習がロンドンをまだ支配していた時代、前衛芸術を目指す彼らには過去の規範をことごとく壊してゆくことも大切だった。新しい思考や働き方を推進し、芸術を日常世界に解放し、さらにグループ内では性的な関係も解放されていた。またグループ内には知識人も含まれていたこともあり、芸術界では彼らが残した前衛的作品に目を向ける前に、金持ちのエリート・グループと批判する人もいる。こうしてグループの創作活動が、紹介されるのはフランスでも珍しい。
ヴァネッサ・ベルによる「abstract painting」。1914年。©Tate London 2018©Estate of Vanessa Bell. courtesy Henrietta Garnett
アート界のカップルというと、芸術家とミューズという関係が紹介されがちだ。この展覧会はクリエイター同士を扱っているのが、思えば画期的。女性であるがゆえに、有名な夫の影になってしまっていた女性達の活躍を知ることのできる良い機会でもある。さらにカップルクリエイターとして語るべきことのある、アーティストも紹介。アート作品ばかりが並ぶ展覧会とはひと味異なり、展示作品のジャンルも異なるので大勢が充実した時間をすごせる展覧会だ。
ハンナ・ホフェッシュとラウル・ハウスマン。ベルリン・ダダ運動で知り合い、フォトモンタージュを創始したふたり。photo Robert Sennecke ( Cabinet d’at du Dr Otto Bourchard) 1920年。Berlinische Galerie, Berlin
ハンナはその後ラウルと別れ、新しいパートナーの女性作家ティル・ブラグマンと暮らすため、彼女の国オランダへ引っ越す。そこでカンディンスキーなど多くのアーティストと交流を深めることになる。作品は「Fur ein Fest gemacht」1936年。Institut für Auslandsbeziehungen e.V., Stuttgart©Adagp, Paris 2018
同じ学校で学び、1924年に結婚したアルヴァとアイノ・アアルトは、建築についてヴィジョンを共有していた。ニューヨークの万博でフィンランドのパビリオン建築を担当。1939年Alvar Aalt Foundation
ヘルシンキのふたりの店Arkek。1939年。Alvar Aalto Foundation
ロシア構成主義を代表するカップルは、アレクサンドル・ロトチェンコとヴァルヴァラ・ステパノヴァ。
左はロトチェンコの自画像、右はステパノヴァの自画像だ。
会期:開催中〜2018年8月20日
会場:Centre Pompidou Metz
1, parvis des Droits de l’Homme
57020 Metz
開)10:00〜18:00(金土日 〜19:00)
休)火
www.centrepompidou-metz.fr/couples-modernes
réalisation:MARIKO OMURA