トゥルーヴィル、ドーヴィル、カブールで海浜リゾート。 漁師町トゥルーヴィル・シュル・メールへ。
Paris 2018.07.27
パリのサン・ラザール駅発から列車インターシティ(都市間特急)(※)に乗り、約2時間で到着するトゥルーヴィル・ドーヴィル駅。パリっ子たちが週末になると、車を走らせて向かう海辺のふたつの町の玄関だ。ちょっと海辺でランチを!という日帰り組もいる。大勢が一斉に車を向かわせる時期は、渋滞で車だと3時間近くかかってしまうこともある人気の土地である。
※ インターシティ(都市間特急)のチケットは事前にレイルヨーロッパ社のサイトから日本語でオンライン購入できるので、言葉の心配がある人には心強い。また、オンラインで事前予約すれば窓口に並ぶ必要がないので、時間を有効に使いたい旅人にはおすすめである。
www.raileurope.jp
トゥルーヴィル・ドーヴィル駅に着いたら、さあ、どちらに行こうか。右に向かうと古くからの漁師町が発展したトゥルーヴィル・シュル・メール、左に向かうと高級避暑地のドーヴィルだ。トゥーク川がふたつの町を隔て、ベルジュ橋が繋げている。また、満潮時なら渡し船での移動も可能という近さ。どちらかの町に宿泊し、異なるふたつの魅力を存分に楽しんで行こう。
のどかなトゥルーヴィル・シュル・メールの海岸。
こんな小さな漁港がなぜパリっ子たちの心を惹きつける人気の場所となったのかというと、19世紀の前半、この地の風景を描いた画家シャルル・モザン(1806〜1862)の絵がパリのサロンに出品され、このチャーミングな場所はどこ?と、トゥルーヴィル・シュル・メールの名を知らしめることになったそうだ。多くの文化人をこの地に誘うきっかけとなったモザンの作品は、いま、街のヴィラ・モンテベロ美術館で見ることができる。
トゥーク川の岸に立つ作家フロベールの像。彼の見上げる視線を辿ると、そこにあるのは彼が思いを寄せた人妻エリザが暮らしていたアパルトマン(現在はオテル・メルキュール)だ。
27艘の漁船を係留するトゥーク川。ノルマンディー地方特有の木組みの建物内に、魚市場が擁されている。
国鉄駅からこの橋を経由して魚市場までは徒歩で約15分の距離だ。
9時〜20時、満ち潮の時は渡し船(1.20ユーロ)でドーヴィルへと。水がないときは跳ね橋(50サンチーム)を経由して徒歩で。
きれいな砂浜の海岸。その海岸沿いにレ・プランシュと呼ばれる板ばりの遊歩道が作られたのは、海水浴がパリの上流社会の間で夏のレジャーとなった19世紀後半の第二帝政時代である。ビアリッツも含め、海浜リゾートの流行を先導したのは時の皇帝ナポレオン3世の妻ユージェニーだ。その遊歩道に沿って、当時建築された ネオ・クラシック様式、ネオ・モレスク様式などスタイルが異なる瀟洒なヴィラが並び、いまも散歩者の目を楽しませる。さて、このレ・プランシュだが、2001年にサヴィニャック・プロムナードと名付けられた。その訳は歩いてみれば、一目瞭然! さあ。
トゥルーヴィル・シュル・メールの夏の景色は、レ・プランシュとストライプのパラソル。photo:office de tourisme de Trouville-sur-mer
海側からの眺めは、建築様式さまざまなヴィラ(別荘)。
レ・プランシュに面したJardin des Thésで、緑の中のティーブレイクはどう? 週末は39ユーロのブランチ(11時30分〜14時30分)のお楽しみも。
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サヴィニャックが愛した町。彼のポスターが海岸にも街中にも。
パリに生まれ、トゥルーヴィルで亡くなったモザン。同じ運命を辿ったアーティストに、ポスター作家のレイモン・サヴィニャック(1907〜2002)がいる。映画や広告のため、シンプルな構図の中にユーモアが溢れるポスターを多数手がけた彼もまた、トゥルーヴィル・シュル・メールと“恋におちた”のだ。1979年からここで暮らし、そして亡くなった。
サヴィニャックの画材や写真を展示するツーリスト・オフィスの2階のギャラリー。1階のブティックではサヴィニャックのイラストのマグカップなども販売している。
街で毎年開催される約10種のイベントのポスターや個人商店の広告ビジュアルなど、トゥルーヴィル・シュル・メールで彼はあれこれと手がけた。オリジナル250種を含め、彼はモンテベロ美術館に作品を寄贈。それらは観光オフィスの上階にあるギャラリーで不定期だが展示されている。そして、海辺の遊歩道には彼が描いたポスターを等間隔で展示。サヴィニャック・プロムナードと呼ばれるのは、それゆえである。ここで潮風に吹かれて彼の作品を楽しんだ後は、市内9カ所の建物にも目を向けなければ。というのも、彼の作品が残された壁があって、いわば町はオープン・ギャラリーなのだ。ペイントが色褪せていても、これらの魅力は探し出す喜びもあってポスター以上かも。
美しいヴィラとサヴィニャックのポスター。
トゥルーヴィル・シュル・メールの空を見上げると、カモメが飛ぶ姿が目に入る。カモメなしには語れない町。接吻する2羽のカモメの羽がTrouvilleのVの字をなすロゴも彼は残している。
レ・プランシュの途中、彼のポスターとHotel Flaubertの壁画が同時に眺められるポイントがある。
町中のブティックでサヴィニャックを発見!
ツーリスト・オフィスにて、サヴィニャックの作品が見られる壁の位置を記した地図を含む資料を入手できる。またサイトからPDFの入手も可能。
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賑わう魚市場で、新鮮な魚介のランチ。これが旅のハイライト!
大通りの魚市場で食べないことには、トゥルーヴィル・シュル・メールにいったと胸を張れない。その日の朝に水揚げされた新鮮な魚介類を販売する魚屋が片側にずらりと並び、そして、その向かい側にこれまたずらりとイートインコーナーが並んでいる。ここで気取りなしに、少人数でも大人数でもワイルドに盛り上がれる食事を楽しもう。何をオーダーするか、迷ってしまうかも。フレッシュで甘みたっぷりのエビや貝類、カキといった複数の海の幸の盛り合わせというチョイスがある。これに冷えた白ワイン、あるいはシャンパン? 常連からアドバイスがひとつ。この市場レストランではパンが出ないそうだ。まずは、パンを買ってから魚市場に向かうのが通のやり方。カキを食べるつもりでいるなら、パン屋さんでその旨を告げてカキに合う黒パンを入手して。
近隣の街の住民や別荘族が買い出しにくる。
エビを乗せ、牡蠣をむいて……魚介の盛り合わせを準備中だ。
片側に魚屋が軒を連ね、各店の向かい側にイートイン・スペースが設けられている。週末の午後は活気が頂点に達し、賑わいもひときわ。
例えば1887年創業のPillet Saiterでは……。
ガーリックを効かせた小エビのソテーと白ワインでスタート!
ルビー色がきれいだけど、飲み物ではないのでご用心! 牡蠣用のエシャロットビネガーです。
エビ、アカザエビ、エゾバイ、牡蠣……鮮度の良さに唸らされる。
ジャネット・スタイルと謳う魚のスープもこの店の名物。テーブルで8ユーロで味わえる。営業は毎日8時から20時。
立ち並ぶテントの上、獲物を狙うカモメの姿が! のんびり食べていると、お皿の魚がさらわれてしまうかも!
Boulevard Fernand Moureaux
14360 Trouville sur Mer
営)8:00〜20:00
魚市場の通りの反対側にはブラッスリーが、これまた軒を連ねている。ちょっとスノッブなパリジャンたちが目指すのはLesVapeursで、地元民はLe Central派だ。サヴィニャックも、こうした店で舌平目のムニエル、タルトタタン、そしてシードルのボトルを1本という組み合わせで食事をしていたとか。そして、食後酒をたしなむために海辺近くのオテル・フロベールへと通った彼。サロン・バーのソファに座り、赤い色をあしらったバーができるといい、と希望していたそうで、ホテルは彼の没後、赤いカーテンのバーを作った。
ブラッスリーの並ぶ景色。21世紀から天然色映画の世界にタイムスリップしたような気にさせる。
サヴィニャックが食後酒を楽しんだオテル・フロベール。
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タラソテラピーでリラックスして、1つ星レストランへ!?
漁師町というものの、海水を活用したリュックスなスパも待っている。レ・キュール・マリーヌだ。カジノと海水療法のセンターを擁する市営の建物が1912年に建築され、賑わっていたのだが、いつの間にやら……。90年間放置されていたこの建物が、3年がかりの工事でスパ・ホテルとして蘇ったのである。パリでも多数の古い建物の再生を手がけているジャン=フィリップ・ニュエルに大改装が任された。美しい建物の外観はそのまま。建物の高い天井を生かし、1912年という場所のオリジンをリスペクトした内装が洒落ている。
1912年創業の堂々たる外観。車寄せがあり、その前はトゥーク川に面してバー・レストランのテラスが広がる。カジノの建物も改装され、その美しさは沿岸の街で噂されるほど。
スパは合計3フロアからなり、ホテルとスパのパッケージ滞在というのもあるそうだ。いまももちろん海水を利用したタラソテラピーのスパで、若い層にも人気という。プール、サウナも備え、また、最近パリでも流行り始めたマイナス160度のクリオテラピーも受けられる。
400メートルの深水をフィルターで濾過して使用するタラソテラピー。受付フロアは地上階(写真)にあり、その下2フロアがスパだ。
このホテル・マックギャラリー・バイ・ソフィテル内にはミシュラン1つ星のガストロノミー・レストランLe 1912も。30席からなる2フロアのレストランで、シェフは北海道のミッシェル・ブラス・トーヤ・ジャポンで2012年まで腕を振るっていたジョアン・ティリオだ。和のタッチが感じられる彼の料理はホテル宿泊客でなくても味わえる。
2フロアからなる30席のガストロノミー・レストランLe 1912は、水曜から日曜のディナーのみの営業。レ・キュール・マリーヌが創業された1912年の頃の海岸の写真が内装に使われている。
1階のブラッスリーEphèmer。
Les Cures Marines Trouville Hotel Thalasso & Spa
Boulevard des la Cahotte
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小さな街だ、ぶらぶらと散策しよう。
町のつくりをざっと把握したら、小さい町である、地図なしで自由に歩いてみよう。その昔、貴婦人たちが風を避けて海と町を行き来したのはrue de Paris 。当時は、宝石、モードなど流行りものを売る店が並んでいたそうだ。その名残を感じさせるようなブティックがちらほら。オルレアン通りやバン通りを始め、食べる、買うといった楽しみは町中で待っている。
かつての下着店。rue de Parisの昔の栄華をしのばせる。
可愛らしいブロカントをみつけたら、中を覗いてみよう。
クレージュなどを揃えたヴィンテージショップViolette が素敵。
クリスタルを扱うアンティーク・ブティック。
憩いのテラスに誘いかけられ、疲れてなくてもひと休みしたくなる。
せっかく海岸街に来たのに雨! そんなとき和むのに最適なのは、このAromeのティーサロンだ。もちろん晴天日だって快適な時間が過ごせる。
今年オープンした素材重視の手作りアイスクリームのL’atelier de Luc(ラトリエ・デュ・リュック/ Place de Tivoli, 1, rue d’Orléans)。ポム・カルヴァドスなんて、ノルマンディー地方だからこその味では?
街歩きの途中、アールデコ・スタイルの建物に出会うかもしれない。それは1930年代にピエール・シロルによって建築されたかつての郵便局だ。地上階に当時の内装をうまく残しつつ改装が行われ、現在はサウナ付きの宿泊用ペントハウスL’ancienne poste de Trouville(ランシエンヌ・ポスト・ドゥ・トゥルーヴィル)として人気を呼んでいる。
1930年代の郵便局が、宿泊用ロフトに変身した。
地上階のパブリック・スペース。かつての郵便局で使われていたテーブルや電話ボックスがそのまま残されている。
200平米近くあるパブリック・スペース。こうしたリビングコーナーだけでなく、カウンターの裏手にはオーブンや皿洗いを備えた共同キッチンがある。
窓のステンドグラスも1930年代のまま。
郵便受けやシールなど郵便局らしい要素をあえて残したモザイクの壁。
ノルマンディー地方観光局
www.normandy-tourism.org
トゥルーヴィル観光局
www.trouvillesurmer.org
カルヴァドス県観光局
www.calvados.fr
フランス観光開発機構
http://jp.france.fr
réalisation & photos:MARIKO OMURA