レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校で学ぶ その3。

Paris 2018.12.07

続・ジュエリーの芸術史

「ジュエリーの芸術史」は講義内容が多彩である。今回、日本では初開講となる講義が4つ。そのうちのひとつ「アールヌーヴォーのジュエリー」は、19世紀末から第一次世界大戦までの間、建築、美術工芸品など広い分野にわたってヨーロッパを席巻した装飾的なアールヌーヴォー・スタイルについて、ジュエリーをメインにそのインスピレーション源、影響と波及について学べるとても興味深い授業だ。

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ヤドリギをモチーフに、パールをあしらったアールヌーヴォー・スタイルの櫛。Maison Vever(メゾン・ヴェヴェール)による1900年頃の製作。パリの装飾芸術美術館内ギャルリー・デ・ビジューに展示されている。©MAD, Paris/ Jean Tholance

パリではこの講義は「アールヌーヴォーのジュエリー:レコールから美術館へ」というタイトルで、授業の最後にパリ装飾芸術美術館内の「ギャルリー・デ・ビジュー」見学がセットされた3時間のクラスとなっている。1,200点以上のジュエリーを常設しているギャルリー・デ・ビジューに展示されているアールヌーヴォー・スタイルのジュエリーはとても豊富で、そのひとつひとつがとても神秘的。日本でこの講義をとったなら、次のパリ滞在ではぜひとも自分の足で美術館を訪ねてみるといいだろう。ギャラリーは2スペースに分かれていて、ひとつめでは壁に沿って時代順にジュエリーが展示されている。アールヌーヴォーのお隣はアールデコのジュエリーだ。植物や鳥など自然界にモチーフを得たうねるような曲線が特徴的なアールヌーヴォーは、その後に流行る幾何学的やシンプルなラインのアールデコ・スタイルと好対照をなしている。これはふたつのスタイルの明快な違いを、自分の目で確かめられる良いチャンス。この両者のスタイルを把握しておくと、パリ市内を散歩して建物を眺めたときに、建築におけるアールヌーヴォーとアールデコの違いがおもしろいように見えてくるだろう。

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ギャルリー・デ・ビジューより。花芯のオパール、そしてブローチからぶら下がる台形のオパールが神秘的。ルネ・ラリックによる1898〜1899年頃の作品。©MAD, Paris/ Jean Tholance

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花梗にダイヤモンドが使用された、ルネ・ラリックによるアザミの花の指輪。アザミの花はアールヌーヴォー・スタイルの代表的モチーフのひとつだ。1890〜1900年頃の作品。©MAD, Paris/ Jean Tholance

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雄鶏の双頭、カボション・サファイア、ブルーの羽根……何もかもに目を奪われるミステリアスなペンダントはルネ・ラリックによる。1901〜1902年頃の作品。ギャルリー・デ・ビジュー内のアールヌーヴォーのコーナーでは、ルネ・ラリックによるジュエリーを多数鑑賞できる。©MAD, Paris/ Jean Tholance

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ヴァン クリーフ&アーペルのサポートによって誕生したギャルリー・デ・ビジュー。photo:Luc Boegly

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ひとつめの部屋の壁の片側はジュエリーの素材をテーマにした展示。中央はアジアのジュエリーの展示だ。ギャルリー・デ・ビジューの見学は常設展とセットで11ユーロ。photo:Luc Boegly

Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)11:00〜18:00(木 〜21:00)
休)月

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「ジュエリーの芸術史」の講義の中には、“ヴァン クリーフ&アーペルの世界に入り込む”があるとその2で書いた。「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」の生徒の中には、ヴァン クリーフ&アーペルというメゾンのジュエリーにとりわけ興味を持っている人も少なくないだろう。パリでは「サヴォアフェール<匠の技>」の中にもヴァン クリーフ&アーペルのジュエリーに接することができる講義がある。6名を対象にした4時間の“ヴァン クリーフ&アーペルの作品に触れる”は、ハイジュエリーのアトリエ見学と 「マンドール(黄金の手)」との出合いという内容だ。アトリエでジュエリーの制作工程を辿る見学中には、実際に職人たちが制作中の作品を目にすることもできる。老舗のジュエラーで働く職人たちの熟練の技術は、ただただ見惚れるばかり。素晴らしいサヴォアフェールを間近に見ることで、新しい視点でブティックに並ぶ宝飾品を眺めることになりそうだ。

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ハイジュエリーのアトリエにて。火を使う工程を要するジュエリーもある。

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職人たちは全員エタブリと呼ばれる作業テーブルの前に座り、エタブリに差し込んで使うシュヴィーユと呼ばれる突き出した台上で作業をしている。

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ミステリーセットのルビーをセッティング中。©Van Cleef & Arpels

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レールに石をスライドして並べていくミステリーセット。各石の両サイドにレール用の切り込みが入れられている。このアトリエではミステリーセットのジュエリーの修復も行う。

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誰でも無料で楽しめるエキシビション

さて、その1に書いたように、講義を受けなくても学校内に入れる機会がある。それは学校内の展示スペースで、不定期だが無料のジュエリー展が開催されるからだ。「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」が目的とする“ジュエリーの基礎を大勢が学べるため”ということの延長線上に、このジュエリー展は位置している。

たとえば今年。春は「アールデコの貴重なオブジェ」展と題して、シガレットケース、パウダーケースなど約50点を展示した。これは1920〜30年代に世界有数のジュエラーによってクリエイトされたアールデコ調の宝飾品で、サドルディン・アガ・ハーン王子とカトリーヌ妃のコレクションからのセレクションだった。充実した内容で、3週間にも満たない短期間の開催だったのが惜しまれる 。

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「アールデコの貴重なオブジェ」展より。

10月5日からは「イヴ・ガストゥ コレクション 男性の指輪」展がスタートした。これは11月30日までと開催期間が珍しく長かった。17世紀のヴェネチアの総督の指輪から、1970年代のバイカーたちの指輪まで約500点を展示。イヴ・ガストゥはサンジェルマンで30年以上も骨董商を営み、この分野では知られた存在であるが、彼の膨大な指輪のコレクションがこのように展示されたのは今回が初めて。美術館では開催されないような珍しい視点で企画されているので、どの展覧会も好評を博している。

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「男性の指輪」展より。男性が身につける代表的な指輪である、シュヴァリエールのコレクション。photo:Benjamin Chelly

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ゴシック系の指輪も多数。このコーナーはプロのジュエリーデザイナーたちの気をひいていた。

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短期間の展覧会とはいえ、会場構成にも力を入れた本格的なものだ。photo:Benjamin Chelly

また2017年1月には、ヴァン クリーフ&アーペルのサポートを得てクリエーションされたハルミ・クロソフスカ・ド・ローラのジュエリーとオブジェの展示も行われた。動物がテーマの作品は、どれもジュエリーを超えたアートピース。日本での「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」開講時には、彼女の創造性に満ちた新作『Vestigia Naturae』が展示されるそうだ。日本で彼女のコレクションを目にできる初の機会となるので、これは楽しみにしよう。

ジュエリーそのものを見ることにより、理解も深まれば、さらなる好奇心が刺激される。学校の講義の前にジュエリーを見るもよし、講義の後にまた見るもよし。宝飾文化の研究と発展に力を注いているレコールらしい催しである。

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パリで2017年に発表されたハルミ・クロソフスカ・ド・ローラのジュエリーより。

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動物をテーマにしたオブジェも同時に展示された。これは白い石のアルバートルが素材のライオンの頭のランプ。東京のエキシビションはパリと同様に、講義受講者に限らずフリーエントランス。

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ヴァン クリーフ&アーペルのファンへの贈り物

ヴァンドーム広場にヴァン クリーフ&アーペルのアドレスは3つある。メゾンが1906年に創業したのは広場の22番地で、ここはいまの時代にはスペースが小さいためアフターサービス専門の場となっている。パトリック・ジュアンの内装で有名な現在の本店は24番地。蝶々や花など、創業以来メゾンの大切なインスピレーション源である自然が描かれた店内のボワズリーが素敵だ。このブティックではジュエリーの新作はもちろんだが、メゾンがオークションなどで買い戻した古いジュエリー“ヘリテージ・ピース”の販売もしている。

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ヴァンドーム広場。リッツホテルを背にして眺めると、ヴァン クリーフ&アーペルの名前が20、22、24番地にずらりと並んでいる。

20番地の3つめのブティックは2年前にオープンした。こちらも内装を手がけたのはパトリック・ジュアン。天井も楕円なら展示ケースも楕円というように、インテリアは“丸み”を特徴としている。さてこの20番地の扉を開けたら、ぜひ店の奥まで進んでほしい。行き着くのは、メゾンのジュエリーの回顧展が開催されるスペース。ヴァン クリーフ&アーペルでは創業から1980年頃までのジュエリーを買い戻していて、その中には24番地のブティックでヘリテージ・ピースとして販売されるものもあるが、主にミュージアム・ピースとして保管される。それらをベースにしてジュエリー展のテーマが設けられるのだ。2019年1月12日まで「アルハンブラ コレクションと1970年代」展が開催中である。

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1978年のアイボリーのアルハンブラ。70年代のアイボリー素材のジュエリーと合わせて展示。

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マラカイトのアルハンブラ。

四つ葉のクローバーに着想を得たモチーフをチェーンに20個繋げたロングネックレスが1968年に登場した。このネックレスから歴史が始まるアルハンブラ コレクション。アトリエのサヴォアフェールの匠と、創業以来メゾンが大切にしている“幸運”というテーマが込められたモチーフは、ヴァン クリーフ&アーペルのアイデンティティ的クリエーションといえるものだった。その後マラカイトのグリーン、オニキスの黒、ラピスラズリのブルーなど、さまざまな色で登場するアルハンブラ。1970年代にはフランソワーズ・アルディやロミー・シュナイダーといった当時のリベラルなイメージをもつセレブリティたちに愛された。そんなエピソードも紹介しつつ、いまもパリジェンヌを始め、世界中の女性たちのハートにささやきかけるモチーフの魅力を紹介する展覧会だ。

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1968年のアルハンブラのロングネックレス。イエローゴールドとラピスラズリの四つ葉が交互に繋げられている。同年に発表されたイエローゴールドとコルナリンのバージョンも見ることができる。

ジュエリーの世界の秘密に光をあてた「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」を創設したヴァン クリーフ&アーペル。ジュエリーを売るだけの宝石商にとどまらず、ジュエリーに対する情熱と知識を大勢の人々と分かち合おうと務める老舗の心意気は、こうした展覧会にも表れている。大いに活用して、あなたも宝飾通に!

「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」日本特別講座
期間:2019年2月23日(土)~3月8日(金) 14日間
場所:京都造形芸術大学 外苑キャンパス(東京都港区北青山1-7-15)
申込方法:レコール 日本特別講座 公式ウェブサイトにて受付(2019年1月15日公開予定)
https://jp.lecolevancleefarpels.com/

【関連リンク】
レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校で学ぶ。その1
レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校で学ぶ。その2

réalisation:MARIKO OMURA

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