【ブリュッセル街歩き番外編】パリのプティ・パレでクノップフ展。
Paris 2019.01.28
ブリュッセルのロワイヤル広場に面した複数の王立美術館のひとつに、世紀末美術館がある。展示されているのは、その名が表すように19世紀末の芸術作品である。
アールヌーヴォーのファン必見の美術館だが、さらにフランスの印象派の作品もあれば、地元ベルギーの近世画家の作品も豊富だ(マグリット作品はマグリット美術館にて展示)。日本で知られているこの時代のベルギーの画家は、表現主義のジェームズ・アンソール、そして象徴主義のフェルナン・クノップフ(1858〜1921年)だろうか。クノップスがオイディプスとスフィンクスの出会いを描いた有名な『愛撫』(1896年)も、この美術館の所蔵作品である。1898年の第一回ウィーン分離派展に出品されたもので、山猫の身体と女性の顔をもつスフィンクスが若者に顔をすり寄せた作品は、見る人の心を戸惑わせるものがある。作者の名を覚えていなくても、絵を記憶している人も少なくないだろう。
ブリュッセルの王立美術館のひとつ、世紀末美術館(Musée Fin de siècle/ rue de la Régence 3, Bruxelles)。椅子を備えたエレベーターに驚かされる。
スフィンクスがオイディプスに謎を出すギリシャ神話に題材をとったフェルナン・クノップフの『愛撫』(1896年)。Musée royaux des Beaux-Arts de Belgique. photo J. Geleyns Art Photography
この作品 、3月17日まではパリで見ることができる。プティ・パレが『フェルナン・クノップフ/判じ物の巨匠』展を、ブリュッセルの王立美術館とのコラボレーションで開催しているのだ。彼の回顧展はパリでは約40年ぶりのことで、展示作品数は150点近く。ブリュッセルに彼の構想で建てさせたアトリエ兼自宅の模型が置かれた部屋から、展覧会は幕を開ける。テーマ「夢の邸宅」から始まり、「フォセ村の景色」「ポートレート」「記憶」「カメラのモダニティ」「催眠に支配されて」「女性、裸の後ろ姿」「フランドルの画家の夢」と展開される展示の会場構成は、黒、紺、ゴールドといった会場の壁に使われている色も含め、彼が“自分自身の神殿”と呼んだこの家にインスパイアされたものだ。
アトリエ兼自宅の模型。
ブリュッセルに建てられたクノップフの自宅に入った錯覚を起こさせる会場構成。
彼が描く女性たちはミステリアス。モデルとなっているのは6つ違いの妹マルグリットである。『記憶』に至っては作品内の7名の女性は、異なるテニスウエアを着たマルグリットを撮影し、それをもとに描いたものだ。写真については知識がないと彼は語っていたのだが、死後、写真機、マニュアル、そして多数の写真が発見されたという。被写体は……マルグリット。
『記憶』の部屋で映写されるマルグリットの写真。
『マルグリット・クノップフの肖像画』(1887年)。この作品は クノップフの自宅内、ブルー・ルームに掛けられていた。Musées royaux des Beaux-Arts de Belgique, Bruxelles(dépôt). MRBAB, Bruxelles. Photo F. Maes
『Les Lèvres rouges』(1900年頃)。Alexandre が撮影した写真をクノップフがクレヨンとパステルで仕上げた作品。Collection Lucile Audouy photo Thomas Hennnoque
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『眠れるメドゥーサ』(1896年)を始め、かなりの数の展示作品が個人所蔵のもの。この機会を逃すと、なかなか見ることができない作品もあるわけだ。世界各地から集められた作品は孤独、メランコリー、死を感じさせ、幻想的、神秘的な世界へと見るものを誘う。会場内、数カ所に香りのディフューザーが設置されている。これは彼自身がしていたことをなぞってのこと。展示のテーマにあわせて、バラ、お香、パウダリーなど香りが異なるので、ぜひディフューザーに鼻を近づけて雰囲気に浸ってみよう。イヤフォンで彼が愛した音楽や詩に耳を傾けることもでき、五感を刺激しての展覧会鑑賞の提案がある。
『眠れるメドゥーサ』(1896年)。睡眠も彼のテーマのひとつ。個人所蔵品で会場での撮影が禁じられている。Collection Particulière
個人コレクションから『Portrait des enfants de Monsieur Nève』(1893年)。collection privé photo kg-images
展覧会のメインビジュアルに使われている『Le masque au rideau noir』(1892年)も個人所蔵品だ。collection particulière ©Christie’s Images/ Bridgeman Images
「象徴主義のサロン」。右手に見えるのが香りのディフューザー。
会期:開催中〜2019年3月17日
会場:Petit Palais
Avenue Winston –Churchill
75008 Paris
開)10:00〜18:00(金 〜21:00)
休)月
料金:13ユーロ
réalisation:MARIKO OMURA