J.J・エネール美術館で『赤毛!』展。【展覧会とお宅拝見 1】
Paris 2019.02.08
フランス人も意外に思うようなちょっと風変わりな展覧会が始まった。題して『赤毛 ! ジャン=ジャック・エネールからソニア・リキエルまで』。赤毛のパリジェンヌを代表するのがソニア・リキエルなら、ジャン=ジャック・エネール(1829〜1905年)は赤毛の女性を好んで描いた画家なのだ。2016年春、改装オープンしたジャン=ジャック・エネール国立美術館で、開催中である。
ジャン=ジャック・エネール『ケスラー伯爵夫人』(1886年頃)。©RMN-Grand Palais/ Franck Raux/Servicepresse/musée national Jean-Jacques Henner.
ジャン=ジャック・エネール『La Liseuse(読書する女)』(1883年)©RMN-Grand Palais(Musée d’Orsay)/ Hervé Lewandowski /Servicepresse/musée national Jean-Jacques Henner.
この美術館の来場者の大勢が常設展で彼の作品を見て不思議に思うことは、なぜこんなに赤毛の女性ばかり?ということで、これは、そこから生まれた企画展だという。栗色やらブロンドなど髪の毛の色がさまざまなフランスにおいても、赤毛 というのは男女どちらにおいても少数派ということもあって、興味をそそる髪の色のよう。とりわけ赤毛の女性……パトリック・ジュースキントによる有名な小説『香水』で、主人公グルヌイユを初の殺人に駆り立てることになるのは、彼がそれまで嗅いだことのない匂いを発する赤毛の女性だった、というように、赤毛の女性というのは特殊な存在なのだ。気性の激しい女性、謎めいた女性、官能的な女性……といった相手の心惑わす小説のヒロインたちは、赤毛であることが多い。絵画でもマネ、ドガ、クノップフ、ロセッティなど多くの画家たちが赤毛の女性をモデルにしていて、この展覧会でも実物ではないが、たとえばクリムトの『ダナエ』、ムンクの『愛と痛み(吸血鬼)』などを写真で紹介している。
エネール以外の画家の作品も展示。オーギュスト・ルノワール『Jeune femme à la rose』(1918〜19年)Paris Petit Palais/ Musée des Beaux-Arts de la Ville de Paris ©Petite Palais/ Roger Viollet/ Servicepresse/musée national Jean-Jacques Henner.
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エネールが最初に赤毛の女性を描いた作品は『Idylle(田園詩)』(1872年)。この作品から展覧会は 開幕する。牧歌的な風景の中のふたりの裸婦は赤毛である。この作品以降、彼の作品には赤毛が登場を続けるのだが、この展覧会はエネールの絵画、クロッキーの展示にとどまらず。マルタン・マルジェラがソニア・リキエルへのオマージュとして2008年に6つの赤毛のかつらを用いたクリエーション、ケ・ブランリー美術館からのパプア・ニューギニアの赤毛のお面、フォリー・ベルジェールのポスター、漫画のタンタンなど、5つのテーマで100点近い作品を展示。
最初の部屋でインパクトの強い『Idylle(田園詩)』(右)と『La Liseuse(読書する女)』を並べて展示して、赤毛の世界へと来場者を誘い込む。photo:Mariko OMURA
ジャン=ジャック・エネール『エロディアード』(1887年頃)©RMN-Grand Palais/ Franck Raux / Servicepresse/musée national Jean-Jacques Henner.
エネールの『Le Christ au linceul』(1896年)。彼が描くとキリストも赤毛である。©RMN-Grand Palais/ Franck Raux / Servicepresse/musée national Jean-Jacques Henner.
『Les Naïades』を展示するアトリエ。このフロアのテーマは「なぜ、これほど赤毛を?」で、数え切れないほどの赤毛のモデルの作品が展示されている。エネールは神話の登場人物に官能性を与えるべく髪を赤で描いていたそうだ。photo:Mariko OMURA
ジャン=ジャック・エネール『カミーユ・メルヴァル』(1886年頃)。彼の赤毛モデルのひとりである。©RMN-Grand Palais/Adrien Duduerjean/ Servicepresse/musée national Jean-Jacques Henner.
赤毛がトレードマークだったソニア・リキエル。彼女のメゾン40周年の記念に、娘のナタリー・リキエルが30名のクリエイターに作品制作を依頼した。そのうちの3点をここに展示。中央はマルタン・マルジェラ。左はジャン=ポール・ゴルチエ、右はジャン=シャルル・ドゥ・カステルバジャック。photo:Mariko OMURA
マレーシアのケポングの20世紀のお面。見事な赤毛だ。Musée Quai Branly©Patrick Gries_Bruno Descoings/ Servicepresse/musée national Jean-Jacques Henner.
ヒーロー、誘惑者、恐怖、嘲笑……赤毛に対する世間の偏見、先入観を時代異なるさまざまな作品を通じて見る部屋。photo:Mariko OMURA
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美術館を擁しているのは、19世紀に建築された個人邸宅である。画家のギヨーム・デュビュッフ(1853〜1909)が自宅兼アトリエとして暮らしていた建物で、それを1921年にエネールの姪がエネールの作品を展示する場所として入手した。国によりエネールの美術館として開館したのは、1924年のことである。現存する第三共和政時代(1870〜1940年)の希少な建築物として知られていて、内部にはデュビュッフが作らせたというアラビア風の木の装飾パネルが残され、また最上階、画家がアトリエとして使っていたスペースには、エネールがピガールのアトリエで使っていた家具などを配置。展示作品を鑑賞しながら邸宅見学も、という2倍の楽しみが待っている。話題の展覧会でもあるし、パリの中心ではないけれど行ってみよう。
ピアノコンサートが開催されることもある、1階のホール。©Hartel Meyer
上方左手に、アラビアの木彫り装飾ムーシャラビアのパネルが見える(展示は常設展時のもの)。©Hartel Meyer
企画展期間中も、アルザス時代、ローマ時代の作品を飾る常設会場はそのまま展示。象嵌細工の美しい18世紀のライティングビューローはエネールが使用していたものだ。
建物内、デュビュッフのオリエンタル嗜好が随所に感じられる。©Hartel Meyer
常設展開催中時のアトリエ。中央の上下2作品は、今回の企画展でもそのまま展示が続く。©Hartel Meyer
アトリエではエネールがデッサンに用いた道具類を展示。photo:Mariko OMURA
会期:開催中〜2019年5月20日
Musée national Jean-Jacques Henner
43, avenue de Villiers
75017 Paris
開)11:00〜18:00
休)火
料金:6ユーロ
www.musee-henner.fr
réalisation:MARIKO OMURA