シャンティイでついに公開が始まった『裸のジョコンダ』
Paris 2019.06.07
ふわっと甘く夢心地の味わいといったら、クレーム・シャンティイ。その生まれ故郷であるシャンティイで、2年前からアート界をざわつかせていた『裸のジョコンダ』の公開が始まった。この作者はレオナルド・ダ・ヴィンチなのか、そうではないのか……。謎の微笑みの作者は『裸のジョコンダ』で後世にもうひとつの謎を残していたのである。
『裸のジョコンダ』。サイズは72x 54cm。Atelier de Léonard de Vinci, La Joconde nue、Chantilly, musée Condé, DE-32 ©RMN-Grand Palais domaine de Chantilly-Michel Urtado
『裸のジョコンダ』展開催
『裸のジョコンダ』とは1862年に城主だったオマール公が購入し、1897年からシャンティ城内のコンデ美術館が所蔵するデッサンのこと。サイズはルーブル所蔵の『モナ・リザ』(1503〜1519年)とほぼピッタリで、木炭で描かれた紙には 板絵に転写するための穴が穿けられている。この絵の女性は『モナ・リザ』と体つきも両手の重なりもそっくりで……。
ダ・ヴィンチが作者なのではないか? ということになり、2年前に、フランス美術館リサーチ&修復センターによる科学的解析にその謎解きが任されたのだ。紫外線、赤外線などさまざまな手段を駆使して検証。ダ・ヴィンチのアトリエで描かれたこと、左利きの画家が描いたこと、ダ・ヴィンチの時代の紙が使われていることがわかった。そして、今年3月、コンデ美術館の学芸員マチュー・デルディックにより “巨匠自身の手による可能性が極めて高い”と発表されたのである。断定はしないものの、ダ・ヴィンチが左利きだったことはよく知られているし、また作品のクオリティから優れた画家の手によることは間違いないという。
謎解きの結果を発表するコンデ美術館のマチュー・デルディック。シャンティイのコンデ美術館が所蔵するのはオマール公のコレクション。1897年に彼が亡くなり、所蔵品と城がフランス学士院に寄贈された。1850年以前の絵画のコレクションとしてはルーブル美術館に次ぐ、というほどの素晴らしい所蔵品は、彼が英国亡命中の23年間に集めたもの。公爵の遺志でこれらは城の外に出ることはないので、『裸のジョコンダ』を見るにはシャンティイに足を運ぶ必要があるのだ。photo : Mariko Omura
敷地内の旧ポーム球技場内の特別展会場(Salle du Jeu de Paume)にて開催。©Domaine de Chantilly
探偵気分で謎解きを楽しもう。©Domaine de Chantilly
その後の画家たちを大いにインスパイアした『裸のジョコンダ』。たとえば、筆頭に挙げられるのはワシントンのナショナル・ギャラリーが現在所蔵している画家フランソワ・クルーエによる『Dame au Bain』(1570年)である。今回はコンデ美術館所蔵のピエロ・ディ・コジモによる『シモネッタ・ヴェスプッチ』ほか、『裸のジョコンダ』にインスパイアされた多数の作品を特別展会場に集めて同時に展示。来場者はルネッサンス期の美にたっぷりと浸れる。
ベルガモのカララ美術館所蔵のカルロ・アントニオ・プロカッチーニ作『レオナルドの裸婦』など、展示作品は世界各地から。©Domaine de Chantilly
フランソワ・クルーエ作『Dame au Bain(A Lady in her bath)』(1571年)©National Gallery of Art, Washington
ピエロ・ディ・コジモ作『シモネッタ・ヴェスプッチの肖像』(1480年頃?)Chantilly, musée Condé, PE 13 ©RMN-Grand Palais (domaine de Chantilly) / Adrien Didierjean
アムステルダム・エルミタージュ美術館の『ドンナ・ヌーダ』 。Donna Nuda ©The State Hermitage Museum
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最後の住民、オマール公爵夫妻のお宅拝見も
今年はダ・ヴィンチ没後500周年である。この機会にぜひ展覧会へ。そしてその後でシャンティイ城も訪れてみよう。ここの最後の住民となったのがルイ・フィリップ王の五男で、『裸のジョコンダ』を購入したオマール公アンリ・ドルレアン。2年間の修復を終え、今年の2月から1階を占める公爵夫妻の居殿の公開が再開した(30分のガイド付き見学のみ/別料金5ユーロ)。8部屋で構成された居殿は1845年から画家&装飾家のウージェンヌ・ラミによって内装が行われ、1847年に壁に布が貼られて工事が終了。家具は新婚夫妻が内装に合わせてセレクションしたそうだ。なお、公が集めたコレクションを展示する絵画ギャラリーはこの城の2階にある。
とてもフェミニンなオマール公爵夫人の寝室。二人の結婚は1844年。©Sophie Lloyd
夫妻を見舞った悲劇は、7人の子どもが皆夭逝したことだ。©Sophie Lloyd
公爵夫人はマリー=キャロリーヌ=オーギュスタ・ドゥ・ブルボン=シシル。天井のフレスコ画にはイニシャルAとCが組み込まれている。Photo : Mariko Omura
ガイド付き見学は グラン・シャトーとこの居殿をつなぐギャルリー・ドーメからスタートし、ギーズのサロン、オマール公爵夫人の寝室、紫のサロン、猿図装飾のブードワール、オマール公の浴室、オマール公の寝室、コンデのサロン、王子の書斎と続く。ここはフランスで唯一保全されている王子の住まい。ルイ・フィリップ王による7月王政の時代の王族の豪奢な暮らしをここで垣間見ることができる。
オマール公爵夫妻が暮らす以前の18世紀のままの状態が保全されている唯一の部屋が、この猿図装飾のブードワール。photo : Mariko Omura
1735年にクリストフ・ユエによって描かれた壁画。描かれているのは雌猿ばかりで、さくらんぼ狩りやゲーム遊びなど18世紀の女性たちの暮らしを楽しむ様子がユーモラスだ。photo : Mariko Omura
公爵のとてもシンプルなバスルーム。©Sophie Lloyd
折りたたみ式ベッドが置かれた公爵の寝室。。ベッドの上には、母のルイ・フィリップ王妃マリー・アメリー・テレーズ・ドゥ・ブルボン=シシルの肖像画が。©Sophie Lloyd
コンデのサロンに飾られているのは、ブルボン家の国王・女王などの肖像画が40点以上も。photo : Mariko Omura
この通路の窓は、モンモランシー家の紋章のステンドグラスで飾られている。photo : Mariko Omura
シャンティイ城。北駅から列車で25分、Chantilly-Gouvieux駅で下車。徒歩20〜30分。駅からは無料バス(Le Duc)も。Senlis行きに乗り、Chantilly , église Notre-Dameで下車する。photo : Mariko Omura
期間:開催中〜10月6日
会場:Salle du Jeu de Paume
Domaine de Chantilly, 60500 Chantilly
開)10時〜18時(庭は20時まで)
休 なし
入場料金:10ユーロ(展覧会、庭)、17ユーロ(シャトー、庭、大厩舎、展覧会)
réalisation:MARIKO OMURA