南仏グラースのフラゴナール美術館でギリシャの美に開眼。
Paris 2019.07.01
この夏、南仏の香水の地グラースを訪問するのはどうだろうか。 この地に生まれた香水メゾンのフラゴナールは3つの美術館を持っている。ひとつは香水美術館、ふたつ目は現在のオーナーである3姉妹の父ジャン=フランソワ・コスタがフラゴナールの絵画をはじめ集めていた18世紀の芸術をもとに生まれたジャン=オノレ・フラゴナール美術館、そして3つ目はプロヴァンス民族衣装&宝石博物館だ。これはテキスタイルに興味を持ち、コスチュームをコレクションしていた彼女たちの母エレーヌ・コスタの所蔵品がベースとなっている。いずれも入場無料で毎日開館というのが観光客にはうれしい!
フラゴナール香水美術館。
ジャン=オノレ・フラゴナール美術館とプロヴァンス民族衣装&宝石博物館がある通りには、フラゴナールのアール・ド・ヴィーヴル、キッズ、そしてレディースとメンズのブティックも。メンズ・コレクションのブティックは、いまのところグラースに一軒あるのみ。
現在このプロヴァンス民族衣装&宝石博物館では1997年の開館以来初めて、海外の美術館とのコラボレーションによる『アテネのベナキ博物館の宝』展を開催中。アテネまで出かけないと目にできないギリシャのコスチュームをまとめて見ることができる良いチャンスである。ギリシャのコスチュームは地方、島、民族、宗教、階級、年齢によって異なり、ベナキ博物館のコレクションはとても多彩だという。その中から選ばれた、18世紀半ばから19世紀前半の100点近いテキスタイル、コスチュームが今回展示されている。職人たちが東洋に求めたインスピレーションが西洋のポエジーと混じり合う衣類、交易により18世紀に受けた地中海沿岸国の影響による豊かな衣類、島の祭りの衣装、婚礼の男女の衣装、刺繍された意味のあるモチーフや装飾……。17〜19世紀のジュエリーをまとめた展示室もあり、見ごたえのある構成だ。
会場入り口の展示から。ギリシャ独立戦争の結果、独立国となったギリシャ王国(1974年に共和国になる)。1932年、初代国王オソン1世と妃アマリアがギリシャに存在しなかった宮廷着を “発明” する。
展覧会の締めくくりにプロヴァンスのコスチュームを展示し、会場入り口の王と妃のコスチュームとリンクする構成。
ショールなどテキスタイルも展示。
会場ではイヤリングやコームといったジュエリーだけでなく、衣服のジュエリーにも高度な職人技を見ることができる。
音がする装飾品を背中につけて身を守った女性たち。コスチュームの後ろもじっくりとみられる展示法だ。
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ギリシャの衣服をじっくり鑑賞できるチャンスなので、織物、装飾にも目を向けたい。
左のドレスにはオスマンの影響が見られる。中央は18世紀末のクレタ島のワンピース。右は18世紀末から19世紀初頭にかけてのカルパトス島のシャツ。
ルネッサンス期のモチーフである人魚が刺繍されたクレタ島のワンピース。
19世紀、お輿入れの衣装。
紀元前のマケドニア王アレクサンドロス大王を彷彿させる帽子に造花をあしらって。
左は婚礼衣装。裾の見事な刺繍がとても個性的だ。右は祭りの男性の装い。どちらも西ギリシャのメニディの街の19世紀のコスチューム。
会期:開催中〜2019年9月22日
Le Musée Provençal du Costume et du Bijoux
2, rue Jean Ossola
06130 Grasse
tel:04 93 36 44 65
開)10時〜13時、14時〜18時
休)なし
料:無料
www.fragonard.com/fr/costumes-grecs
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『アテネのベナキ博物館の宝』展で過去の衣装を見た後は、ジャン=オノレ・フラゴナール美術館の 『Ethos(エトス)』展へ。21世紀に生き続けるギリシャのコスチュームの写真展である。ギリシャのさまざまな土地で祭りなどの催事があると、いまも女性たちは昔ながらのコスチュームを身につける。この何世代も受け継がれてきた伝統をミカエル・パパスとジョルジュ・タタキスのふたりのカメラマンが撮影。同じ状況をひとりがカラーで、もうひとりがモノクロで撮影という手法がユニークだ。
カラーとモノクロを隣り合わせで展示している会場。
2016年にカルパトス島で撮影。ギリシャの島では漁師たちは結婚相手の女性宅に暮らすので、持参品をそちらに運ぶ。©George Tatakis
2017年、クレタ島で撮影。現代生活と伝統衣装のコントラストが面白い。©Michael Pappas
美術館では『ローマ/アテネ』展も開催されている。サブタイトルは “フランス革命期の女性たちのふたつの表情” とされ、古代ギリシャ、古代ローマが画家たちのインスピレーション源となった18世紀末に絵画の中に描かれた女性たちを介し、その生き方や愛を読み取るというものだ。この時代、ジャック=ルイ・ダヴィッドといった著名な画家の作品の中の女性たちは、妻、母という役割に落とし込まれているが、それに対して声を上げるのがこの展覧会である。ソクラテスやプラトンに影響を与えたギリシャの女性アスパシアを描いた、ニコラ・アンドレ・モンスローの『アスパシア、アテネの最も賢い男性たちと会話する』(1806年)の展示が、良い例となっている。
『ローマ/アテネ』展会場。
ポスターに使われているフランソワ・ジェラールの『Flore caressée par Zéphyr』©collection particulière
マリー・アントワネットお気に入りの画家エリザベット・ヴィジェ・ル・ブランによる『Lady Hamilton en sibylle de Cumes』(1792年)。
『Rome vs Athènes』展
会期:開催中〜2019年9月22日
Musée Jean-Honoré Fragonard
Hôtel de Villeneuve
14, rue Jean Ossola
06130 Grasse
tel:04 93 36 02 07
開)10時〜18時
休)11月の日曜、1月の日曜、2月頭の日曜
料:無料
【関連リンク】
伝説のフラゴナール香水美術館、充実のリニューアル。
réalisation:MARIKO OMURA