マルセイユで、マン・レイとモードを巡る2つの展覧会。

Paris 2020.01.16

1.『マン・レイとモード』展

マン・レイによるモード写真。過去、フランスではここにフォーカスを置いた写真が紹介されることがほとんどなかったという。画家、アーティストとして認められることを望んでいたマン・レイ。モード写真というのはあくまでも生計のためにしていたことなので商業写真家という面は隠しておきたいことだったからだ。その彼によるモード写真を中心にした『Man Ray et la Mode(マン・レイとモード)』展がマルセイユのカンティーニ美術館で3月8日まで開催されている。

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1945年頃の作品。プリントにインクで加筆がなされ、写真ともイラストとも言えないアーティスティックな作品に仕上がっている。Marseille, musée Cantini ©Man Ray 2015 Trust/ Adagp, Paris 2019

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展覧会入口の写真は1936年に撮影された『天文台の時間、恋人たち』。photo:Mariko Omura

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1925年に開催された万博のル・パヴィヨン・ドゥ・レレガンスで撮影したジャンヌ・ランバンのドレス「Apollo」をマン・レイが撮影した写真とともに展示。photos:Mariko Omura

ニューヨークでマルセル・デュシャンから得たアドバイスに従って、マン・レイがパリに到着したのは1921年で、すぐに彼はモンパルナスのダダイスト、シューレアリストたちと知り合いになった。パリ到着から1930年代後半までパリ社交界の肖像写真家として活躍するいっぽうで、クチュリエのポール・ポワレとの出会いから「ヴァニティ・フェア」「ヴォーグ」といった雑誌のためにモード写真を撮影。とりわけ1934年に“ヴィジョネ”アレクセイ・ブロドヴィッチがADに就任した「ハーパース・バザー」誌はマン・レイと契約をし、コラボレーションを続けることに。ブロドヴィッチが手がける雑誌のビジョンを実現するのに、マン・レイによるモード写真のモダニティは不可欠だったのである。39年まで続いたコラボレーションは『マン・レイ、バザール・イヤーズ』と一冊の写真集にまとめられるほど豊かなものだった。なお、戦後は絵画に専念したい退いたマン・レイに代わり、ブロドヴィッチが選んだ写真家はアーウィン・ブルーメンフェルドだ。

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1920年代に社交界の肖像写真家として活躍していたマン・レイが1924年に撮影したポール・ポワレのドレスを着たペギー・グッゲンハイム。ナンシー・キュナードやエルザ・スキャパレリなどのポートレートも展示されている。photo Marseille, musée Cantini ©Man Ray 2015  Trust/ Adagp, Paris 2019

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「ハーパース・バザー」誌1936年4月号に掲載されたウェディングドレスのシリーズより。左はヴィオネ、右はスキャパレリ。

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展覧会のポスターにも使われているヴィオネのドレスを着たソニア・コルメール(1930年)。撮影に使われたシューレアリスト画家のオスカー・ドミンゲスによる手押し車が会場に展示されている。

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モード写真はドキュメンタリー調が主流だった時代、マン・レイが生み出したのは芸術的で実験的なモード写真である。構図の新しさにとどまらず、ソラリゼーション、レイヨグラフ、二重露光、着色など革新を試み、1920〜30年代の写真の発展にも彼は貢献。シューレアリストしての彼、モード写真家の彼。展覧会に時代順に展示された200点近い写真から、その豊かな相互作用が感じられる。

モード写真と同時に彼は広告も多数手がけていて、彼のシューレアリスムの写真として有名な『涙』のシリーズや『長い髪の女性』(1929年)は広告用に撮影されたものである。同時代に活躍したドラ・マールの写真家としての仕事に通じるものがある。

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シューレアリスムの写真として名高い『涙』。もとはアルレット・ベルナール社の“コスメシル”のための広告写真だった。        

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「ハーパース・バザー」誌のために1935年に撮影したカルティエのジュエリー。静物写真といえど何やらシュールだ。photo:Marseille, musée Cantini ©Man Ray 2015  Trust/ Adagp, Paris 2019

この時代はネガを管理するのが雑誌社だったので、それらは廃棄処分にあったものが多いのだろう。展示写真はプリントだったり、雑誌のページだったり。ポートレート、彼がクリエイトしたオブジェも会場で見ることができる。また、『ひとで』『La Garoupe』『サイコロ城の秘密』『プール』といった映像作品も上映されているので、じっくりと鑑賞を。

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メガネ『スパイラル』はマン・レイがスキャパレリのためにデザイン。彼がデザインしたイヤリングとそれをつけたカトリーヌ・ドヌーヴの写真も会場に展示されている。  

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映像作品も鑑賞できる展覧会だ。

『Man Ray et la Mode』展
会期:開催中〜2020年3月8日
Musée Cantini
19, rue Grignan
13006 Marseille
開)9時30分〜18時
休)月
料:9ユーロ(『La mode au temps de Man Ray』との共通券12ユーロ)

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2. 1920〜30年代のモード展

マルセイユでは『マン・レイとモード』展と並行して、シャトー・ボレリーで『La Mode au temps de Man Ray(マン・レイの時代のモード)』展を開催し、2つの大戦の間の20〜30年代モードに興味のある人々を喜ばせている。クチュールドレスだけに留まらず、日常の女性の装いまで追求した展示なのでヴィンテージショップを覗くような気分も味わえる。

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展覧会の入口にマン・レイのモード写真を飾って、カンティーニ美術館の『マン・レイとモード』展との関連を見せる。

シャネル、カロ・スール、ジャンヌ・ランバン、ジャン・パトゥ、ポール・ポワレ、スキャパレリ、マドレーヌ・ヴィオネ……マン・レイがポートレートを撮影した女性たちを装ったクチュリエたち。こうした写真がヴォーグなど雑誌を飾り、デパート、町の洋裁店が流行を広めていった時代で、流行を取り入れたいけれど金銭的余裕がない女性たちは自分で縫っていた。

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1920年代のドレスの展示。右はシャネルによる1927年のクレープデシンのドレス

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1925年頃のカロ・スールによるストンとしたシルエットのソワレ。©Daguerre/ Luc Pâris

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1920年頃のフレデリック・ワースによる丈の短いベルベットのソワレ。モボ・モガの時代、ソワレといえどショート丈がもてはやされた。©Musée La Piscine(Roubaix), dist. Rmn-Grand Palais/ Alain Leprince

第一次大戦後、女性たちの服はソワレも含め丈がふくらはぎまで、そして1925年には膝下まで上がった。シンプルでまっすぐなラインでゆったりとしたフラットな服。それが1930年代になると、シルエットはゆったりから再びフィットしたシルエットのクラシックな服に戻るのがおもしろい。ギャルリー・デ・モードと名付けられた会場では下着も展示されているので、それぞれの時代の違いが下着にも見てとれる。このギャルリーでは服のカットの変遷、美容関連、ヘアスタイルなどにまつわる展示もあり、さらに、この時代に女性のワードローブに加わったスポーツウエアをまとめたウィンドウも設けられている。

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スキャパレリなど1930年代のドレスの展示室。

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美しく結い上げたヘアウィッグ。

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下着の展示。1920年代と30年代を見比べるとおもしろい。

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ジャン・パトゥによる1930年頃のウールのコンビネゾン。©Château Borély/ photo R. Chipault- B. Soligny

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ウェディングドレスをテーマにした一室も設けられている。

なおシャトー・ボレリーは“装飾芸術、陶器、モードの美術館”なので、ディナーのテーブルセッティングを美しいサロンで再現している。このシャトーは18世紀のバスティードで唯一、一般公開されているという貴重な建物。この時代の豊かな階層の家に招かれた気分を食卓の展示で味わってみよう。

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シャトー・ボレリーは装飾芸術、陶器、モードの美術館。 

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展覧会のポスターが飾られたシャトー付属のレストラン。

『La Mode au temps de Man Ray』展
会期:開催中〜2020年3月8日
Musée des Arts Décoratifs, de la Faïence et de la Mode
134, avenue Clot Bey
Château Boléry
13008 Marseille
開)9時30分〜18時
休)月
料:9ユーロ(『Man Ray et la mode』展と共通券12ユーロ)

réalisation:MARIKO OMURA

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