ジュエラーのジャン・ヴァンドーム。知っていますか?
Paris 2020.03.27
こう尋ねられても、フランス人ですらほとんどの人がノーと答えるはずだ。ヴァン クリーフ&アーペルが支援する「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」が開催する展覧会では、ときに過去に活躍したものの長い宝飾史の中で名前が消えてしまったジュエラーにスポットを当てる。たとえば昨年11月の『宝石商ラクロッシュ 1892-1967』展がそれだ。アールヌーボー、アールデコの美しいジュエリーをクリエイトしていた宝石商なのに、その栄光の時代を記憶している人たちはこの世を去ってしまったのだろう。個展ではなく企画展においても、忘れられた宝石商のジュエリーを展示する。これは昨年5月の『バード・イン・パラダイス 』展のピエール・ステルレ(1905〜1978年)がよい例だ。ショーメの仕事もしていたクリエイターで、作家のコレットとも親しかった彼。自然をテーマに、新しい技術を駆使したジュエリー創りに励み、まるで布のようにメタルを扱いジュエリーのクチュリエとも呼ばれていた彼の仕事は、この展覧会によって21世紀のジュエラーファンに伝わることになった。
フレール・ラクロッシュのベルエポック期のジュエリーを代表する、1908年のペンダントウォッチ。photo:Mariko Omura


昨年5月に「レコール ジュエリーと宝飾芸術の学校」で開催された『バード・イン・パラダイス』展のピエール・ステルレによるブローチ。photos:Mariko Omura
レコールが次にクローズアップするのはジャン・ヴァンドーム(1930〜2017年)である。5月から7月にかけて予定されていた展覧会は11月に延期となったが、ひと足先に簡単に彼を紹介しよう。ラクロッシュともステルレとも異なるイマジネーションの持ち主である。クリエイティブジュエリーのパイオニアと形容される彼のジュエリー。女性が身につける装身具を超えたオブジェ的なデザインで、アーティストのジュエリーとハイジュエリーの間に位置するものだった。
ジャン・ヴァンドームのクリエイションはシュールだったりバロックだったり。これはカニの爪、ガーネット、シルバーを使ったネックレスの『Le Dormeur』(1991年)。photo:Benjamin Chelly
ジャン・ヴァンドームによる指輪『5th Avenue』(1966年)。彼のジュエリーはミニサイズの彫刻、と呼んでもいいだろう。photo:Benjamin Chelly
石の価値を優先する因襲的なハイジュエラーと異なり、奇妙だったりミステリアスなインクルージョンを含むなど、自分のイマジネーションに沿ったストーンを使用。石そのものの価値を気にせず、感動を生むジュエリーのクリエイションを続けた。67年のキャリアの中から厳選されたジュエリーを展覧会で鑑賞できる日を心待ちにしよう。
アメシストの原石、アメシスト、ダイヤモンド、イエローゴールドを用いたジャン・ヴァンドームによるペンダントブローチ『Rosace』。 photo:Benjamin Chelly
11月開催予定
L’École des Arts Joailliers
31, rue Danielle Casanova 75001 Paris
開)12時〜19時
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réalisation : MARIKO OMURA