出発は女性から。マリア・グラツィア・キウリのディオール。

Paris 2020.03.31

美しくモダンなコレクションを生み続けるディオールのアーティスティック ディレクター、マリア・グラツィア・キウリ。現在のポストに就任以来、彼女は繊細なセンシュアリティ、これみよがしではない可愛らしさを込めた現代的なシルエットを提案し、着てみたい! 欲しい!と女性たちに夢をもたらし続けている。彼女はディオールにおける初の女性アーティスティック ディレクター。一部の限られた女性ではなく、世代も国籍も超えて世界中の大勢の女性たちに語りかける魅惑のコレクションの出発点には、常に女性がいて、強烈なフェミニズムのマニフェストが秘められている。

2020年春夏コレクション/カトリーヌ・ディオール

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©Hannah Reyes Morales

現在ブティックで入手できる春夏コレクションのクリエイションにあたり、マリア・グラツィアのインスピレーション源となったのは、クリスチャン・ディオールの妹の写真だった。カトリーヌは創業者の妹としてメゾンの誰からも愛される、個性あふれる勇敢な女性。愛称はミス・ディオールだった。そう、ディオール初の香水となる「ミス ディオール」とは彼女のこと。1929年の大恐慌のあおりを受けて父の会社が倒産し、ノルマンディーのグランヴィルから移り住んだ南仏で、カトリーヌはもともと愛する庭仕事に埋没。土に親しみ、季節の移ろいに沿い、自然と調和した暮らしを営んだ女性である。庭。それはクリスチャン・ディオールのおおいなるインスピレーション源であったことは、いまさら語るまでもないだろう。

春夏コレクションにはタッサーシルクやジュートなどナチュラルな素材使い、それにボタニカル モチーフがふんだんに見つけられる。カトリーヌの写真にインスパイアされたマリア・グラツィアの心に生まれた植物に恵まれた想像の世界、そこに生息する生物や植物の記録が植物標本のように紹介されている。

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2020年春夏コレクションより。

そして、「現代において植物や花々を育てることの意味は何か」、こう問いかけたマリア・グラツィアは、20世紀初頭のユートピア、モンテ・ヴェリタ(真実の山)へと導かれた。イタリアとスイスの国境に位置するアスコナの丘に生まれた前衛思想を礎としたコロニーである。イサドラ・ダンカンなど自然への復帰を求める大勢のアーティストたちを集めた場所だ。 現在、この地に立つタワーの中で、アヴァンギャルドな芸術フェスティバルが毎年開催されている。豊かな自然に恵まれたこの土地のオーラから、イエローやレッドといった色鮮やかなドレスが誕生した。

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コレクション制作にあたり、パリの自然史博物館の植物標本部門を訪問したマリア・グラツィア。

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2020年春夏オートクチュール・コレクション/ジュディ・シカゴ

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©Sarah Blais

黄金色に輝く女神たちが、次々と登場した2020年春夏オートクチュールコレクション。制作のインスピレーション源はアテナのような女神を表現した古典的な芸術作品だが、インスピレーションの核となったのは“もし女性が世界を支配したなら?”というアメリカ人アーティストのジュディ・シカゴが提起した問いかけである。マリア・グラツィアにとってコレクションはひとつのテーマを追求し、彼女独自のアプローチを発展させる機会となっている。フェミニズムとフェミニティの複雑な関係を把握し、ファッションと身体の本質的な関係に関心を寄せる彼女は、それをひとつのマニフェストとして描き直すのだ。

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2020年春夏オートクチュールコレクションより。

このショーのエスプリ、舞台装飾はジュディ・シカゴとの対話から生まれ、ロダン美術館の庭園に設置されたインスタレーション『The Female Divine』内にて発表された。これは舞台であり、またシェルターであり、女神の身体を表現したジュディ・シカゴによる巨大な作品でもある。ショー開催の後5日間、アートインスタレーションとして一般公開されるという珍しい試みがなされた。 

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花をちりばめた絨毯がシェルターへと導いたショー会場。 ©Adrien Dirand

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ジュディ・シカゴの言葉を掲げた会場のインスタレーション。 ©Kristen Pelou

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2020-21年秋冬コレクション/マリア・グラツィアのマンマ

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© Laurea Marie Cieplik 

2月末のパリコレクションで発表されたコレクションは、マリア・グラツィアの母親の2枚の写真が出発点だ。この写真から1970年代のティーンエイジャー時代に連れ戻された彼女は、このコレクションのために当時の自身の日記を通して多面的な感情を地図帳のように描いた。自叙伝、自画像、物語。さまざまな場所、イメージ、言葉を今日の視点で自由に組み合わせるのだ。イタリア人のカリスマ的美術評論家カルラ・ロンツィが『自画像』(1969年)で「どこから始めるか、それは重要ではない……」と語っているように。

そこからクリスチャン・ディオールがしたように、マリア・グラツィア自身の「ファッション小辞典」という着想が生まれることになる。このコレクションの多くのルックで登場するチェックについてムッシュ ディオールはこう記している。「若々しいトーンを与えるチェックが私は好きです。それはエレガントで同時にカジュアルなおもしろみを与えてくれます」と。マルク・ボアンによるアンサンブルではチェックが斜めに使われ、彼女にとってインスピレーション源となった。彼女のファッション小辞典に登場するピーコート、プリーツスカート、ネクタイの付いた小さな襟……マリア・グラツィアは今回も、ブティックに並ぶのが待ち遠しいコレクションを作り上げたのだ。

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2020-21年秋冬コレクションより。

会場の入口に掲げられた“I SAY I”は、カルラ・ロンツィのアーカイブを所蔵するローマ国立近代美術館でディオールの後援により3月下旬から開催される予定だった展覧会のタイトル『Il dico lo(私は私を言う)』からだ。マリア・グラツィアにこのコレクションの精神を吹き込んだカルラのフェミニスト宣言。この展覧会もそれに自由な着想を得て企画されたものだった。いずれ開催されることを期待しよう。

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ショー会場の入口。©Adrien Dirand

réalisation : MARIKO OMURA

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