パリジェンヌ、仕事の情熱 贅沢で愛らしいジュエリーを生み出すイヴォンヌ・レオン。
Paris 2020.08.17
ラグジュアリーなジュエリーというと年配女性が喜びそうな超クラシックなタイプ、あるいは裕福な階層であることを外に見せるべくトゥーマッチに輝いていたり……近づき難いというか近づくのは避けたいジュエリーであることがほとんどでは? それゆえに愛らしくてスタイリッシュなラグジュアリージュエリーを求める女性たちは、イヴォンヌ・レオンのクリエイションににっこりと微笑んでしまうのだ。
イヴォンヌ・レオン。インスタグラムは@leonyvonne
日本でも彼女によるジュエリーが少しだけ購入できた時期があるようだが、パリの6区のブティックの品揃いには敵わない。ブティックがオープンしたのは3年前。彼女が自分の名前を冠したブランドをスタートしたのは2013年に遡る。
「私は子どもの頃から美しいジュエリーに囲まれて育ったんですよ。というのも宝石商の家に生まれたからです。どちらかというとクラシックなジュエリーのメゾンで、またヴィンテージも修復して販売するということも。小さい頃の宝石にまつわる思い出はたくさんあります。父が祖母から受け継いだ昔の指輪だったり、父がクリエイトしたジュエリーを母がいつも誇らしげに着けていたこととか……アトリエではきれいな石にも惹かれましたけど、職人たちの仕事を眺めているのも好きでしたね。子どもの頃、毎週土曜にオペラ座近くのアトリエに行き、父に倣ってデッサンではなく粘土から始めるジュエリー作りを楽しんでいました」
15〜16歳の頃、イヴォオンヌが自分のためにデザインし、いまも大切に持っているのはフクロウの指輪。ゴールドのボディに大きめのダイヤモンドを使って……。いま、イヴォンヌ・レオンのブティックのウィンドウを眺めた時、カニ、魚、ライオン、トンボ、ウサギ、ヤシの木などのカラフルで愛らしいピアスや指輪が目に飛び込んでくる。ジュエリーのモチーフに自然の世界から彼女がインスピレーションを得ていたのはクリエイターになるよりずっと前からのことだったのだ。
---fadeinpager---
自然界からのモチーフで物語を……
自分のブランドを創設しようと思った時にも、頭の中に具体的なアイデアがあったという。それは彼女の父親がシステムを考案した“dessous d’oreille(ドゥスー・ドレイユ)”である。
「耳たぶの下部を装うジュエリーで、ワンポイントピアスと組み合わせて使います。80年代に父が母のためにクリエイトしたんですよ。ピアスがとても流行った時代、耳に穴をたくさん開けたくない母のために、父は過去に存在するのとは異なるシステムを考えてプレゼントしたのです。父のドゥスー・ドレイユは丸いダイヤモンドを使ったシンプルなものでしたが、私はパールや動物などで。私のブランドで父の考えたシステムを私なりの解釈でクリエイトすることは、とても自然な流れに私には思えました」
耳たぶの下部にジュエリーをフィットさせ、着ける女性自身がサイズ調整できるようにと、ドゥスー・ドレイユには3つの穴が開いている。これ単独では着けられず、ワンポイントピアスで3つのうちのひとつの穴を固定するというシステムだ。耳に穴をたくさん開けたくない女性のために、イヴォンヌはイヤーカフも多くデザインしている。着ける女性の自由に任せたいから、とイヤリングはすべて片耳販売。クラシック好みの女性はペアで購入するそうだ。
ピアスとドゥスー・ドレイユのセットは3100ユーロ。
ドゥスー・ドレイユ。パール5粒は750ユーロ。パール3粒は425ユーロ。ターコイズ4粒タイプもある。
パイナップル、ミツバチ……チャーミングなモチーフで遊べるドゥスー・ドレイユ。
ダイヤのイヤークリップは1連から5連まで(600〜3000ユーロ)。
---fadeinpager---
「自分たちのとは違って、私のクリエイションはとても個性的だと両親は言っています。私のジュエリーを見ると、両親はにっこりするんですよ。私がジュエリーを仕事にすると彼らに告げた時、とっても満足していました。私が好きなことをするのがいちばん、と考えていて……いつも私をプッシュしてくれるんです。慎重な彼らは常に私を守る立場にいてくれます、といっても出しゃばることはありません。よいスタンス、よいバランス、よいリズムで私に接してくれています。私のアイデアが実現可能かどうかなど、技術面で父に助けられることは多いですね。高価な品ですから、クオリティを保証しなくては。ジュエリーが重すぎたり、壊れやすいといったことがあってはなりません」
ジュエラーの父と分け合って使っているアトリエ。
リセの後、イヴォンヌはモードを学ぶべくエス・モードへ通った。ファッションが大好きで、卒業してからは雑誌のスタイリストのアシスタントとして働いた。その間もジュエリーへの興味はあり、自分用や友達のために作っていたそうだ。
「かなり若い時に息子が生まれたことから、雑誌の仕事は辞めて両親のところで働くようになりました。そして、まるでそうなることが明らかだったように、子どもの頃からのジュエリーへの情熱が再び湧いてきて……。クラシックな宝飾に私の異なる視線をもたらすことができたら、と思ってブランドを創設する決心をしました」
服のコーディネートを考えるように、いま、イヴォンヌはジュエリーの宝石の色の組み合わせを楽しんでいる。インスピレーション源はヴィンテージジュエリー。ヴィクトリア朝、アールデコなど時代は問わない。
「興味深いのは、私なりのミックスやひねりを利かせること。たとえばヴィンテージの指輪でフォルムが気に入ったのがあったら、色は私なりの石を見つけて……というように。紋章型の指輪も色は私好みにし、編んだゴールドで縁取りすることでヴィンテージタッチを表現しています。自分がクリエイトしたジュエリーは子どものようなので、どれが好きとか順位はつけられませんけど、ブランドの初期に作った“FEUILLETIS(フォイエティ)”はヴィンテージジュエリーにおおいにインスパイアされたもので、母や祖母を思い出させるネックレスなので特別な思い入れがありますね」
ヴィンテージタッチのネックレス“フォイエティ”。
ハートのようなクラシックなモチーフにも、イヴォンヌ・レオンはちょっとしたひねりを加えて。
---fadeinpager---
イヴォンヌ・レオンは彼女自身のブランドなので、マーケティングより優先するのは作りたいという彼女の欲求だ。女性が身に着けて快適なジュエリー、美しいジュエリー、ほかのメゾンとは違うジュエリーを求めて彼女はクリエイト。身に着ける女性の具体的なイメージはなく、特にターゲットも絞っていない。若い女性から70歳の女性まで客層は幅広いことが、ブティックを持ってわかったという。
「売れるか売れないかといったことはあまり考えず、私自身が好き、というジュエリーを作っているといえるでしょうね。このシーズン、私は何を着るだろう? ではそれに合うジュエリーは?というように。どんなジュエリーを私は着けたいかしら?ということが、クリエイションにおいてとても大きいです」
ジュエリーひと筋のクリエイターとは異なり、モード好きの彼女ならではのアプローチをする。既成概念を崩すことを楽しむのもそれゆえだろう。たとえば女性の顔に輝きをもたらすエレガントでフェミンなパール。この超クラシックな石を使うのが彼女は大好きだ。ミックスすることでパールの持つイメージを変調することで、とてもモダンなジュエリーを作れるからだという。
パールのネックレス(左)とイヤークリップ(右写真上/490ユーロ)。
「イヴォンヌ・レオンのベストセラーは間違いなくドゥスー・ドレイユですが、いま、それに次ぐのはネックレスの、“collier solitaire(コリエ・ソリテール)”。宝石商のコード、それは誰もが持っている、あるいは持てたらと願っているソリテール(一粒ダイヤ)です。とてもクラシックなので、それをいまの時代に再解釈したいってかねがね思っていたんです。でも、なかなかいいアイデアが浮かばず……。前回のコレクションの時に、2タイプのチェーンのネックレスで!と思いつきました。ひとつはクラシックなチェーン、もうひとつは長方形を繋げたヴィンテージタイプのチェーン。それをイエローゴールドとホワイトゴールドのバイカラーにしました。希望があればイエローゴールドだけでも作りますし、たとえば母親から贈られたというようなダイヤの持ち込みも可能です。これはアトリエがあることの強みですね。この世界は皆が知り合いという小さな世界なので、ジュエラーをゼロからスタートするのはとても難しい。私は両親のアトリエを使うことができるので幸運です。もしこの世界に生まれていなかったら、別の方向に進んでいたと思います」
大小2サイズあるコリエ・ソリテール。ダイヤモンドはラウンドシェイプとペアシェイプの2タイプがある。
ファッション性が高く、若い女性も手に取りたくなるイヴォン・レオンのジュエリー。ヴァンドーム広場の老舗の価格よりは入手しやすいとはいえ、ファンタジージュエリーではないので、“小さなカニのピアス、可愛い!”と目を輝かせても、それなりの価格である。3年前に左岸にブティックを開いた際に、大勢の女性たちに向けたリーズナブルなマドモアゼル・コレクションをスタートした。ヤシの木やカニなどのモチーフはジュエリーを製作する職人仕事もメインコレクションと同じだが、近づきやすい価格を可能にするため、使う石を少なくし、さらに18ではなく9カラットのゴールドを使用している。このマドモアゼル・コレクションの中には紋章リングのシュヴァリエール・マドモアゼルというコレクションも含まれ、こちらも好評だそうだ。
マドモアゼル・コレクションのシュヴァリエール。ハート、ラウンド、シェルなどフォルムさまざま、素材もさまざまだが、どれも小さなダイヤモンドがはめ込まれている。マザーオブパールを使い、猫の顔を描いたシュヴァリエールがとてもチャーミング。シュヴァリエール・マドモアゼルの価格は素材とサイズによるが500ユーロ前後〜。メインコレクションのシュヴァリエールは、全面がダイヤモンドのパヴェで覆われたゴージャスバージョンだ。
「ブティックの物件を探す時に、サントノーレ通りか左岸かな……と。確かにジュエラーは右岸に多いけれど、かつてジュエラーのポワレだった左岸のこのブティックを見て、広場に近く、パリっぽいので気に入りました。私は右岸でも左岸でもどちらでもよかったのですけど、いま思うとここに決めてよかったと思っています」
「店内のインテリアはイザベル・スタニスラスという建築家に依頼しました。エリゼ宮の一部を手がけた、とってもパリ的な内装の仕事をする人で、私の期待どおり、温かみの感じられる宝石箱というインテリアに仕上げてくれました。ブティックでお客様と直接会えるのが、とてもうれしいです。お店を持ってわかったのは、女性客の年齢がとても幅広いことです。たとえば70歳の女性。彼女たちはクラシックなジュエリーはひと通り持っているので、個性的な品を求めているのですね。私のジュエリーを女性たちが着けて満足してくれることが、何よりの喜びです」
ブードワール的な雰囲気の店内。ジュエラーにありがちな角ばったデスクではなく、クライアントと彼女が話しやすいように丸テーブルが置かれている。
25, rue du Vieux Colombier
75006 Paris
営)11時〜19時
休)日
tel:01 43 25 36 39
https://yvonneleon.com/fr
【関連記事】
ジョリーンはファンシージュエリーを提案するオンラインショップ。
パリジェンヌ、仕事の情熱:陶器を作るマリオン・グロー。
réalisation : MARIKO OMURA