パリ・モード界の新星【2】 ヴィクトール・ヴァインサント。
Paris 2020.10.19
9月28日から10月6日まで開催された2021年春夏シーズンのパリコレで、「Weinsanto(ヴァインサント)」は先陣を切って初日にフィジカルなショーを開催した。ヴィクトール・ヴァインサントが今年の初めに設立したブランドで、彼は早くも2月にファーストコレクションを発表していている。この時はプライベートクライアントが対象だったが、2021春夏コレクションは、来年パリにオープンする「Dover Street Trading Museum Paris」にて販売されるそうだ。これはドーヴァー・ストリート・マーケット・パリ(以下DSMP)が育成するブランドや提携するブランドなどを扱う新しいコンセプトストア。まだ場所も日程も公表されていないけれど、春夏物を扱うことを考えると2021年のかなり早い時季に期待できそうだ。
ヴィクトール・ヴァインサント。彼は髪の色を頻繁に変える。ファーストコレクションでは、ブルーヘアでショーの最後に登場した。photo : Maxwelle Aurélien James
17歳までクラシックバレエを習っていたヴィクトール。方向転換をしてアトリエ・シャルドン・サヴァール校でモードを学び、Y/プロジェクト、クロエなどを経て、2年間ジャン=ポール・ゴルチエで働き、今年1月23日に行われたゴルチエの50周年のキャリアを祝う最後のショーでは彼もアトリエで服作りに大活躍した。その直後に独立して自身のブランドを設立。ヴィクトールの自由な発想の服作り、楽しく奇抜でファンキーなショーを見ると、敬愛するゴルチエから多くを吸収し、影響を受けたことが一目瞭然である。このショーでは最前列にそのゴルチエ師匠が座り、さらに会場にはアーティストのピエール&ジルの姿も。ヴィクトールは彼らの作品のモデルを務めたこともあり、またマレ地区のギャラリーで開催中のピエール&ジルの新作展『不動の彷徨』のための衣装を彼らとコラボレーションをした、という関係だ。
ヴァインサントの2021年春夏コレクションより。 ピエール&ジルとのコラボレーションによるビュスチエドレスをボディとコーディネートして。
コレクションより。インテリアファブリックのような立体感のある素材をドレスとパンツに。
幾何学模様の糸がほぐされたジーンズ素材を色違いの組み合わせで。
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ヴァインサントの2シーズン目のコレクションは“Call Me Nina”。ニーナとはドイツのパンクシンガー、ニーナ・ハーゲンのことだ。長いキャリアにおいて容貌がさまざまに変容した彼女にインスパイアされた彼が作ったのは、パンキッシュでセクシー、そしてグラマラスなコレクション。ピエール&ジルとのコラボレーションによるパープルのサテンのコルセットドレスもこのコレクションに含まれ、キールックのひとつとなっている。服は身体のラインに沿ったほっそりフェミニンなシルエットがメインだが、カットが美しく、ストレッチ素材なので動きやすい。ピンク、パープル、ブルーなど色使いは鮮やか。プリントはTVのスクリーンに起きるバグ模様をアールデコ的に昇華させたデジタルグラフィックで、レトロフューチャーの美にインスパイアされると語る彼らしい仕事が見られる。ショーでは男性モデルも交じり、デニムのコートやサテンのサロペットなどを披露。というように、ヴァインサントにはノージェンダーアイテムも。このコレクションで彼は初めてバッグも発表。ベルトの位置をつけかえると、ウエストポーチになる賢い2ウェイバッグだ。これはアーティストのRomain Eugène Campensが手描きしたもので3タイプある。
ヴィクトール自ら演出した、エネルギーあふれるショー。
革のケースのようなしっかりしたフォルムのバッグがショーでも紹介された。
さてドーヴァー・ストリート・マーケットCEOであるエイドリアン・ジョフィとヴィクトールの出会いは、というと、これは3月に開催された彼の最初のショーにさかのぼる。南仏の地名カーニュ・シュル・メールをもじって“コンヌ・シュル・メール(海辺のおバカさんの意)”とタイトルし、ユーモアあふれる陽気でカラフルなコレクションをヴィクトール自ら演出して展開。このショーを見たエイドリアンは、新しい才能を集めてDSMPが開催しているショールームで、今回のヴァインサントのコレクションを展示することを決めたのだ。「僕の最初のショーにエイドリアンが来てくれて、すごく感動しました。光栄です」と喜ぶヴィクトールは、彼のアドバイスによって今回より思慮に富んだコレクションを作り上げることができたと語る。26歳の彼のブランドが、今後DSMPとともにどう成長してゆくのか楽しみにしよう。
réalisation : MARIKO OMURA