シャネル N°5、ガリエラ美術館で輝く100年前のボトル。

Paris 2021.01.20

※ 美術館は現在閉館中です。再開については、公式サイトで情報をご確認ください。
www.palaisgalliera.paris.fr

2年がかりの改修拡張工事を終えたガリエラ宮パリ市立モード美術館で、昨年10月1日にシャネルの支援のもと開催が始まった「Gabrielle Chanel. Fashion Manifesto(ガブリエル・シャネル、ファッション・マニフェスト)」展。フランスの2回目の外出制限措置に伴い、10月29日から美術館は閉鎖され、いまの予定では1月末までこの素晴らしい展覧会を誰も見ることができないという残念な状況だ。開催初日からクローズまでの約3週間だけで来場者はすでに4万人というから、再開を首を長くして待つ人の数はどれほどだろう。今年2021年はガブリエル・シャネルの没後50周年であり、また、シャネル N°5誕生の100周年という記念すべき年だというのに……。

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1937年、「ハーパーズ・バザー」誌のシャネル N°5 の広告キャンペーンに使われたのは、オテル・リッツ・パリの彼女のスイートでフランソワ・コラールが撮影したガブリエル・シャネル本人の写真だ。© Ministère de la Culture – Médiathèque de l’Architecture et du Patrimoine, Dist. RMN-Grand Palais / François Kollar

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この展覧会はフランスにおける初の回顧展で、ガブリエル・シャネルの人生ではなく仕事に注目したものだ。もっとも彼女は自分のためにデザインをしていたので、展示された服を通じて彼女という女性を知ることができる。展示品は、1910年代から71年春夏コレクションまでの約350点。新しいエレガンスを提案し続けたガブリエル・シャネルの仕事を語るにあたり、香水もひとつのテーマとしてスペースが割かれている。小さな空間の中央で下からの照明によって透明な輝きで来場者を迎えるのは、1921年のN°5のすっきりと直線的な、極めてシンプルなフォルムのボトルだ。

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1921年、シャネル N°5のボトル。この香水のボトルのキャップの上に、CCマークが初登場した。なおキャップは1924年に現在のエメラルドカットに変わった。 Paris, Patrimoine de CHANEL ©Julien T. Hamon

1921年に生まれた N°5もまたクチュールのドレスと同じようにガブリエル・シャネルのマニフェストである。当時、香水はバラやスズランといったある特定の花の香りが主流だったのだが、彼女が求めたのは「女性そのものを感じさせる、女性のための香り」だった。恋人ディミトリー大公からコートダジュールで紹介されたロシア人パフューマーのエルネスト・ボーに彼女が伝えたのは、ひとつの花の香りではなくクリエイションがほしいのだということ。合成香料アルデヒドを合わせることで、ジャスミンやイランイランといった花の香りに曖昧さをもたらし、ミステリアスで変化に富んだ抽象的な香り、モダンな女性のための目に見えないアクセサリーとしての香水が世に生み出されたのだ。中身だけでなくボトルも革新的。というのも、リュクスな香水はラリックなどによる装飾性の高いボトルにおさめるのが常だった時代に、亡き愛人ボーイ・カペルが生前よくウィスキーを入れて持ち歩いていたスキットルにアイデアを得たという、極めてシンプルなボトルを彼女はデザインしたのだ。パッケージングも白と黒で構成され、とてもグラフィック。さらにボーによる香りの試作番号である5番を香水名にするというように、ネーミングもまた時代の先をゆくものだった。販売は1921年5月5日にカンボン通り31番地のクチュール店でスタート。1925年、N°5は世界でもっとも売れた香水に。

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左は1926年春夏コレクションのシルクのジャケットとワンピース。右は1920〜23年の秋冬コレクションのドレス。どちらも「Gabrielle Chanel. Fashion Manifesto」で展示されている。彼女のデザインするミニマルなクチュールピースの見えないアクセサリーとしてN°5がクリエイトされた。Paris, Patrimoine de CHANEL ©Julien T. Hamon

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この小さな展示室でエンドレスに響くのは、マリリン・モンローの語る声だ。彼女が1952年に「Life」誌のインタビューで、「寝るときはシャネル N°5を数滴……」と答えたことは有名で、当時アメリカで絶大な人気を誇っていた香水が、彼女のこの発言でさらに売上を伸ばしたのはいうまでもないだろう。それから半世紀以上が経過し、いまもN°5は世界中の女性たちを魅了し続けている。不朽の名香だ。

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1924年、香水の会社が設立され、カタログが作られた。ガブリエル・シャネルのマニフェスト、美のビジョンが語られている。photo:Mariko Omura

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1924年にメイクアップ、1927年にスキンケア商品が発表された。日焼け用のプロダクトもあれば、また週末用のスキンケアプロダクト、携帯用香水スプレーなども販売。モードにおけるのと同様にシャネルは女性のライフスタイルの変化に機敏に対応したことが読み取れるビューティプロダクト、また香水ボトルの変遷を会場の展示で見ることができる。photos:Mariko Omura

『Gabrielle Chanel - Manifeste de mode』展
開催中〜2021/3/14(予定)
Palais Galliera
Musée de la ville de Paris
10, avenue Pierre 1er de Serbie, Paris 16e
75116 Paris
開)10時〜18時(木・金 〜21時)
休)月、12/25、1/1
料:14ユーロ
www.billetterie-parismusees.paris.fr

réalisation : MARIKO OMURA

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