パリ、モードは元気だ。 ヴィクトリア/トマス、これからは100%リバーシブル!
Paris 2021.02.03
モード学校で出会ったロシア出身のヴィクトリア・フェルドマンとラトビア出身のトマス・ベルザン。ふたりが21歳と23歳だった時に、ブランドVICTORIA/TOMASをデビューしてから8年になる。昨年9月のパリコレで、彼らは“2021年春夏コレクションから、100%がリバーシブル”と宣言し、新しい冒険に乗り出した。ショーでは2人のモデルが並んで登場し、ふたつの顔をもつ一着の服の連続にバイヤーやジャーナリストは驚きの拍手を送った。
ヴィクトリア(左)とトマス(右)。ブランド継続の秘訣は、忍耐と教育だとトマスが語る。photo:Marion Colombiani
「昨年春の最初の外出制限期間中、3月末から4月の上旬にかけて考え始めたことです。世の中でこうしたことが起きているのに、何事もなかったかのように次のパリコレでこれまで通りのコレクションを出すことはできない、って。単に美しいというだけの品ではなく、環境に優しいことを目標にするという……でも、そこから、どのようにリバーシブルにいたったのか……指をパチンと鳴らして、“リバーシブルにしましょう!”という感じではなかったわ(笑)」(ヴィクトリア)
「ふたりで議論を交わし、話し合って、話し合って。1カ月以上そういう日が続きましたね」(トマス)
「型紙を起こし、試作品を作り、何度も試して。利点もあれば、不都合もあって、何週間も試みの繰り返しを続けました。本当に100%リバーシブルは可能なのだろうかって……。いまの時代、消費者はひと目惚れでは服を購入しなくなっています。どこで製造されたのか、長持ちするか、といったことを考えます。買う服の量も減っています。環境に優しい素材を使う、というのは外出制限期間以前から始めていて、たとえば、2020-21秋冬コレクションで使ったレザーは、作業の各段階がしっかりフォローされたエコロジカルなタイプでした。マスマーケットの服作りはともかく、クリエイターたちにとってこうしたことは、いまやニューノーマルとなっていますね」(ヴィクトリア)
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100%リバーシブル宣言をした、2021年春夏コレクションより。2人のモデルを並ばせて、一着の服の両面を見せた。
ショーでは右側のモデルがベーシックな面を、左側のモデルが遊びのあるデザインの面で。左の写真のシャツルックは人気ピースのひとつ。
右のベーシックな面を着た時には、左の重ね着風の半袖シャツの存在がまったく見えないデザイン。
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ふたつの顔を持つ一着。
ヴィクトリア/トマスというブランドでリバーシブルの服を過去にクリエイトしたことがなかっただけでなく、ヴィクトリアはリバーシブルの服を着た経験がなかったそうだ。トマスが子ども時代にリバーシブルの服を着た記憶があるというと、ヴィクトリアは次のように語った。
「そう、リバーシブルというと機能的なスポーツウエアだったり、アウトドアウエア、子ども服というような意識が一般にありますね。シャツやワンピースといった日常に着る服ではなくて。私たちのリバーシブルのコンセプトは、両面が異なることです。片側はワークウエアにインスパイアされたシンプルなタイプ。もういっぽうは、ディテールなどにクリエイションを生かした遊びのあるデザインです。リバーシブルというのはもともと存在するもので、私たちが発明したのではないけれど、リュクスな分野でこうした100%リバーシブルのコレクションを提案するクリエイターは私たちだけです」
片側(写真左)はジャカード素材を使い、遊びあるデザイン。この面を着た時、ストライプは完全に隠れる。もう片側(写真右)はコットンストライプのベーシックなデザイン。袖、襟、裾からパープルが顔を出す。タイプの異なる服ゆえ、ボタンも変えている。タグは片側が白、もう片側は黒。
「リバーシブルだと素材が二重になるケースが多く、素材の選択には気を使います。でも、特に技術的な難しさというのはないですね。糸巻きから良い糸を引っぱり出した、という感じにごく自然にするすると事は進んでいって……。よい扉を開いたという感じでしょうか。9月に実際にショーができるかどうか、というような不安はありました。でも、新しいコンセプトを発表するためにモデルを並んで歩かせる、という試みを考えたり、楽しむことができました」
ショー後のセールスの前に、自分たちのリバーシブルのコンセプトがバイヤーたちに理解されたか、リバーシブルゆえにリュクスな服と見なされないのではないかという心配があったそうだ。セールスはスクリーン越しに行われたが、彼らが服を見せると“本当にそれ、同じ服なの? まさか!!”と驚かれ、バイヤーたちの反応もよく、また初めて買い付けをしたブティックもあって、とよい結果が出た。価格についても努力をし、一着に2つの服が込められているので使う素材も仕事量も多いが、2倍の設定にはしていない。
「いまの時代、ほかのブランドと異なるものを提案するだけでなく、価格的にも興味深いものを提案する必要があると思うのです」(ヴィクトリア)
左:コレクションは19区のアトリエで製造される。ポケットの内側にメイド・イン・フランスとこっそり。 右:販売される一着ずつに添えられる100%リバーシブルのステートメント。Binôme(2人一組)と掲げられている。この名前でセカンドラインを始めることを以前は考えていたそうだ。リバーシブルのコレクションにより、Binômeという言葉がより意味を持つように。photos:Mariko Omura
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この2021年春夏コレクションを境に、彼らは発表するコレクションを年2回に減らすことにした。その代わりとしての新たな試みは、100%デジタルなコレクション。早速今年のプレフォールからスタートした。フィジカルなセールスが行われないので、サンプルを作らず。彼らのクロッキーと布見本をもとに、イラストレーターが描いたルックブックで発表し、かつよりエコフレンドリーな方法として、無駄の出ない受注生産方式をとる。次に発表する2020-21年秋冬コレクションでは、コートはもちろんニットもリバーシブルだ。デザインはすでに終わっていて、アトリエでは試作が始まっているという。どんなリバーシブルを提案するのか、楽しみにしよう。
プレフォールコレクションより。左のように、ヴィクトリア/トマスのリバーシブルは色だけでなく、素材もシルエットもまったく異なる2着になるというのが特徴だ。
パリ、19区のアトリエ。パリ市が若い企業に提案する低家賃のスペースを借りられる幸運に恵まれた。エコフレンドリーのため、生地のストックも行い、また生産もここで行うためにいささか手狭になってきているそうだ。photo:Mariko Omura
réalisation : MARIKO OMURA