ダリとガウディ、デジタルアートがカラフルに炸裂。
Paris 2021.05.20
2018年春に開館したパリ初のデジタルアートセンター「L'Ateliers des Lumières(アトリエ・デ・リュミエール)」。創業時からアーティスティックディレクションを務めているのは、ジャンフランコ・イアヌッツィである。2021年のプログラムは『Dali, l'énigme sans fin(ダリ、果てしなき謎)』(45分)と『Gaudi, architecte de l'imaginaire(ガウディ、想像の建築家)』(15分)の2本だ。スペインを代表するアーティストと建築家の作品で構成された約1時間のデジタルアートが、1500㎡の広々とした会場をパワフル&カラフルに満たすさまは圧巻だ。
5月19日に美術館の再開が可能となったフランスでは、待ってましたとばかりに山ほどの展覧会がスタートした。海外旅行がままならない時期。展覧会によっては早々に終了するものもあるが、アトリエ・デ・リュミエールのプログラムは年明けまでの会期なのが、うれしい。
来年1月2日まで開催される。©Les Ateliers des Lumières
---fadeinpager---
ダリの謎めく世界を体感
サルヴァドール・ダリ(1904〜1989年)の60年にわたるクリエイションから、この『ダリ、果てしなき謎』のために選ばれた作品は美術館や個人宅など世界各地に散在するが、実際に作品をパリに集める必要がないのがデジタルアートの利点といっていいだろう。45分のプロジェクションはプロローグを含め。12のテーマで内容豊かに展開。音楽はピンク・フロイドの代表的なアルバムからの抜粋が用いられている。
新生または生前の人生の象徴として卵を作品に登場させていたダリ。プロローグではその卵から生まれるかのようにダリが姿を現し、鑑賞する人々を非現実世界へと誘うのだ。最初のテーマでは、若き時代にダリが描いたカダケスの風景画、ガラに出会う1929年まで彼のモデルを務めた妹アナ・マリアの姿も。小さな港町カダケスは、1920年代のシューレアリストたちの溜まり場で、マドリッドの美大を放校されたダリはここで彼らと知り合うのである。ちなみに彼のミューズとなるガラは、その中のひとり、詩人のポール・エリュアールの妻だった女性だ。
アナ・マリアをモデルに描いた1925年の『窓辺の少女』やカダケスの風景。ダリにしてはソフトな色調でスタートする。photo:Mariko Omura
その後、「劇場-美術館」「形而上のシュレアリズム」「記憶の喚起」と続く中に、見慣れたダリの作風による絵画が次々と現れては、消えてゆく。次いで「ジュエリーとメイ・ウエスト」のパートでは、1941〜70年にかけて彼がジュエリーのデザインを手がけていた事などを思い出させる。
左:ジャン=フランソワ・ミレーの『晩鐘』を独自の解釈でダリは制作。 右:飛び出す虎は、『目覚めの直前、柘榴のまわりを一匹の蜜蜂が飛んで生じた夢』(1944年頃)からだ。photos:Mariko Omura
左:ダリがデザインした一点もののジュエリーが壁を埋める。 右:ハリウッド女優メイ・ウエストの顔のパートをインテリアの家具や装飾に、とシュールなアパルトメント作りをしたダリ。彼女の唇のフォルムの真っ赤なソファは商品化されている。photos :(左)Mariko Omura,(右)© Salvador Dalí, Fundació Gala-Salvador Dalí, ADAGP 2020/Les Ateliers des Lumières
「映画と写真」のパートでは、それまでのカラフルな世界が一転してモノクロームに。アルフレッド・ヒッチコックによるサイコサスペンス『白い恐怖』(1945年)でグレゴリー・ペックが演じる主人公の夢のシーンのためにスケッチをダリは制作している。その一点の眼、眼、眼……が会場いっぱいに。次の「初期のシューレアリズム」は、ダリの有名なシューレアルな絵画で構成。「二重のイメージ」「核兵器破壊」「キリストとガラ」と続き、45分のプロジェクションは「ネオクラシック」で締めくくられる。
ヒッチコック監督の『白い恐怖』(1945年)のためのスケッチから。photo:Mariko Omura
「キリストとガラ」より。1940年頃からルネッサンス、古典主義、宗教画に興味を抱いたダリ。1940年代後半、古代ギリシャ神話のレダに着想を得た『レダ・アトミカ』では、白鳥に座ったスパルタの女王としてガラを描いている。photo:Mariko Omura
---fadeinpager---
ガウディのファンタジーに埋もれる
ダリのおおいなるインスピレーション源、それは建築家アントニ・ガウディだ。風変わりで挑発的とみなされたガウディの建築物をダリは擁護した。ガウディの作品群は、2005年にユネスコの世界文化遺産に登録されている。この『ガウディ、想像の建築家』ではグエル公園、カサ・バトリョ、カサ・ミラ邸、サグラダ・ファミリアなどの建物を、夢と現実の間の旅として約15分の映像で紹介。カラフルなモザイクタイルが会場に散りばめられると、鑑賞者はまるで万華鏡の中に閉じ込められたような錯覚に陥ってしまう。
目眩を感じさせるようなグエル公園のうねり、モザイクタイルのプロジェクション。photos:Mariko Omura
未完成のまま世界文化遺産に登録された珍しいサグラダ・ファミリア。着工されたのは1882年である。photos:Mariko Omura
バルセロナ市内の邸宅から抜け出したアールヌーヴォー調のディテールが、拡大され、這い回るように動く。photos:Mariko Omura
Les Ateliers des Lumières
38, rue Saint-Maur
75011 Paris
開催)〜2022年1月2日
開)10時〜20時
休)なし
料)14ユーロ
www.atelier-lumieres.com
réalisation : MARIKO OMURA