さよならブラジャー、その理由。
Paris 2021.06.17
新型コロナウイルス感染症のパンデミックで、フランスでは3度にわたるロックダウンが実施されました。この間、女性と身体との関係にある変化が起こったといいます。パリ在住のジャーナリスト、レベッカ・ジスマヌからのレポート。
最初のロックダウンから1年あまり、フランスのファッションはどう変化した? photo : iStock
スカートやヒールを履いて仕事に行く必要がなくなって1年が過ぎた。ロックダウン期間中、多くの女性が自宅でのオンライン会議に、ジョギングパンツやレギンスのような部屋着にきれいめのトップスを合わせて臨んでいた。あのアナ・ウィンターがお手本を示したように。そしてこの期間中、「ノーブラ」の楽ちんさに味をしめた人も多いようだ。
ハフィントンポストによると、2020年6月のIFOPの世論調査で「ブラジャーを着用しない、またはほとんど着用しない」と回答した18〜25歳の女性は18%。ロックダウン前にそう答えたのはわずか4%だった。すべての世代で「もうブラジャーを着けない」と答えたのは7%だったが、それでも2020年2月の3%からは4ポイント増加している。彼女たちの多くは、快適さのためにブラジャーを着けるのをやめたと答えている。また、18〜25歳の回答者の3分の1は、女性の身体、特に乳房が性的な器官として扱われることに対抗するための行動だと答えている。
私もこのパンデミックで、ブラジャーをほとんど着用しなくなったひとり。ロックダウンの期間中、ノーブラの快適さに気がついた。そして、ブラジャーのワイヤーによって付いた胸の傷にも。そこで最近では、カラフルな厚手のトップスを着るときはブラジャーを付けないことにした。
ただし、白や透け感のある薄手の服を着るときは、1度目のロックダウンが解除された後、最初にお店で買ったワイヤレスブラを付けている。私と同様、乳房が透けることにとまどいを覚える女性は少なくない。というのも、乳房がシャツから透けて見えることが社会的に認められていないのはもちろん、危険にさらされる可能性さえあるからだ。
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ノーブラで嫌がらせや暴行のリスクが高まる?
IFOPの調査によると、フランス人の48%が、ブラジャーを着けていない女性は嫌がらせや暴行を受けるリスクが高いと考えているようだ。さらに悪いことに、レイプされた女性が、乳房の形がわかるようなトップスを着ていた場合、加害者を裁く際の緩和要因になるべきだと考える人が20%もいる。
【関連記事】性的暴行の被害者がノーブラの場合、情状酌量の対象に?
また18〜25歳の女性の40%が、自分の胸について不愉快な性差別的発言をされた経験がある、と回答。そのうちの半数は、男性の視線を避けるために、スカーフやカーディガンで胸を隠したことがあると告白している。このような中、パンデミックが終息し、みんなが街を歩き、交通機関を利用し、仕事に戻るようになると、ノーブラのスタイルを貫くのは難しいと言わざるを得ない。
『解放された胸を求めて』の著者であり、政治学の教授でもあるカミーユ・フォアドゥボー・メトリー(1)は、リベラシオン誌にロックダウンとフェミニズムについて、次のような論考を寄せた。「女性にとってのロックダウンは、家の外に一歩出た瞬間から常につきまとう、自分の身体をじろじろと見られる視線から解放されることを意味する。女性が自分の外見に気を配るのは、外に出れば見られることを知っているからであり、自分を判断し批判する男性や女性の視線を内面化しているのです」
ロックダウン中、女性たちはようやく、商業的、家父長的な美の基準から離れて、自分の身体を自分自身の基準でコントロールする機会を得た。これは、ボディポジティブ運動が以前から主張してきたことに近い動きとも言える。
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パンデミックはファッションの転換点になるか
フランス革命、第二次世界大戦など時代の大きな転換期に女性たちのファッションも変化してきた。 photo : iStock
歴史を振り返ってみると、フランスではファッションはしばしば歴史の転換機に、大きな変化を遂げてきた。フランスの女性たちがコルセットやパニエを脱ぎ捨てたのは、革命後のことだった。それらの服は、没落した貴族を連想させるという理由で隅に追いやられた。また、第二次世界大戦後には、男性に代わって工場で働くために身につけたズボンを、多くの女性がはき続けた。ズボンは、女性の解放とキャリアの象徴となったのだ。
新型コロナウイルスが私たちの生活に長期的にどのような影響を与えたのか、まだ十分にはわからない。しかし、自分の身体とそれをどのように世間に示すか、多くの女性が考え直すきっかけになったようにも思える。
パンデミック後、ファッションデザイナーたちにとっても、“快適さ”は優先事項となったようだ。ディオールは2020年秋、ラウンジウエアに特化したブランド初のカプセルコレクション「ディオール シェ モワ」を発表。そのほかのブランドのコレクションでも「ホームウエア」が注目を浴びている。
ファッションの世界は、すべての女性、そして全ての人が直面した人生を変えるような社会の変化に合わせ、確実に変わってきているようだ。
(1)Camille Froidevaux-Metterie著、『Seins, en quête d'une liberation』
レベッカ・ジスマヌ
パリを拠点に活動するジャーナリスト。日本にも滞在経験があり、日本映画の大ファン。
text : Rebecca Zissmann