リヨンの織物とイヴ・サンローランのオートクチュール。

Paris 2021.06.24

パリのイヴ・サンローラン美術館で始まった『リヨンにおけるオートクチュールの舞台裏』。リヨンの織物美術館との共同企画で、すでにリヨンでは2年前に開催された展覧会なのだけれど、パリでの開催は待った甲斐あり! リヨンでは展示されなかったクチュールピースが見られるだけでなく、会場はかつてのクチュールメゾン内にあるので、イヴ・サンローランが仕事をしていたスタジオの見学も展覧会のコースに含まれているのだから。開催は12月5日まで。ガリエラ美術館でのシャネル展は7月18日までの開催。それ以降にしかパリに来られない人にとって、これが今年後半で唯一のモード展となる。

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左:展覧会のポスター。 右:展覧会の入り口で、生地の山を背景にした若きサンローランの写真に迎えられる。photo:(右)Mariko Omura

サンローランがクロッキーを描く時、“生地がすべての基本”と考える彼の頭の中では、どの生地を使うか、というのがすでに決まっていたそうだ。この展覧会は30点近いクチュールピースを展示して、彼のオートクチュールのベースとなる織物とクリエイションの関係、織物製造業者についてフォーカスしている。オートクチュールというと、日頃は施されている刺繍やプリントがクローズアップされがちだが、この展覧会の主役は生地そのもの。導入部では、パリから遠く離れたアルジェリアのオランに暮らしていた、16歳頃のイヴ青年が準備した架空のクチュールコレクションを紹介。展示されている彼の手による“ペーパードール”は、雑誌のページから切り抜いた当時のトップモデルに、創作したドレスを紙で装わせたものだ。それらドレスには具体的にどの織物屋のなんという名前の生地を使うかも彼は指定。当時、雑誌がクチュールドレスの写真を掲載する際には、必ず生地のメゾンの名前もクレジットされていて、イヴ青年にとって雑誌は貴重な情報源だったのである。

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1958年にクリスチャン・ディオールの後継者として、彼がクチュリエ・デビュー・コレクションを発表したのは21歳の時。これはそれ以前に、彼が自分のためにオランで作り上げたペーパー・ドール・コレクション発表のショーのプログラムとそのカバーだ。1953-54年秋冬コレクションで、開催地はヴァンドーム広場! ©Fondation Pierre Bergé - Yves Saint Laurant

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チャーミングでつい見入ってしまうペーパー・ドール・コレクション。©Fondation Pierre Bergé - Yves Saint Laurant

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ここでは、クチュリエデビューしたメゾン・ディオール、そして自身のクチュールメゾンで撮影された彼と布の関係を表すモノクロ写真も展示。またその奥の部屋では、日頃公開されないメゾンの生地管理倉庫を写真で見ることができる。この倉庫に業者からの布地が集められ、ここからサンローランのスタジオへと彼が必要とする布が必要な時に運ばれていったそうだ。

生地は織物の複数の製造業者を取りまとめる業者を介して、メゾンに提案され、納入され……。そんな中には、イヴ・サンローランに気に入られるのでは?と期待をこめて織られた生地も含まれていた。業者のイニシアティブで織られる生地なので、気に入られなければ自己負担、使われることになったらメゾンが支払うという方式だったという。プレタポルテが1968年に台頭するまで、女性たちはオートクチュールで発表された服を自分の行きつけの洋裁店に作らせていたので、同じ生地を求める女性たちは多く、生地屋たちはショーの写真を使って雑誌に広告を出していた。

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雑誌の広告写真ではYves Saint Laurentとメゾン名が大きく出ているが、広告主は織物業者。生地がよく見える、あまり雰囲気の感じられない写真なのがこれらの特徴だ。photo:Mariko Omura

これがエントランスの向かって左の導入部で、続きはエントランスの右側の会場へ。イヴ・サンローランが40年仕事をしたリヨンの主な7つの織物のメゾンにスポットを当てている。ドレスが生地から出発して、ショーで発表するまでの工程を一着のドレスを例に解説。次のスペースで展示されている彼の最後のショーで発表されたドレスは、まるでマネキンが生地そのものを纏っているかのようなシンプルなデザイン。流れ落ちるシルエットが実に美しい。

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アーカイブには一着ごとに詳細な情報が残されている。使用した生地メーカー名、生地名、使用メートル、ポラロイド……こうした情報によってドレスの再現が可能となる。会場では1996年春夏オートクチュールコレクションでモデルのクリステルが着たドレス(写真左)を例に、情報、生地見本を展示。photos:(左)Guy Marineau ©Yves Saint Laurent、(右)Mariko Omura

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左:門外不出のジャケット「Picasso」は、リヨンでの展覧会では展示されなかった。 右:最後のショーのドレス。しなやかな布地が包む身体はコルセットで補強されている。

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その上のフロアは、「ドレス“シェイクスピア”:リヨンが誇るサヴォワールフェールの合体」というテーマの一室。作家や詩人たちにオマージュを捧げた1980年秋冬コレクションで発表された、まるで舞台衣装のようなマリエ“シェイクスピア”を展示している。なぜ、このドレスか、というと、リヨンを代表する複数の絹織物業者の生地が使われた一着ゆえだ。コートはBucol、ドレスはAbraham、その飾りにはMérieux、腕周りのラメのドレープはBianchini……。この会場はゴールド系のドレスが集められ、きらびやかである。

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左:1980年秋冬オートクチュールコレクションのドレス“シェイクスピア”。 右: スタジオがバイブルカードと呼ぶ、このドレスの生地の詳細を記したカード。photo:(左) Mariko Omura、(右)©Yves Saint Laurant

この部屋のさらに上のフロアがサンローランのスタジオ。彼とコラボレーターたちが布をめぐるやりとりをした光景や、ハウスマヌカンが纏った仮縫いのドレスを鏡越しにチェックするサンローランの姿などを目に浮かべながら、見学してみよう。

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サンローランが仕事をしたスタジオ。左が彼のデスク、右はルル・ドゥ・ラ・ファレーズやアンヌ・マリー・ミュノーズといった彼が信頼を置くコラボレーターたちとのデスク。

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左:アンヌ・マリー・ミュノーズ、ピエール・ベルジェとともに、1977年。 右:キラット・ヤングとのフィッティング。このように彼は必ず鏡越しに服を見たそうだ。photos:Guy Marineau ©Yves Saint Laurent 

『Yves Saint Laurent, Les coulisses de la haute couture à Lyon』展
Musée Yves Saint Laurent
5 Avenue Marceau, 75116 Paris
会期:開催中〜12月5日
開)11:00~18:00
休)月~水
料)10ユーロ
museeyslparis.com

coordination: Mariko Omura

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