Hot from PARIS いまパリで起きているコト 歴史的景観を守った「#saccageparis(パリは大荒れ)」

Paris 2021.09.17

いまのパリで注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。街の景観の改善をSNSで訴えたパリ市民たち。その想いが通じて、古きよきパリの象徴が守られることに。


街の美しさって? 市民が守った公共デザイン。

今春、#saccageparis(パリは大荒れ)というハッシュタグがSNSで大きな話題を呼んだ。道に放置された粗大ゴミから、コロナ対策の突貫工事で出現した仮設自転車レーンまで、「パリが汚い」と訴える写真が続々とアップされ、数週間で投稿数は80万にも。来年の大統領選への出馬表明をしたイダルゴ市長の政治生命を脅かすほどの騒ぎになった。さらに、世論は思わぬ方向に拡大。数年前からパリ市はエコロジーに配慮した新しいベンチや公衆トイレも設置し、新デザインを繰り出し、街の緑化も推進してきたが、これらの新政策が街の美観を壊している、と糾弾されるようになったのだ。

210902-hot-from-paris-01.jpg劇場や映画のポスター専用の広告塔、コロンヌ・モリスは1868年生まれのデザインで、パリカルチャーの顔。

19世紀後半のオスマン男爵による大改造以来、パリの公共施設といえば、グリーンの色使いの調和のとれたデザイン。たとえば街路樹の根元にあしらわれている円形の鋼鉄製グリルさえ、建築家ガブリエル・ダヴィウーのデザインで統一されていた。だが、このグリルも少しずつ姿を消し、いまの潮流は、木の根元に植物を植えること。エコロジー的な措置だが、それぞれに植える植物も柵もばらばら、手入れせずに放置されているものも多く、お世辞にも美しいとは言い難い。

210902-hot-from-paris-2.jpg街路樹の根元のメタル製グリルは1850年頃に誕生。
210902-hot-from-paris-3.jpg緑化が進むが、場所によって手入れもデザインもバラバラ。

また、パリの象徴ともいえるベンチも、数年前からの新作はとにかく評判が悪い。キノコ形のバス停のスツールや、木材を重ねたようなベンチは特にブーイングの嵐で、5月にはとうとう、パリジャンが寄付を募り、競売で伝統の"ダヴィウーベンチ"を購入。イダルゴ市長にプレゼントするという皮肉なイニシアチブも現れた。

210902-hot-from-paris-4.jpg市民の声のシンボルにもなった、ダヴィウーデザインのダブルベンチ。イダルゴ市長に贈られた一脚は、パヴィヨン・アルセナルの展覧会で展示中だ。
210902-hot-from-paris-5.jpgエコを意識した木製の新型ベンチは、不評につき撤去されることに。

そんなわけで、7月5日に市はとうとう世論に譲歩。悪評高い新作ベンチを撤去し、歴史的デザインを守ると発表した。ベンチや広告塔コロンヌ・モリス、給水所のフォンテーヌ・ワラスなど、パリの歴史的デザインは、ナポレオンⅢ世時代のデザインがベースになっている。『アメリ』や『ミッドナイト・イン・パリ』が描いた、美しきパリの風景に欠かせない脇役たちだ。「エミリー、パリへ行く」が描くパリを、観光客向けの絵はがきみたい、と嘲笑したパリジャンだけれど、彼らだってやっぱり、歴史的な我が街の姿がお気に入りなのである。

210902-hot-from-paris-6.jpg飲料水を供給するフォンテーヌ・ワラス(1872年)もパリジャンが愛するデザインのひとつ。
210902-hot-from-paris-7.jpg13区の新開発エリアには、ショッキングピンクやイエローのフォンテーヌ・ワラスが登場。こちらにも批判の声が。

*「フィガロジャポン」2021年10月号より抜粋

text: Masae Takata (Paris Office)

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