ミス ディオール、うたかたの香りが書籍とコインで永遠に。

Paris 2021.12.28

パリ造幣局とディオール、卓越の出合い。

1947年、“ニュー ルック”誕生という大きな話題を生んだ、クリスチャン・ディオールによる初のオートクチュールコレクション。発表会場となったモンテーニュ通り30番地のクチュールメゾンを包み込んだのは、コレクションと同時にクリエイトされた「Miss Dior(ミス ディオール)」の香りだった。花を愛するムッシュ・ディオールらしく、グラースのバラとジャスミンをベースにした優美な香り。彼はこのショーの当日、クチュリエとしてデビューしただけでなく、パフューマーとしてもデビューしたのである。そして74年たったいまも、ミス ディオールの新鮮さ、エレガンスは失せず。

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左: 1947年生まれ。2021年に新しくなったミス ディオール。 右: 伝統的な香水のボトルが2kgのゴールドで。

さて11月25日の晩、セーヌ河岸の「Monnaie de Paris(パリ造幣局博物館)」にて“L’excellence à la Française(フレンチ・エクセレンス)”と銘打ったコレクションが発表された。12世紀の歴史を誇るパリの造幣局とディオール。それぞれの分野で卓越の技を駆使して創造を続けるふたつのメゾンのコラボレーションによって、シルバー、ゴールド、ピンクゴールドを素材にした8種の限定コインがクリエイトされたのだ。造幣局が日頃打ち出すのは丸いコインだけれど、今回は驚くことにリボン、そしてミス ディオールのボトルのフォルムを象ったイレギュラーなデザインも登場した。

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パリ造幣局とのコラボレーションによる2kgの1万ユーロ金貨は、ミス ディオールの香水ボトルのフォルム。バラの花とリボンが立体的に飾られ、裏には千鳥格子と星が。

2kgのゴールドで作り上げられたのは、若きデザイナー、グザヴィエ・カザルタのオリジナルデッサンに基づいてデザインされた1万ユーロ金貨。香水のボトルを象ったフォルムだ。これは一点限定という貴重な品。造幣局がこれほど重いピースをクリエイトしたのは初めてだという。また技術面においてもボトル正面にはピンクゴールドの4輪のバラが浮き彫りされ、裏面には千鳥格子と星、というように緻密で手の込んだ仕事がほどこされている。デッサン、取り扱い用の手袋もセットされ、白いトランクに収められての販売で価格は非公開。その半分の1kgのゴールドの5,000ユーロ金貨(145,000ユーロ)は18点の限定だ。

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上左: パリ造幣局の彫版部門の責任者ジョアキン・ジムネーズ。 上右:裏面。 下左: ボトルの首を飾るリボンはピンクゴールド。 下右: クリスチャン・ディオールが愛したバラの花。このように立体的な作業はパリ造幣局にとって初仕事で、技術的な挑戦となったそうだ。

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特製ボックスにセットされた1kgのゴールドの5,000ユーロ金貨(145,000ユーロ)は18点の限定。

これらは例外中の例外の逸品なのでとても手が届かないけれど、6区の造幣局のブティックとオンラインブティックではエクセプショナル・コレクションとして、5,000枚限定の10ユーロ銀貨(90ユーロ)から、88枚限定の500ユーロ金貨(13,500ユーロ)の6種を販売中だ。

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会場がピンクで包まれたコラボレーション発表会にて。リボンのフォルムの硬貨でも丸い硬貨でも、すべてにRF(フランス共和国)と彫られている。ピンクゴールドのリボンは200ユーロ金貨で、500枚限定(2,775ユーロ)、シルバーのリボンは10ユーロ銀貨で5000枚限定(90ユーロ)。

La Monnaie de Paris
ブティック
2bis, rue Guénégaud
75006 Paris
営)11:00~19:00
休)月
www.monnaiedeparis.fr

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主役はディオールの妹カトリーヌ、J・ピカルディ著『ミス・ディオール』

カトリーヌ・ディオール。クリスチャン・ディオールの妹で、彼に多くのインスピレーションを与え、彼は最初の香水に彼女の愛称“Miss Dior”と名前をつけて……これまで、彼女についてはここで情報が終わっていた。兄のミューズとして有名でも、その存在は実体をあまり感じさせなかった。その彼女にフォーカスし、カトリーヌ・ディオールというひとりの女性のアイデンティティを明らかにする本が今秋出版された。著者は英国版「ハーパーズ・バザー」誌でかつて編集長を務めた作家ジャスティン・ピカルディ。クリスチャン・ディオールについてリサーチをしていた時に、カトリーヌの勇壮な過去について知ったことがこの本の出発点となったと語っている。

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『Miss Dior』。サブタイトルに勇気とクチュールの物語とあるように、カトリーヌの物語と並行して、第2次世界大戦下でのオートクチュールの世界についてもジャスティンは多くのページを割いている。

ともに花と自然を愛し、クリスチャン・ディオール(1905~1957年)が5人きょうだいの中でもとても仲良しだったのが、12歳年下の妹カトリーヌ。ディオールについての書物で、彼女が南仏で花を育てて、近くの町で販売して生計を立てていたことがよく語られる。そして、次に彼女が彼の人生に登場するのは1947年の香水ミス・ディオールの誕生秘話においてである。これまで明かされなかったその間の彼女について多くを知ることができるのが、この一冊なのだ。カトリーヌは第2次大戦中、ドイツのフランス占領に抵抗するレジスタンス運動に南仏そしてパリで参加していた。パリのロワイヤル通りの兄のアパルトマンに同志を匿ったりということも。1944年に彼女はゲシュタポに捕らえられ、拷問を受けて……大戦が終了し、解放されるまで兄クリスチャンにも彼女の行方がわからなくなってしまっていたのだ。ジャスティン・ピカルディは著作の中で、戦時中のオートクチュール事情も交えながら、彼女の勇気ある活躍を紹介している。カトリーヌはレジスタンス運動中にエルヴェ・デ・シャルボヌリィと知り合い、彼が既婚者だったので結婚はしなかったものの、1989年に彼が亡くなるまでともに南仏で暮らした。ふたりがバラ畑で作業をする姿を捉えた写真も、この本に収められている。短命だった兄と異なり、エルヴェを看取った後カトリーヌは90歳まで長生きをした。

1947年にうかたかの香りに、1949年には美しいドレスに名を残したミス・ディオールことカトリーヌ・ディオール。ジャスティン・ピカルディのおかげで、彼女はクリスチャン・ディオールの妹というだけではなく、しっかりとしたアイデンティティを持つひとりの人間としての存在となったのだ。

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左: シャンゼリゼ大通りのディオール店にて開催されたジャスティン・ピカルディのトークショーより。 右: フランス語訳もフラマリオン社から出版された(23.90ユーロ)。

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世界100点限定、とても特別で贅沢なミス ディオール

ミス ディオールをめぐる物語はさらに2022年へと続いてゆく。世界でたった100点だけという特別エディションのミス ディオールが発売されるのだ。ミス ディオールのミューズを10年務めているナタリー・ポートマンが最新のコマーシャル映像の中で着ている、マリア=グラツィア・キウリによる特製クチュールドレス。胸元から裾にかけて力強いタッチで刺繍された草花に目を奪われる素晴らしいドレスである。この特別エディションのボトルの首に巻かれたチュールリボンに、その草花を見いだすことができるのだ。ドレス同様の鮮やかなブルー、フューシャピンク、太陽の黄色といった花々は、まず手描きされてチュールのリボンにプリントされ、そこにコットンと絹糸で刺繍を施す、というという手の込んだ作業で仕上げられる。

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ボトルの首に花のリボンを巻いた特別版のミス ディオール。

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リボンにプリントされた手描きによる花を刺繍する。

そして、このエレガントなリボンを首に巻いたボトルは、特製のミニトランクに厳かに収められて販売されるのだ。これはディオールのクチュールアトリエでトランク作りの優秀な職人の手がサヴォワールフェールを駆使して仕上げた逸品。ピンクのグラデーションのベースの上で、鮮やかな色の草花が生命力の豊かさを誇り……特別版と表現されるに相応しいミス ディオールだ。

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このミニトランク入りで価格は4,000ユーロ。パリではディオール本店、ボン・マルシェ、ラ・サマリテーヌなどで販売される予定だ。日本でも、限定数を発売予定。

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ディオールが誇る職人技を生かし、全て手作業で作り上げられるトランク。

editing: Mariko Omura

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