パリ、アートファンの気を引く三展三様の展覧会 A・キーファーが詩人に捧げた巨大な作品に向かい合う時間。

Paris 2022.01.02

ドイツに生まれ、1992年からフランスで芸術活動を続けるアンセルム・キーファー(1945年~)。彼の作品はどれもサイズが極めて大きい。グラン・パレで2007年から6回開催された『Monumenta』展は、ネフの広い空間を使っての展示ゆえに招かれたのはリチャード・セラ、アニッシュ・カプールなどスケールの大きな作品を制作する現代アーティストたちだった。そのトップバッターがキーファーだったことは記憶に新しいが、これは今年逝去したクリスチャン・ボルタンスキーの強い推薦が裏にあったそうだ。

現在改修工事中のグラン・パレはエッフェル塔近くのグラン・パレ・エフェメールへと会場を移動。そこでエクスペリメンタルなプロジェクトである展覧会『Anselm Kiefer pour Paul Celan(アンセルム・キーファー・プール・ポール・セラン)』が12月17日から開催されている。

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ホロコーストをテーマに詩作を続けたポール・セラン。彼の詩にインスパイアされたキーファーによる、2015年から21年にかけてのインスタレーション、彫刻、トワルを会場に展示。この展覧会はグラン・パレとギャルリー・タデウス・ロパックの共同企画である。

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左: アンセルム・キーファー。第2次大戦が終了した1945年に生まれた。 右: ポール・セランの詩『Le secret des fougères』が書き込まれた同名の作品(2018〜21年)。キーファーは地質学的時代との関係に我々を結びつけるために、原初の植物であるシダを素材に使うことが多い。

ポール・セラン(1920~70年)は現在のルーマニアに生まれたドイツ系ユダヤ人で、戦後はフランスに暮らしていた。ユダヤ人虐殺をテーマにしたセランの作品『Todesfuge (死のフーガ)』を思春期に読んで以来、20世紀後半の最高の詩人だとキーファーはセランを称えている。ちなみにこの詩はキーファーが生まれた1945年に書かれた作品だ。彼の作品から多くのインスピレーションを得るキーファーは81年から詩人の作品に関わる活動を続け、この展覧会も詩人にオマージュを捧げるものである。会場構成は2015年から21年に創作された巨大な作品が迷路のように配置され、来場者はその中を自由に巡り、時には同じ作品の前に再び立ったり……。ポール・セランの詩の言葉がコンポジションの一部として書き込まれている作品もあるが、詩を知らなくてもキーファーの作品を鑑賞する妨げにはならない。彼が手がけた強烈な印象を残すキャンバスやインスタレーションを介して、ポール・セランの詩に触れる第一歩になるのだから。

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会場に入ると最初に目にする作品は『Cendres des puits d’Accra』(2020〜21年)。キーファーがこの展覧会を準備したのは20020年の外出制限期間中で、自身の日記にこう記した。「セランは無について考えるだけでは満足せず、実際に試し、経験し、生きたのだ」と。

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13.3×3.8mと横長の『Madame de Staël: de l’Allemagne』(2015〜21年)。右はインスタレーションの『Occupation』(1969〜2021年)。

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左: 『Imagine-toi - les soldats des marais』(2018〜21年)。 右: 『Occupation』の内部。

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左後方のガラスケースの中は、ケシがコンクリートを貫いて生えるトーチカ『Pour Paul Celan  - Pavot et mémoire』。子ども時代にライン川で泳ぐ時に、こうしたトーチカの廃墟を脱衣所に使用していたそうだ。右は『Le Secret des fougères 』。

グラン・パレ・エフェメールの広大なスペースに作り上げらた展覧会。会場裏手にはキーファーのアトリエの倉庫を再現した空間’’Arsenal’’が設けられている。そこ置かれた棚を埋めるのは、彼が見つけ、創作のインスピレーションにしたり、作品に素材として活用する枯れた花、灰、ガラスの破片……展示作品にレリーフを作り上げているケシなどの素材をここに見いだせる。見終って会場を後にする時、ジャン=ミッシェル・ヴィルモットによるグラン・パレ・エフェメールほどふさわしい場所はない、と思わせる展覧会だ。

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『Comme une arche, elle a quitté la route』(2018〜21年)の後方にArsenalが広がる。

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Arsenalを埋める素材の数々。2階のカフェ、書店からも眺められる。photos:Mariko OMURA

『Anselm Kiefer pour Paul Celan』展
会期:開催中~2022年1月11日
Grand Palais Ephèmère
Place Joffre
75007 Paris
開)10:00~19:00(日~木) 10:00~21:00(金、土)
料:13ユーロ~
www.grandpalais.fr/fr/evenement/anselm-kiefer

editing: Mariko Omura

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