パリ装飾美術館でデザイン、モード、ジュエリーの3つの展覧会。

Paris 2022.02.14

1.『デザインをすべての人に: プリジュニックからモノプリまで。フランスの冒険』展

パリでスーパーマーケットというと、誰もが思うのが「Monoprix(モノプリ)」だろう。人気のデザイナーとコラボレーションを行うたびに、その目のつけどころのよさゆえに話題を呼び、ほかのスーパーとは一線を画す存在である。これは1997年にギャラリー・ラファイエット・グループのモノプリに融合したプランタングループの「Prisunic(プリジュニック)」の精神を引き継いだことに始まるのだ。

プリジュニックは20世紀後半にデザインの分野で一般大衆を魅了していたスーパーである。1931年に生まれたチェーンで、アメリカに倣ってクオリティの良いコンテンポラリーなデザインの家具と衣類を一般大衆にというマーケティングを50年代末に展開。レイモンド・ローウィの言葉にインスパイアされて、そのスローガンは「美しくない品の価格の美しい品」だった。68年に始めた通販カタログではデザイナーたちとコラボレーションを開始し、当時のデザイン界の寵児テレンス・コンランがランプや家具などデザインするなど話題に。

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左: その後写真家に転身したFriedmann Haussがデザインした、プリジュニックの1970年夏のポスター。©️MAD, Paris/Christophe Dellière 右: プリジュニックの70年10月に出たカタログ。©️The Andy Warhol Foundation for the Visual Arts, Inc. /Licensed by Adagp, Paris 2021

モノプリも初のコラボレーションにはテレンス・コンランに声をかけ、それ以来、いまにいたるまで売り切れ続出となる数々のコラボレーションをデザイナーたちと続けている。インディア・マーダヴィ、メゾン・シャトー・ルージュ、アントワネット・ポワソンたちがコラボレーションで “即日完売”的な人気の品をデザインしたことが記憶に新しい。

展覧会は常設展の中での開催である。美術館の展示品とプリジュニック、モノプリのデザインが交じり合う展示で、そのセノグラフィーは過去に2度モノプリとタッグを組んだインディア・マーダヴィが担当し、また彼女だけのコーナーも設けられている。 複数のフロアでの展示の途中には、時代を感じさせる女性の声のアナウンスつきでプリジュニックのレジも再現。20世紀後半にスーパーマーケットを舞台に、美しいデザインに囲まれた生活を大勢に提案することに力を注いでいたプリジュニックを知ることができるよい展覧会である。

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左: プリジュニックではモードの提案もおしゃれだった。 右: プリジュニックのレジの再現。photos:Mariko Omura

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左: 展示より。モノプリとインディア・マーダヴィとのコラボレーションの中でも、最大のヒットはゴールドのスツールだ。 中: 2020年のクリスマスシーズンのコラボレーションはアントワネット・ポワソンと。 右: メゾン・シャトー・ルージュやナタリー・レテ、ヴァンサン・ダレなどフランス人クリエイターとのコラボレーションをモノプリは続けている。photos:(左)Musée des Arts Décoratifs、(右) Mariko Omura


『Le design pour tous : de Prisunic à Monoprix , une aventure française』展
会期:開催中~2022年5月15日
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)11:00~18:00(火、水、金~日) 11:00~21:00(木)
休)月
料)14ユーロ
https://madparis.fr/Le-design-pour-tous-de-Prisunic-a-Monoprix-une-aventure-francaise

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2.『ティエリー・ミュグレー クチュリシム』展

9月30日に開催が始まった『ティエリー・ミュグレー』展。そのオープニングパーティーにはヴィクター&ロルフやリカルド・ティッシなどクリエイターたちも集まり、久々にパリに姿を現したクチュリエ、ミュグレーを取り囲み……それだけに、1月23日に世界を駆け巡った73歳の彼の急逝のニュースは大きな驚きをモード界、ショービジネス界にもたらした。4月24日まで続く、ミュグレー・ワールド全開のこの展覧会が回顧展になってしまうとは!

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左: 昨年撮影されたマンフレッド・ティエリー・ミュグレー。Manfred Thierry Mugler - Reinier RDVA ©️2021 右: パリ装飾美術館内。photo:Mariko Omura

ティエリー・ミュグレーはダンサーから転身し、デザイナーとして1970年代にデビューし、驚きにあふれるクリエイションと演出効果の高い華やかなショーで80~90年代のモードシーンをおおいに賑わせた。リアルタイムで彼の仕事を知らなくてもエンジェルなど香水で彼の名前を記憶にとどめている人が多いだろう。この展覧会は後にマンフレッド・ティエリー・ミュグレーと改名した彼のデザイナーとして、写真家として、またコスチュームデザイナーとしての仕事を2フロアを使い、9つのテーマで紹介している。「メタモルフォーゼ:ファンタスティックな動物寓話集」「ガイノイドとフューチャリストのクチュール」「ミュグレー研究室」「モードを超えて:写真機の裏側のミュグレー」「昼顔と夜顔」「写真家の目の中で:ヘルムート・ニュートン」「Too Funky」「スターたちと人造宝石」「マクベスとレディ・M」。テーマごとに熱のこもった会場構成に迎えられ、そこで繰り広げられる世界へと誘い込まれる。

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左:  1997年春夏オートクチュールコレクション“昆虫”より。Abel Villarrealとのコラボレーションによるタイヤスーツ。©️Patrice Stable 中: 91年春夏コレクションのプレタからのスーツを着たデヴィッド・ボウイ。「You Belong in Rock’n’ Roll」のビデオクリップの撮影にて。©️Brian Aris/ ArisPrints 2017 右: 20周年アニバーサリー・クチュール・コレクション(95-96年秋冬)より。©️Patrice Stable 

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オートクチュール、香水の広告、ビデオクリップ、舞台衣装……あらゆる分野でミュグレー・ワールドを爆発させ続けた。photos:Mariko Omura

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1986年にパリのオペラ座ガルニエ宮で、ニューヨークでは88年にクライスラー・ビルディング(右)で。信じられないような場所にモデルを立たせ、ティエリー・ミュグレー自身が撮影したキャンペーン写真。photos:(左)Mariko Omura、(右)©️Manfred Thierry Mugler


『Thierry Mugler, Couturissime』展
会期:開催中~2022年4月24日
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)11:00~18:00(火、水、金~日) 11:00~21:00(木)
休)月
料)14ユーロ
https://madparis.fr/couturissime

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3.『カルティエとイスラム芸術』展

この展覧会は“モダニティの原点”とサブタイトルされている。カルティエとイスラム芸術との出合いを美術館内の中央広間で、ルーヴル美術館からの貴重な貸与も含めた500点近い展示品で紹介するものだ。そこで展開されるのは、20世紀初頭にイスラム芸術がカルティエのハイジュエリー、オブジェなどのクリエイションに与えた多大なるインスピレーションである。

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左: カルティエ・コレクションよりウインザー侯爵夫人のオーダーによるネックレス。1947年。©️Cartier 中: カルティエ・コレクションよりティアラ。1936年©️Cartier 右: カルティエ・コレクションより1930年頃のシガレットケース。展覧会のポスターに拡大して用いられているこのモチーフのモダンな魅力が人々を会場に集めるのにひと役買っている。©️Cartier

3代目のルイ・カルティエ(1875~1942年)は中東の芸術の収集家で、その興味は1910年にミュンヘンで開催されたイスラム芸術展から始まるものらしい。様式化と抽象表現を持ち合わせたイスラムのモチーフに彼は大きな力を感じ取り、モダニティあふれる新しい美意識を、1847年に祖父が創業したメゾンにもたらしたのだ。展示の最初のパートでは、クリエイションのインスピレーションへと導くイスラムの建築や芸術への関心の発端にフォーカス。第2パートではイスラム芸術にインスパイアされたフォルムが総覧できる。これまでその美しさに目を奪われるだけで、インスピレーション源まで思いを馳せなかったジュエリーの数々に新しい視線を向ける機会であり、またイスラムの芸術に触れる機会がこれまであまりなかった人たちは、カルティエのジュエリーを介してその豊かさに開眼することになるだろう。

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左: イランの14〜15世紀の壁の装飾用モザイクパネル。photo:©️Musée du Louvre,Dist.RMN-Grand Palais/ Raphaêl Chipault 右: 1920年頃のカルティエにおけるパウダーケースのプロジェクト。Archives Cartier Paris ©️Cartier

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左: イランの19世紀の寄木の小箱。©️Musée du Louvre Dist.RMN Grand Palais/ Hervé Lewandowski 右: カルティエ・コレクションより、1924年のネセセール。©️Cartier 

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展示光景より。ジュエリーだけでなく、絵画、写真なども含め展示品は500点近い。

『Cartier et les arts Islam : Aux sources de la modernité』展
会期:開催中~2022年2月20日
Musée des Arts Décoratifs
107, rue de Rivoli
75001 Paris
開)11:00~18:00(火、水、金~日) 11:00~21:00(木)
休)月
料)14ユーロ
https://madparis.fr/Cartier-et-les-arts-de-l-Islam-Aux-sources-de-la-modernite-2028

editing: Mariko Omura

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