ジェルマン・ルーヴェが上梓した『Des choses qui se dansent』

Paris 2022.02.17

2月9日、エトワールダンサーのジェルマン・ルーヴェが書いた『Des choses qui se dansent』が書店に並んだ。それに前後して、ラジオ、テレビのさまざまな番組に招かれた彼。200ページを超える一冊は彼が3年をかけて書き上げたというもので、文章を書くことが好きな彼らしく語彙の豊富さ、印象的なフレーズがちりばめられている。

20220315-ジェルマン・ルーヴェの本-01.jpg

ジェルマン・ルーヴェ著『Des choses qui se dansent』(Fayard/19ユーロ、デジタル版13.99ユーロ)

2016年12月28日、『白鳥の湖』を踊って23歳の彼はエトワールに任命された。10ページ近くを割いて、その日の詳細な描写で本は幕を開ける。その次の章では華やかなオペラ・バスティーユから一転し、彼が育ったブルゴーニュ地方の小さな集落へと。ヤギのチーズで知られる土地ゆえに住民は“ヤギの糞”というあだ名で呼ばれていたというから実に辺鄙な田舎のようだ。その地の自宅の庭で、身体の内からの叫びに突かれて素足で音楽に合わせて踊らずにはいられない幼い彼が登場。ここで読者は幼い彼に出会い、ダンスと彼の関係、彼の家族について知ることになる。その後、フローランスでのスヴェトラーナ・ザハロワとの出会い、不快極まりなかったオーディションなど、さまざまなエピソードを含め、各章、バレエ学校時代やオペラ座の公演にまつわる話を導入部にいまのオペラ座のシステム、ダンス、社会への思いや意見へと彼は展開してゆく。本の中に登場する個人名も仲間のダンサーよりもオペラ・ガルニエの掃除係の女性や建物のガードマン、食堂の女性、メイクアップ担当者……といった裏方の人々のほうが多い。ガルニエ宮の裏側の構造を語るのにエレベーターのボタンの図解までもつけるといったサービスもあるけれど、この一冊に彼が書き下ろしたのは現在の彼の熟考なのだ。

年金制度改革、LGBTQ、ダイバーシティ……彼のインスタグラムのフォロワーなら知っていることだが、自分の心に忠実に彼は抗議デモで大勢に交じり、行動をする。“アンガジェ”のダンサーと紹介されることもある彼。この形容詞は作家サルトルの実存主義に結びついて日本でも知られているが、社会参加者を意味する。本を紹介するあるラジオのインタビューでも、多くのファッションブランドから声がかかるのは彼の美貌ゆえのみならず、この“アンガジェ”の面ゆえだろうと彼本人も語っている。“美しいプリンス”という舞台の役を介してしか彼を知ることができない観客は、この本の中に自分の声で発言できる、しっかりと地に足をつけて生きているひとりの若者を見いだすことになる。世間に対しても自分に対しても、常に誠実で素直な彼。子ども時代から彼のあるがままを受け入れた両親に育てられたことが本の中で何度か語られているが、それが彼の形成にどれほど大きな影響を与えたことかと想像を禁じ得ない。なお彼は本の中にも登場するパートナーに捧げている。

20220315-ジェルマン・ルーヴェの本-02.jpg

本の中でも語られる年金改革制度反対デモの一環として2019年12月にオペラ・ガルニエの劇場前で女性ダンサーたちによりダンスで表現された抗議(左)、ル・モンド誌の別冊Mマガジンも特集したオペラ座におけるダイバーシティ。なお『Des choses qui se dansent 』にはJulien Benhamouが撮影した表紙以外、写真はまったく含まれていない。

editing: Mariko Omura

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
キーワード別、2024年春夏ストリートスナップまとめ。
連載-パリジェンヌファイル

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories