Hot from PARIS いまパリで起きているコト イヴ・サンローラン展が示す「モードはアート」

Paris 2022.04.10

パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。今月は、6つの美術館で開催中のイヴ・サンローラン展を紹介。


1962年1月19日、26歳の若きクチュリエ、イヴ・サンローランが初めて自分の名前のコレクションを発表した。それから60年。今年1月29日、パリの6つの美術館を舞台に『Yves Saint Laurent aux Musées(美術館のイヴ・サンローラン)』展が幕を開けた。テーマは、彼のクリエイションと芸術の関係だ。

パリ市立近代美術館、ピカソ美術館、ポンピドゥセンターの3つの近代美術館では、マティス、ピカソ、モンドリアンらの作品と直接関連を持つルックが発想源となった芸術作品と肩を並べる。ポンピドゥセンターでは、キュビスム、アフリカンアートの影響、オプアートなど、アートのムーブメントを時代に沿って見せる常設展の中に同時代のエスプリから生まれたクリエイションが展示され、サンローラン自身のアート性が浮き彫りになる。またアンディ・ウォーホルの肖像画やジャンルー・シーフのヌード写真の展示は、彼自身がアーティストをインスパイアしたことを物語る。19世紀と20世紀初頭の芸術を擁するオルセー美術館では、プルーストがキーワード。71年にロスチャイルド男爵夫妻が催したプルーストの舞踏会の際に、男爵夫人とジェーン・バーキンのために製作されたドレスがスモーキングと並ぶシーンは、サンローランが愛したプルーストの世界だ。

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モンドリアン・ルックがモンドリアン作品と並ぶ。ピエール・ベルジェ=イヴ・サンローラン財団主催。ピカソ美術館は4月15日まで、ほかは5月15日まで開催。photography: Hélène Mauri
Centre Pompidou
www.centrepompidou.fr
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1979年秋冬のピカソへのオマージュと『ニュッシュ・エリュアールの肖像』。photography: Nicolas Mathéus
Musée National Picasso Paris
www.museepicassoparis.fr
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プルーストの舞踏会のドレスとスモーキング。photography: Nicolas Mathéus
Musée d'Orsay
www.musee-orsay.fr

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圧巻はルーヴル美術館。ルイ14世が最高のアーティストを集めて完成させた煌びやかなアポロンの間には、金や貴石、クリスタルで贅沢に刺繍が施されたジャケットとブローチが登場。究極の職人技で仕上げられたオートクチュールのマスターピースは、このギャラリーに展示された王族皇族の王冠や宝飾品と同様の輝きを放つ。 

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アポロンの間には貴石とスパンコール刺繍のジャケット。1981年秋冬。photography: Nicolas Mathéus
Musée du Louvre
www.louvre.fr

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自身の作品を系統的に保存した初めてのクチュリエ。存命中のデザイナーとして初めてメトロポリタン美術館に作品が展示された人物。イヴ・サンローランのモードは、パリが世界に誇る美術作品とすんなり肩を並べてしまう美意識と存在感を備えている。一方で、世界に誇る常設展の空間にモードを難なく迎え入れる美術館の懐の深さも見逃せない。

「ニーチェが言うように、人間は生きるために、美的な亡霊を必要としている......僕はモンドリアン、ピカソ、マティス、そしてプルーストの中にそれを見いだした」と語ったサンローラン。彼のモードもまた、アートとしてパリの歴史に刻まれた。

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イヴ・サンローラン美術館ではデザイン画やトワルでクリエイションの舞台裏を解説。photography: Nicolas Mathéus
Musée Yves Saint Laurent Paris
https://museeyslparis.com
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ピエール・ボナールの絵画『庭』にインスパイアされた花柄のアンサンブル。2001年春夏。photography: Nicolas Mathéus
Musée d'Art
Moderne de Ville de Paris

http://parismusees.paris.fr

*「フィガロジャポン」2022年5月号より抜粋

text: Masae Takata (Paris Office)

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