Hot from PARIS いまパリで起きているコト パリジャンの心をとらえる、地方発ブランドの魅力とは?
Paris 2022.06.12
パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。今月は、じわじわと存在感を増している地方発ブランド、その人気の理由に迫ります。
都会暮らしだからこその原点回帰、地方ブランドに脚光。
マレ地区にシューストア、チャを発見したのは、世の中がステイホームムードに満ちていた2020年暮れのことだった。店に並ぶのは、17世紀からフランス西部のシャラント県で作られたフェルトの靴が起源で、19世紀に室内履きとして定着した伝統のシャランテーズ。定番のチェック柄はおじいちゃんのスリッパのイメージだったのだが、近年パリっ子の間でも人気が復活。マレ地区の同店でも、シャラント県の工房から生まれるいまどきなシャランテーズが色鮮やかな表情を見せる。
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ここ数年でパリジャンの意識は随分と変化した。手仕事、エコロジー、ローカル、都会離れといったキーワードが衣食住のシーンで浮上する。そんななかで、地元の産業や伝統、生まれ故郷の物語に結び付いたブランドが存在感を増している。
西部のドゥ・セーヴル県で丈夫なワーキングウエアを作り続けてきたキデュール(=長く続く)もそんなブランドのひとつ。1960年代に最盛期を誇ったものの、活力を失っていた工場を2000年にベテラン従業員が経営を引き継ぎ、自社ブランドを発信。良質な生地と確かな縫製技術に裏付けられたシャツやジャケットは、カッティングや色使いでいまのタッチを加え、話題上昇中だ。
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ピレネー山脈の麓で産声を上げたのは、レーヌ・ペイザンヌ(=田舎の羊毛)。近隣の農家を回って、地元の草を食んだ羊の毛を刈り、糸を紡ぎ、編み、織る。羊の種類によって、生成りからグレー、茶色にと変わる自然の色をそのままに残した毛糸や手編みのニット、山間の工房で織り上げられる絨毯は、眺めるだけで心が和む。
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故郷に店を出すクリエイターもいる。個性的なプリントに定評のあるラ・プレスティック・ウイストンのクリエイター、ローランス・マエオの故郷はブルターニュのバーデン。5年前まで家業の牡蠣養殖も続け、ブルターニュとパリの二重生活を送っていた彼女は、アートと文学をテーマに出版も始めた異色の人だ。センスのいい日常の服を発信するオフィシン・ジェネラルのピエール・マエオは、彼女の弟。バーデンの古い精肉店を買い取ってスタートした店は、姉弟のコレクションと友人アーティストたちの手による陶器やアート、オブジェを置き、海辺のバザールをイメージしている。これもまた、故郷、家族という物語に結び付いたローカル回帰だ。
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地方に根付くブランド、その物語が醸し出す本質的な暮らしのイメージが、都会のパリジャン&パリジェンヌに安心感を与えてくれるのかもしれない。
●1ユーロ=約136円 (2022年5月現在)
*「フィガロジャポン」2022年7月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)