フランスは美食の国だ!と思い出させる1ツ星ル・シベルタ。
Paris 2022.07.12
手頃な金額、気軽な雰囲気、味もよしというビストロとガストロノミーが合体したカテゴリーの“ビストロノミー”がすっかり定着しているパリ。新しい波はTVの料理番組「Top Chef」が生んだ意外な驚きとハーモニーのあるクリエイションを提案する若いシェフたちのレストランだ。これらの頂点に君臨するのがフランスが誇るガストロノミーである。一般人の口コミがレストランの評価を左右するようになっているSNSが発達したいまの時代、料理のオーソリティによるミシュランガイドの評価は貴重な存在といえるかもしれない。
現在の夏のメニューに含まれていないが、イラクサのスープ(写真左)、貝を詰めた舌平目(写真右)はレストランで愛されている料理だ。
そのミシュランの1ツ星レストラン「Le Chiberta(ル・シベルタ)」は凱旋門からそう遠くない場所に80年以上前から存在し、2004年にスターシェフのギー・サヴォワが買収した。1980年代にはガストロノミー・レストランの中でも極めてモダンなインテリアとヌーヴェル・キュイジーヌで知られ、パリの美食家たちを喜ばせていた名店である。2020年1月末、かつてギー・サヴォワのレストランでセカンドだったアーウィン・デュランがシェフに就任した。カウンターでワインと料理を楽しめる高級レストランとして一時期話題を呼んだので、過去にここで食事を楽しんだ人もいるだろうが、新しいシェフによる料理を味わってみなければ!
左:シェフのアーウィン・デュラン。 右:カウンター席で食事も楽しめる。photos:(左)©️Alban Couturier 、(右)D.R.
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アーウィン・デュランは過去にボーマニエール、ロブション、ロワゾー、ル・ドワイヤンといったビッグネームのレストランで仕事をしてきた。これらの名前から、フレンチ・ガストロノミーの王道を極めようとする彼の姿勢が見て取れるだろう。2017年にはゴ・エ・ミヨが若い才能に与える賞を獲得している。ギー・サヴォワの元で彼がル・シベルタにおいて提案するのは、クラシックなフランス料理の素材を21世紀の味に仕上げた料理だ。たとえば牛のフィレ肉。これには黒ニンニク、乾燥マグロの削り節、スモークしたナスが添えられる。また舌平目は貝類を詰め物にして……というように。脇役は出しゃばることなくメイン素材の味わいを豊かにする役を果たしていて、何の料理を食べているかが明快で気持ちが良い。各料理、食感のおもしろさが潜んでいて、たとえば前菜のブレット(フダンソウ)のラビオリなどは珍しいことにもちもち感とカリッが共存している。味は日本人にも受け入れられる濃すぎず、薄すぎずの良い塩梅だ。またもしメニューに見つけたら、リ・ド・ヴォー(子牛の胸腺肉)を試してみては? 過去にほかのレストランで食べていい思い出のない人は、リ・ド・ヴォーの印象が変わるのでなおさらだ。下ごしらえがしっかりとなされ、中はふわふわ、周囲はかりかり。口に運ぶのがうれしくなる焼き加減である。
左はヒメジとアーティチョーク、右はフォアグラのポワレ。©️ Alban Couturier
左はリ・ド・ヴォー、右はデザート。夏のアラカルトは前菜37ユーロ〜、魚料理52ユーロ〜、肉料理50ユーロ〜、デザート23ユーロ〜。©️ Alban Couturier
内装は2004年にジャン・ミッシェル・ヴィルモットによって行われた。壁を飾るのはベルトラン・ラヴィエ、ジェラール・トラカンディ、ファブリス・イベールなどコンテンポラリーアート愛好家のギー・サヴォワが好む作品だ。テーブルの配置はゆったりとしていて、食事を味わうのによい空間である。店内の左手奥の小さめの落ち着いた空間で、壁に装飾的に並べられているのはワインボトル。ワインのセレクションも料理同様に力を入れていることがわかる、壮観な眺めだ。さて、ガストロノミー・レストランでは料理とおなじくらい店内を仕切るディレクターの裁量も重要である。ル・シベルタでは2004年にメートル・ドテルとして参加し、2015年からはディレクターを務めるティエリー・ブランが料亭の気の利く女将のように気配りを欠かさない。食べる行為だけでなく、誰かとともにする食事時間そのものを大切にするフランス人に愛されるガストロノミー・レストランだというのがうなずける。
ワイン、シャンパンが壁の装飾の一部という内装だ。photos:(左)Mariko Omura、(右)©️ Laurence Mouton
左:ベルトラン・ラヴィエの作品のある部屋。 右:トラカンディの作品のある部屋。ランチは49ユーロ。デギュスタシオン・メニューは135ユーロ(飲み物別)で、コースの料理に合わせたワインのセットはプラス65ユーロで。photos:(左)©️ Laurence Mouton、(右)© Henri Saromsky
3, rue Arsène-Houssaye
75008 Paris
tel:01 53 53 42 00
www.lechiberta.com
営)12:00~14:30、19:30(土19:00)~22:00
休)土曜ランチ、日曜
editing: Mariko Omura