ハイジュエリーにダンカン・グラント、ディオールはメンズも気になる。

Paris 2022.08.11

ディオールはサマー 2023 メンズ コレクションで、ヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌとキム・ジョーンズのコラボレーションによるハイジュエリーを1点発表した。自然とクチュールへ捧げるオマージュとして両者のクリエイティビティから生まれたブローチは、クリスチャン・ディオールによる秋冬 1949−50 オートクチュール コレクションに登場したドレス「ジュノン」のペプラムとドレープにインスパイアされている。ブローチではサファイアとダイヤモンドをあしらった花々がスカイブルーからナイトブルーへと、色彩の推移が繊細に表現されている。ディオールのハイジュエリーにおける卓越したクラフツマンシップの洗練が生きたブローチ。ショーでは淡いブルーのコットンのシャツの襟元で気品高く輝いていた。

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キム・ジョーンズとヴィクトワール・ドゥ・カステラーヌのコラボレーションによるハイジュエリーのブローチは、6月24日、ディオール メンズ コレクションのショーでお披露目された。

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30 モンテーニュにオープンしたオートクチュールをたたえる文化展示スペースの「ラ ギャラリー ディオール」。左: ブローチにインスピレーションを与えたクチュールピースの「ジュノン」。 右: グランヴィルの家を背景に、庭や植物がテーマのドレスを展示。photos:Mariko Omura

このコレクションはメゾン創設75周年に際してクリスチャン・ディオールを見つめ直した前シーズンに始まった対話の延長上にある。今回の対話はクリスチャン・ディオールが暮らしたノルマンディー地方のグランヴィルとイギリスでブルームズベリー・グループが暮らしたファームハウスがあるサセックスというふたつの土地だ。クリスチャン・ディオール同様に住まい、庭園、そして周囲の環境がクリエイティビティに大きな影響を与えているブルームズベリー・グループ。その中でも画家ダンカン・グラント(1885~1978年)の仕事をキム・ジョーンズは今回のコレクションにフィーチャーした。ブルームズベリー・グループやサセックスの彼らのファームハウス"チャールストン"にインスピレーションを得たコレクションを作ったファッションクリエイターは過去にもいたが、この画家がクローズアップされたのは極めて珍しい。キム・ジョーンズがサセックス地方の“チャールストン”を知ったのは14歳の時で、グループの作品も所有しているという。この場所、ここに生活したアーティストたちの自由な創造活動はキム・ジョーンズにとって大切な存在なのだ。

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グランヴィルのディオールの家と庭(左)、そしてサセックス地方のファームハウスと庭が再現され、ショーの会場は自然で満たされていた。photos:Adrien Dirand

チャールストン・ファームはアーツ&クラフツの実践の地だった。妹で作家のヴァージニア・ウルフが見つけた家を気に入った画家ヴァネッサ・ベルは2人の子ども、使用人、そして画家のダンカン・グラントと1916年に暮らし始めたのだ。ダンカンのボーイフレンドも一緒で、ブルームズベリー・グループの仲間たちもよく週末に訪れていた。電気も水道もない田舎家だったけれど、広い庭の奥には果樹園があり、池もあって……。ヴァネッサとダンカンはふたりして壁や家具など家中をペイントで装飾し、また陶器なども制作。絵を描き、庭仕事をして、生活を楽しんで……当時のロンドンを支配していた堅苦しいヴィクトリアン的モラルから解放され、ここで自由に創作活動に励んだのだ。ダンカンは絵画の制作だけでなく、ニジンスキーのバレエ作品の舞台芸術やファームハウスから遠くない教会の壁画も手がけている。93歳で生涯を閉じるまで、多彩な作品を残した彼。このコレクションでは、たとえば睡蓮を描いた『LILY POND SCREEN(C.1913)』がリフレクティブなテクニカル素材とトラディショナルなニードルポイントにアクセントを加え、また彼のスケッチが精緻ながらもリラックスしたハンドニットとして再解釈された。

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左: 画家・芸術評論家のロジャー・フライが開設したオメガ工房で彼とダンカンが衝立てのためにデザインしたLilypond(睡蓮)モチーフ。ダンカンが自由な筆使いで再び描き出した同モチーフのテーブルを、ファームハウスでいまも見ることができる。 右: セザンヌや野獣派に影響を受けたダンカン。彼のスケッチをニットに。

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ダンカン・グラントの作品にインスパイアされたアイテム。キム・ジョーンズは「時の経過、変わりゆく気候と季節の光、そして継続性、芸術のコミュニティとディオールのレガシーといったアイデアがありました」とこのコレクションについて語っている。

ダンカンが亡くなった後放置されていたチャースルストン・ファームが一般公開されるようになったのは1990年のことだ。20世紀の急進的なアーティスト、作家、思想家たちの集合だったブルームズベリー・グループにまつわる展覧会やイベントを企画する美術館、文化施設として機能している。2023年9月から、チャーリー・ポーターによるキュレーションの『BRING NO CLOTHES: BLOOMSBURY & FASHION』展が開催予定だ。

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左: ロンドンのナショナル・ポートレート・ギャラリーに展示されているダンカン・グラントの自画像(1909年頃)。魅力と才能で彼は周囲の男女ともに虜にしていた。TVシリーズ「Life in square」でそんな彼の役を演じたのは俳優ジェームス・ノートンである。 右: 作品例。発表されずじまいとなったが、1925年頃にダンカン・グラントが手がけた「design」誌の表紙(チャールストン・トラストがダンカン・グラントとヴァネッサ・ベルが描いたブックカバーで構成した1996年のカレンダーより)。photos:Mariko Omura

editing: Mariko Omura

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