Hot from PARIS いまパリで起きているコト パリっ子の今年のヴァカンスは、地方へのアート旅。

Paris 2022.08.19

パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。ポストコロナでヴァカンス事情が変化したフランスで、「アート」が旅のキーワードに?


持続可能な旅のあり方が語られ、飛行機旅より近場の旅を奨励する空気の中で、国内の旅スポットが見直されている。ヴァカンス時期、パリっ子たちの旅心をそそるのは、城の庭園や名所などの特別な空間で行われる現代アートの展示だ。

たとえば、ランスにあるシャンパーニュメゾンのポメリーでは、ワインカーヴをメイン会場に現代アート展を行っている。醸造中の瓶が並び、酒の神バッカスを讃えるレリーフや聖母子像の彫像などが壁を飾る19世紀のカーヴは、古代の石灰岩の切り出し場を地下通路で繋いだ全長18km。地下空間に向かう116段の階段では、蔡筱淇(ツァイ シャオチー)+吉川公野による色鮮やかなオブジェのインスタレーションが見学者を迎える。長い通路に鍾乳石の柱を思わせるブロンズ作品を並べたリオネル・サバテ。無数のポリエステルテープで、高さ30mの空間に幾何学的なインスタレーションを展開したアンヌ=フロール・カバニス。ひんやり仄暗い、迷路のような地下空間を彩るアート作品はどれもIN SITU(イン・サイチュ)、つまり"この展示空間のためにクリエイトされ、設置されたアート"だ。

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リオネル・サバテの『Champs d'Oiseaux(鳥たちの野原)』。石灰の石切り場跡に作られた醸造カーヴで、鍾乳石のように林立するブロンズの柱。先には小鳥の姿が。©Ballade Studio
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蔡筱淇+吉川公野の『Pop Blooms and Stars Series』が地下カーヴに向かう階段を彩る。©Ballade Studio
『Experience Pommery #16 Rêveries』
●開催中~11/8
Domaine Pommery
5, place du Général Gouraud 51100 Reims
www.champagnepommery.com

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ロワール川に臨むショーモン=シュル=ロワール城も、広大な庭園を散策しながら発見する現代アートの野外常設展示が評判だ。毎年初夏から秋口までは、城内と厩舎を会場に企画展を行うが、その大半がIN SITU。中世に起源を持つ城の歴史と現代アートが、心地よく響き合う。

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広大な城の公園の彫刻インスタレーションは常設。毎年新作が加わる。ジャウメ・プレンサのインスタレーション。©E. Sander, courtesy Galerie Lelong & Co. Paris
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アリソン・スティゴラのインスタレーション『Flux』© E. Sander
『Saison d'Art 2022』
●開催中~10/30
Domaine de Chaumont-sur-Loire 
Centre d'Arts et de Nature 41150 Chaumont-sur-Loire
www.domaine-chaumont.fr

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ジャン=ミッシェル・オトニエルの『水の夢』の展示も、この夏のニュースのひとつだ。パリから電車と車を乗り継いで3時間ほど、リヨンの南に位置する町に、19世紀末に郵便配達員ジョゼフ・フェルディナン・シュヴァルが築いたパレ・イデアルがある。このナイーブアートの夢御殿に寄せて、オトニエルがガラスの城をイメージ。時代も素材も個性も違うふたつの夢が競演する姿は、田舎町ならではの味わいだ。

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郵便配達員が道で見つけた石から生まれた夢の御殿。ジャン=ミッシェル・オトニエルのガラス作品は、建物の内部にも展示されている。© Jean-Michel Othoniel Adagp, Paris, 2022
『Le Rêve de l'Eau Jean-Michel Othoniel』
●開催中~11/6
Palais idéal du Facteur Cheval
8, rue du Palais 26390 Hauterives
www.facteurcheval.com

シャトー・ラ・コストやラ・コマンドリ・ペラソルなど、現代アートコレクションを展示するワインメーカーが数を増し、広い敷地でアート散策を提案するホテルもある。自然の中や、特別な建築物での展示は、ともすると肩に力の入りがちな現代アート鑑賞にリラックス気分をプラスする。ストレスフルなパリの日常から離れ、空間とともに丸ごと作品を体感することは、アートが本来、生活の中に存在すべきものだったことを思い出させてくれる。

*「フィガロジャポン」2022年9月号より抜粋

text: Masae Takata (Paris Office)

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