パリ新名所のオテル・ドゥ・ラ・マリーヌで、グルベンキアン展を。

Paris 2022.09.09

昨年6月、コンコルド広場に面したかつての海軍省本部の建物オテル・ドゥ・ラ・マリーヌが4年の改装ののち、フランスの18~19世紀の装飾芸術の鑑賞の場として一般公開を始めた。それから少し遅れて、11月、建物内に別料金(11.50ユーロ)で入るアル・サーニ・コレクション財団美術館がオープン。設計を手掛けたのは建築家の田根剛で、カタール王族のアル・サーニ殿下のコレクションを常設展示するスペースである。

ギャラリー3は企画展のための会場で、『グルベンキアン』展が10月2日まで開催されている。アルメニア人のカルースト・グルベンキアン(1869~1955年)は、石油事業で財を成し、20世紀初頭の偉大なるアートコレクターのひとりに数えられる人物。60年をかけた彼のプライベートコレクションは、1942年に長らく暮らしたパリから引っ越し、亡くなった地であるリスボンのグルベンキアン美術館に所蔵されている。グルベンキアンの美のビジョンに、アル・サーニはコレクターとして多くのインスピレーションを得ているという。2022年はフランス・ポルトガル年。フランスの18世紀装飾芸術に関心をもっていたというグルベンキアンは、スペースを擁するオテル・ドゥ・ラ・マリーヌとの結びつきもある。

20220906-Paris-Gulbenkian-01.jpg

驚きを誘う、ルネ・ラリックの雄鶏のティアラ(1898年)。

20220906-Paris-Gulbenkian-02.jpg

3人の踊り子がモチーフの櫛や、3人の女性を掘ったアイボリーのブローチなどが並ぶルネ・ラリックのコーナー。photos:Mariko Omura

---fadeinpager---

さほど広くない会場内は大きく7つのテーマに分けられている。グルンべキアン美術館から選ばれたブロンズ像、銀器、陶器、書物、織物などアイテムさまざまに展示作品は約90点。時代は古代からアールヌーボーまで幅広い。中でも来場者の興味を集めているのは、ルネ・ラリックのジュエリーや櫛といった品である。ラリックと親交があったグルベンキアンは多数点をオーダーしていて、財団が所蔵するルネ・ラリックの作品は145点。その中からデッサン1点を含む14点の展示だ。とりわけ異彩を放つのは嘴に巨大なアメジストを加えた雄鶏の頭のティアラで、これは1900年に開催されたパリ万博に出品されたもの。展覧会のポスターのビジュアルにも使われている。絵画ファンを喜ばせるのはアルブレヒト・デューラーによる『死んだ野生鴨』、そしてアントワーヌ・ヴァトーによる女性の顔の3つの習作だろう。滅多に干渉する機会のない作品である。親密、希少、工芸、多様性、貴重さ。来場者はグルベンキアンがコレクションする際に彼を導いた5つの原則を、この展示を介して知ることができるセレクションだ。

20220906-Paris-Gulbenkian-03.jpg

左がアントワーヌ・ヴァトーの習作。 右がアルブレヒト・デューラーの静物画『死んだ野生鴨』(1502年または15年)。photo:Mariko Omura

20220906-Paris-Gulbenkian-04.jpg

エジプトかシリア産の14世紀のガラスのうつわに描かれた中国の獅子の姿(写真左の右)など、近づいて詳細を鑑賞できる展示法がとられている。photos:Mariko Omura

20220906-Paris-Gulbenkian-05.jpg

左: イタリア南部の13世紀の碧玉とゴールドのフタ付き水差し。 右: エジプトの第23王朝の王Paribastetの胸像の部分。Fondation Calouste Gulbenkian, Lis- bonne – Musée Ca- louste Gulbenkian photo: Carlos Aze- vedo

20220906-Paris-Gulbenkian-06.jpg

イスタンブールに生まれた彼は、イスラム芸術にも大きな関心を寄せていた。展示にはペルシャの16世紀の絨毯、18世紀のシルクコート、17世紀のオットマンの刺繍なども展示されている。photo:Mariko Omura

---fadeinpager---

グルンべキアンは自分のコレクションを大切にするあまり、家族に見せないだけでなく、パリの自宅に子どもたちが友達を家に招くことも許さなかったとか。展示作品の中にはとっつきにくいものもあるかもしれないが、ガラスケースに収められることなく、無防備と思えるほどの至近距離で展示品に施された仕事、ディテール、素材などを仔細に鑑賞できることにより、その価値を目でしっかりと感じ取ることができる展示法だ。グルベンキアンが暮らしたパリのイエナ大通り51番地の邸宅内の写真も会場に展示して、彼の自宅で鑑賞している雰囲気の演出も見られる。なおオテル・ドゥ・ラ・マリーヌの中庭は8時から翌1時まで開いている。コンコルド広場と中庭の両方に面したカフェ・ラペルーズは午前8時からの営業なので、ここでゆっくりと朝食をとってから見学に向かうのもいいだろう。

20220906-Paris-Gulbenkian-07.jpg

左: カフェ・ラペルーズの中庭に面したテラス席。 中: アル・サーニ・コレクションの会場には中庭から入る。 右: かつての海軍省の建物内をあがってゆく。photos:Mariko Omura

『Gulbenkian par lui-même: dans l’intimité d’un  collectionneur』
会期:開催中~2022年10月2日
Collection Al Thani / Hôtel de la Marine
2, place de la Concorde
75008 Paris
開)10:30~19:00
無休
www.hotel-de-la-marine.paris/jp/node_8564288/node_8666907

editing: Mariko Omura

Share:
  • Twitter
  • Facebook
  • Pinterest

フィガロワインクラブ
Business with Attitude
パリとバレエとオペラ座と
世界は愉快

BRAND SPECIAL

Ranking

Find More Stories