笑顔もデッサンもとびきり可愛い、ウィレミン・バーダヴィル。
Paris 2022.09.28
ウィレミン・バーダヴィル。パリのお気に入りアドレスのひとつ、ロマンティック美術館のカフェにて。www.willlemien.com / Instagram: @willlemien photo:Mariko Omura
170周年を祝うデパートのボン・マルシェでオリジナル陶器も販売され、また10月半ばまで毎週末、売り場の一角でポートレートを予約制で描いているWillemien Bardawil(ウィレミン・バーダヴィル)。彼女が描くカラフルで陽気、そしてロマンティックな作品はとてもチャーミングだ。絵を描き始めたのは2020年とごく最近なのだが、昨年はロンドンのリバティでポップアップやカフェ・ライブラリーでの個展などとても順調に彼女はキャリアを築いている。この夏、ロンドンから引っ越して来たパリで、ウィレミンはどんな活躍をするのだろう。
170周年イベントを開催中のデパートのボン・マルシェ。彼女のデッサンが生かされた陶器、プレースマット、テーブルクロスが販売されている。photo:Mariko Omura
この映像はウィレミンが自身のインスタグラム用に製作したもので、軽快なタッチでポートレートを描くシーンが収められている。ポートレート・イベントは1セッション20分(50ユーロ)で、10月16日までの土日に開催している(予約はこちらのリンクから。タイミングよく空きがあれば予約なしでもOK)。
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まずウィレミンの紹介から始めよう。彼女はロンドン生まれの27歳。ママはオランダ人、パパはレバノン人だそうだ。オックスフォード大学で英文学を学んだけれど、ファッションにもおおいに興味を持っていた彼女はダンヒルに就職した。
「ビジュアル・マーチャンダイジングの担当でした。イベント、ディスプレー、ポップアップなどに関わる仕事。でも2020年に新型コロナゆえに私の仕事に大きな変化があったの。自宅で仕事をするようになり、現場での仕事に比べると刺激も活気も減ってしまって。夜は自宅で余るほどの時間があり、そんなことからオンラインで芸術史を学び、絵を描き始めたんです」
パパは骨董商、兄はコンテンポラリーアート画廊を経営。彼女自身も文学を学ぶかたわらドローイング・スクールなどで講習は受け、週末は仲間たちとロンドン市内の美術館や画廊を訪問するなどアートは常に彼女の身近な存在だった。それゆえだろう、自分のスタイルを見つけるのに時間はさほどかからなかったそうだ。オックスフォードで4年学んだ後、南仏のエクサン・プロヴァンスで勉学を1年続けた際には、後期印象派の仕事について多くを発見した。マティス、ボナール、セザンヌたちの絵画にすっかり魅了されたという。彼らの絵画に感じられるタッチを彼女の仕事に見いだす人もいることだろう。
2020年、ロンドンの自宅で絵を描き始めたウィレミン。アトリエスペースを設け、壁に自作を展示していた。
彼女が水彩やアクリルなど自分の作品をインスタグラムに載せるようになったのは、2020年5月である。それを見たパリのメゾン・フロールから早速コラボレーションの声がかかったのだ。ヴィンテージのリネンと刺繍を生かしたアップサイクリングのブランドで、ウィレミンが描く花が襟に刺繍された愛らしいブラウスなどが作られた。
「インスタグラム経由で、ロンドンのアイコニックなブティックであるリバティのバイヤーからもコンタクトがあったの。あなたの絵をブティックで販売したいと言われて、ワォー!って。これにはとっても興奮したわ。買い物客のポートレートを描くイベントも、リバティで初めて行ったのよ。もともとポートレートはオーダーを受けて描くということをしていて、それをインスタグラムにあげているのをを見て、リバティ側から“これをライブでやってみましょう!”って提案されて……これは大成功だったわ」
ロンドンではカフェ・ライブラリーの「Shreeji News」でクリスマスの時期に個展も開催した。ポートレート、絵画、手描きのツリーオーナメントなどちょっとしたグッズでギフトに最適な品々も用意し、 好評だった。この成功によって、この仕事を続けてゆこうという意欲をプッシュされたそうだ。
左: ポートレートはポップアップでのライブ以外にも、依頼者から送られてきた写真を元に制作している。 右: ロンドンのリバティで初めて開催したライブイベントにて。
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ウィレミンはボーイフレンドが住むパリとロンドンを往復していたので、これまでにパリでも複数のイベントに参加している。「Herbarium」によるドライフラワーをあしらったポートレート制作のアトリエや、ロマンティック美術館で行われたメイクアップブランドの発表会で……というように。
「自分の全エネルギーをアートに注ぎたいと、今年6月に4年勤めたダンヒルを退社し、夏にパリに引っ越して来たの。パリには何度も来ていたので、まだ1カ月ちょっとだけど、もうずっと前から住んでいるみたいな気がする。アパルトマンのある9区はとても気に入っているわ、活気のあるマレ地区を歩くのも楽しい。6区や7区も好き。カフェ、公園、美術館……デッサン帳や水彩セットを持って出かけることもよくあるのよ。ボ・ザールで人物デッサンの講習にも週1回通い始めたのだけど、これにもとっても満足してるわ」
美術館やカフェなどでデッサン帳を取り出して……。@doloresonfilm(@Dolorescfr)
左: ロダン美術館にてデッサンをし、自宅で彩色した4点。中央はオルセー美術館にて。 中: Herbariumのイベントではドライフラワーをあしらった自画像を。 右: ロマンティック美術館でのイベントにて。
昨年の夏には彼女のデッサンをあしらった陶器の制作も始めた。友達とディナーをよく催す彼女に浮かんだアイデアからだ。イタリアのアマルフィ海岸の近くで100年以上続く工房でお皿、ピッチャー、カップなどが手作りされている。アトリエを訪問した際、その手作業の素晴らしさに彼女はすっかり感嘆したという。
「ボン・マルシェ170周年記念イベントでは、陶器だけではなくほかのアール・ドゥ・ヴィーヴルの品も希望されたので、プレースマットもデザインしたのよ。これ、あっという間に売り切れてしまったので驚きました。コットン素材でインドで手作りされていて、クオリティもよいせいでしょうね。いま、再入荷したところです。アール・ドゥ・ヴィーヴルの世界を広く展開してゆきたいし、またファッションの分野でもコラボレーションができたら、って願っています。自分のデッサンをさまざまな分野へと広げているマラン・モンタギューのように仕事ができたら、うれしいわ」
パリに越してくる前、ロンドンではインテリアブティック「Lamp London」の外観も手がけたウィレミン。パリでも彼女のキュートな仕事がこうして見られるようになったら、きっと街ゆく人に素晴らしい笑顔を与えることになるだろう。
左: ボン・マルシェの170周年展の特設スペースにて。 右: 会場でカップルやペット連れのポートレートも描くウィレミン。ギフト用には写真から彼女はポートレートを描く。photos:(左)Mariko Omura、(右)Willemien Bardawil
陶器のためのデッサン。天使のマグカップはボン・マルシェで24ユーロで販売中だ。
左: 外観を手がけたロンドンのインテリアショップLamp London の前で。 右: ギリシャ旅行では、こんなチャーミングなデッサン集も。こうしたアイテムも今後依頼がくることだろう。
editing: Mariko Omura