Hot from PARIS いまパリで起きているコト 「ボディポジティブ」の本質を体現するエスター・マナス。

Paris 2022.12.09

パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。多様性の時代、ランウェイでオーバーサイズモデルを起用することが当たり前となった中で、ボディポジティブを本質的にとらえ、ファッションの楽しみを発信するブランド、エスター・マナスが気になる。


「スリムなモデルばっかりのショーだったね」

9月末のパリ・ファッションウィーク、あるショーの出口でそんな言葉が聞こえてきた。思えば、ハイブランドのランウェイにいわゆるオーバーサイズモデルが一挙に登場して話題を呼んだのは、2年前に開催された2021年春夏のファッションウィークだった。サイズ34のモデルや、標準体型という言葉に囚われて自己肯定できないのはおかしいのでは? そんな"ボディポジティブ"が叫ばれるいま、どのショーにもサイズ40以上のモデルが登場するのが当然で、むしろほっそりしたモデルばかりのキャスティングが珍しく見える。いまやボディポジティブは、自己肯定の意味でのウェルビーイングや、すべての人を包括することを目指すインクルーシブとリンクした大きな流れになった。オーバーウェイトの肯定が健康上のリスク拡大に繋がるという批判や、オーバーサイズモデルの起用はマーケティング狙い、という見方ももちろんある。だが、人種も文化も混じり合うパリで、女性たちの体型のバリエーションが日本よりもずっと幅広いのは確かなのだ。

そんな中、19年にスタートしたブランド、エスター・マナスのアプローチは、単にオーバーサイズも展開します、という他ブランドとはひと味違う。デュオデザイナーによれば、コンセプトは「ワンサイズ展開で体型によって表情が変化する服。幅広い体型の女性に向けたクリエイション」。ブリュッセルのモード学校で出会ったふたりは、18年にイエール、20年にLVMH、21年にはアンダム、とプレステージの高いモードコンクールを総なめにし、この秋には故アルベール・エルバスが立ち上げたインクルーシブを掲げるブランド、AZファクトリーにもコレクションを提供。来年夏にはコペンハーゲン発のエシカルなブランド、ガニーともコラボレーション、と快進撃の予感いっぱいだ。

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ブリュッセルのモード学校、ラ・カンブル国立美術学校で出会ったエスター・マナス(左)とバルタザール・デルピエール(右)。Ester Manas & Balthazar Delepierre 

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本国版「マダム・フィガロ」のロングインタビューで、エスターはこう語っている。

「サイズ44の私は、素敵な服を店で見つけられなかった。標準からはみ出たボディに、クリエイティビティのある服を提案できないのは残念だと思っていたから」

彼らの23年春夏コレクションは、リブニット、シャーリング、カシュクールなどで肌を見せるグラマーなコレクション。ショーには、晴れ晴れとした表情で大胆な肌見せドレスを着こなすさまざまな体型の女性が登場した。美は自分を肯定することから生まれる。そんなメッセージが聞こえてきそうだ。

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エスター・マナスの23年春夏コレクションより。リブニット、ジャージーなどの素材を巧みに使い、どんなボディでも着こなせる。ライラックやレインボーカラーの陽気な色使い、カットオフや透け感のあるグラマラス&ポジティブなイメージ。

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毎シーズン主張のある若手デザイナーによるコレクションを発信するAZファクトリー。フランドル絵画風にフルーツを描いたプリントには、「食べることにも罪悪感を抱かないで」とのメッセージが。

*「フィガロジャポン」2023年1月号より抜粋

text: Masae Takata (Paris Office) 

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