フォンダシオン ルイ・ヴィトンで『モネ - ミッチェル』展。
Paris 2023.01.19
クロード・モネとジョーン・ミッチェル。時代は異なれど、ヴァル・ドワーズ県のヴェトゥイユでセーヌ河畔の風景を共有したふたりだ。photos Mariko Omura
2月27日までフォンダシオン ルイ・ヴィトンでは『モネ - ミッチェル』展が開催されている。クロード・モネ(1840~1926)とジョーン・ミッチェル(1925~1992)というふたりの画家の作品が対話し、またミッチェルの回顧展という構成だ。ミッチェルの作品は2021年にエスパス ルイ・ヴィトン大阪で紹介されたので、彼女の名前にピンとくる人もいるだろう。ヨーロッパではアートファンでないと彼女の仕事について詳しくない人も少なくないので、地下のギャラリー1と2を使っての回顧展でジョーン・ミッチェルの作品を展示。グランドフロア(1階)と上階のギャラリー4~11では、モネと彼女の対話が紹介されている。
展覧会は昨年、ミッチェルの没後30回忌を25日後に控えた日に始まった。ギャラリー1では彼女の作品を時代を追って展示。1951年にレオ・キャステリがキュレーションした有名な抽象表現主義の「Ninth Street Art Show」に展示されたニューヨーク時代から始まり、1950年代にアメリカとヨーロッパを往復した時代、1960年代にアトリエを構えたパリ15区のフレミクール通り時代、そして、モネが1878年から3年暮らし、彼女が1968年に永住したヴァル・ドワーズ(Val-d’Oise)県のヴェトゥイユ時代という順だ。ギャラリー2では、彼女の晩年の20年間、1970年代にヴェトゥイユで制作された作品を、「フィールドあるいはテリトリー(fields or territories)」「記憶(memory)」「絵画(painting)」というテーマで紹介。ダイナミックな筆使い、弾ける色彩……展示作品に彼女の制作光景が目に浮かんでくる。
地下のギャラリーでのジョーン・ミッチェルの回顧展より。右はフォンダシオン ルイ・ヴィトン所蔵の『Minnesota』(1980年)。photos:(左)© The Estate of Joan Mitchell © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage、(右)© The Estate of Joan Mitchell
『回顧展』では作品と同時にヴェトゥイユでの彼女の制作環境も紹介している。photos:Mariko Omura
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この展覧会の目的は色と光の絶え間ない探求、パレットの強さ、そして風景との密接な結びつきに特徴付けられるミッチェルの作品の特異性を強調することとキュレーターは語っている。自分の記憶やそれが呼び起こす感情、さらにマティス、セザンヌ、モネ、ゴッホといった近代絵画の巨匠たちの作品にインスパイアされた彼女だが、音楽、詩にもインスピレーションや等価性を見いだしていたそうだ。ミッチェルの作品を前にすると、これは風景画なのか抽象画なのか、と誰もが思うことだろう。彼女の言葉によると、「私の絵は抽象であるが風景でもある」と。
4フロアで展開されるモネとミッチェルの作品の対話で展示されているのは、モネについては1883年から暮らしたジヴェルニーでの作品と、ミッチェルについては主にヴェトゥイユ時代に制作された作品だ。7つのテーマに分かれ、テーマごとにふたりのアーティストの視覚、芸術、感受性、そして詩的な対話に来場者は“目”を澄ますことにもなる。テーマは「反射と透明“青の時間”」「センセーションとフィーリング」「詩情の存在」「地平線も岸辺もない波」「モネ/アガパンサス三部作、ミッチェル/エドリータ・フライド」「大峡谷」「すぐ近くの風景」と続く。今回、ほぼ全作品が額縁なしでの展示なので、リミットぎりぎりまで近づいてその筆致を鑑賞できるのも素晴らしい。
地上階ギャラリー4。最初の対話「反射と透明“青の時間”」より。手前のクロード・モネの2作品の間に、後方のジョアン・ミッチェルの『Quartuor II for Besty Jolas』(1976年)を同時に鑑賞。両者の作品のカンバセーションを意識した会場構成に感動させられる。photos:Mariko Omura
左: 対話「センセーションとフィーリング」の展示から。左がミッチェル、右がモネの作品だ。 右: ジョン・ミッチェル『La Grande VallléeXIV(For a Little While)』(1983年)。この作品はパリ市近代美術館の所蔵だ。 photos:(左)© The Estate of Joan Mitchell © Fondation Louis Vuitton / Marc Domage、(右)© The Estate of Joan Mitchell
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さて、対話がテーマの展覧会ではあるがギャラリー9はとりわけモネのファンを喜ばせるに違いない。ここでは彼自身が自分の4つのベストシリーズの中のひとつに数える“アガパンサス三部作”(1920~26年)を展示。アメリカの3つの美術館がそれぞれ1点ずつ所蔵し、こうして三部作としてパリで展示されるのは1956年以来のことだそうだ。合計13メートルの長さなので、近づく前にまずは距離をとって鑑賞を。なお、この三部作は現在マルモッタン・モネ美術館が所蔵する『藤』(1919~20年)と一緒にオテル・ビロンに展示される予定だったものだそうで、ギャラリー9では『藤』の2作品も展示。この稀有な展示のためだけでも、この展覧会を訪問する価値がありそうだ。
ギャラリー9のクロード・モネ『アガパンサス三部作』。それぞれサイズは200×425cmで、アメリカの3つの美術館(クリーヴランド・ミュージアム・オブ・アート、セントルイス・アート・ミュージアム、カンサスシティのネルソン・アトキンズ・ミュージアム・オブ・アート)から。こうして鑑賞できる貴重な機会は2月27日まで。 photo:©︎ Fondation Louis Vuitton / Marc Domage
左: ギャラリー9で展示のクロード・モネ『藤』(1919〜20年)。2点ともサイズは100×300cmでマルモッタン・モネ美術館所蔵だ。photo:Mariko Omura 右: ギャラリー4で『睡蓮』(1914〜1917年)と並べて展示されている『アガパンサス』(1916〜1919年)。これが『アガパンサス三部作』の最初のパネルの左下部の習作だ。
会期:開催中~2023年2月27日
Fondation Louis Vuitton
8, avenue du Mahatma Gandhi
75116 Paris
開)11:00〜20:00(月、水、木) 11:00〜21:00(金) 10:00〜20:00(土、日)
休)火
料金:16ユーロ
www.fondationlouisvuitton.fr
editing: Mariko Omura