パリジェンヌが暮らす部屋 CASE #01 パリの空からの光で猫と過ごすクリエイティブな空間。

Paris 2023.02.10

色や装飾を巧みに取り込んだ空間づくりや、部屋の片隅や窓辺に置くオブジェにも愛らしいこだわりがある。そんなパリジェンヌたちの暮らしを彩るパリの日常に欠かせない素敵なものたちを紹介。それらが生まれる手仕事の工房を訪れるなど、ロマンティックな暮らしの背景にある、繊細で美しい物語を紐解いてみました。

刺繍アーティスト/セリア・ブリュノー

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愛猫ピトゥと一緒にソファで寛ぎながら、刺繍に集中。地方を旅行した際に、ブロカントで見つけた淡いグレーのカーペットなど自宅に土産品を飾ることも多い。

「生きることは創造であり、創造することは生活そのもの。だから自宅とアトリエを隔てる必要もなくて、生活の中でものづくりに取り組んでいるわ。創造性を育む環境にするため、ミニマルなインテリアがこだわりよ。シンプルだからこそ、一つひとつのものが持つ空気感や温かみといった、目に見えない要素に敏感になり、心がときめくから」

天井からも、大きな窓からも!
自然光こそ部屋をきれいに見せる装飾品

天井と壁一面のガラス窓から柔らかい日差しが差し込むリビングルームで、セリアは刺繍アーティストとしての暮らしぶりを語る。彼女の自宅があるのは、芸術家の街として知られる小高い丘に広がるモンマルトル。画家であるパートナーと、2匹の猫とともに、2022年2月から暮らし始めたそう。アーティストカップルにとって、日当たりの良さとパリの景色が望める立地と構造は理想的だったと振り返る。

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家具のリセールマーケットプレイス、セレンシーで購入したレトロなライトシェードをキッチンスペースに飾っている。

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自宅に欠かさないという花は、ブーケではなく1種類だけ花を選んで挿すのがお決まり。「同じ種類の花の異なる表情を楽しみたい」から。

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友人が創作した花瓶やうつわで食卓を飾る。蚤の市で見つけたダイニングテーブルで、友人に料理を振る舞う週末がセリアの心を満たす時間。

「不動産業者から、私たちに保証人がいないことを理由に入居を拒否されてしまった。どうしても諦められなかったから、思い切ってオーナーに直接手紙を出してみたの。オーナーの女性の父親はフォトグラファーで、この場所を写真スタジオとして使っていたと教えてくれた。若いアーティストカップルである私たちが、クリエイションをする場としてここを引き継ぐことを喜んでくれて、ここから何かが生まれることを応援してくれたの」

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パリジェンヌの暮らしを豊かにするものは何? その質問にこんなふうに答えてくれた。

「古いものが持つ風合いには癒やされる。そうね、この家の中で唯一アンティークでないのは……生後6カ月の愛猫ピトゥだけかも!」

刺繍糸で遊ぶのが大好きないたずらっ子ピトゥは、この部屋での時間を穏やかにしてくれるセリアにとってなくてはならない大切な存在のひとつだ。

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布部分の劣化が激しくなったアンティークのチェアを、コーデュロイの生地に張り替えて長く愛用している。縫製技術は不要で、大切なのは“気持ち”と語る。

床のタイルの色や質感までこだわり抜いて改装

長年使用されていなかったため床やバスルームは大規模なリフォームが必要だったが、すべて自らの手で改装に取り組んだ。

「友人に手伝ってもらって1カ月で住める状態に。手間暇かけたほうが愛着が湧いて大切に使おうと思えるし、改装は“これからよろしく”とアパルトマンに挨拶するような気分だった」

完成したアパルトマンを彩るのも、愛着のある古い品ばかり。アンティーク家具や実家で両親が使用していたインテリア雑貨など、新品で購入したものは一切ない。時には友人と物々交換したり、刺繍作品のギフトのお返しにと、手作業で作られた陶器を受け取ることもある。旅行先では必ず蚤の市やアンティークショップを巡り、旅の思い出としてパリに持ち帰ることも。もの選びの基準は「湧き上がるエモーション」だと話す。

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改装に最も時間を費やしたバスルームが、いまでは最も寛げる空間に。こだわったのは床のベージュのタイルの配色。

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アパルトマンは奥行きのある縦長。いちばん奥にベッドルームとバスルームを備える。

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水彩絵の具で描いたエーゲ海に浮かぶフォレガンドロス島。1年の半分は旅行に出て、実際に見た自然風景を作品にする。

「デザインの良さよりも、風合いや味わいが独特で、どこか懐かしさを覚えるようなものが好き」

彼女が住まう空間は、自身の刺繍作品と共通する飾り気のない素朴な世界観に包まれている。糸を使って自然風景を描くセリアは天然素材を好み、インテリアにも創造の源泉となる空間へのこだわりを詰め込んだよう。塗り替えた壁は目の覚めるような白で統一し、アンティーク家具は木の素材感で。ソファも、革製は選ばずリネンで設え、壁の白となじむ観葉植物のグリーンのトーンと溶け合う優しい色彩で揃えている。

「作品作りでは繊細な色の調和が要だから、私生活で目や頭がクリアになるよう、インテリアではほとんど色を使わないの。刺繍やペイントって細かな手作業だから、窓からパリを見渡して遠くを眺めると、視覚的にも癒やし効果がある。景色は見渡せるのに、中庭に面しているから街の音とも無縁。感覚を研ぎ澄ます閑静な暮らしが実現できていて、とてもありがたいの」

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経年変化を楽しめるアンティーク家具こそ必需品

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刺繍やペインティング、読書のスペース。パートナーが持ち込んだアンティークのテーブルが、セリアの作業場。「テーブルも椅子も年月を経て、ウッドの色調が変化していくのが楽しみ」

都会にいながら、田舎暮らしのようなゆっくりとした時間が流れる空間。アンティーク家具、旅の思い出の品々、友人のハンドメイドの作品に囲まれた生活。ものとの親密な関係性を築くのが彼女のライフスタイルそのものである。

「アンティーク家具やテーブルウェアには、歴史と物語が刻まれている。誰かが愛した古いものには、傷があったとしても、予定調和ではない美しさが宿っている。私にとっての美しさとは“欠けている”ことを意味し、不完全を愛でる美意識こそが創造へ、そして充実した暮らしへと繋がっているの」

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ブロカントで手に入れた大きな棚に、創作に必要なツールをすべて収納している。レコードで聴くジャズも、暮らしを彩る必需品。

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いまのアパルトマンでの生活を始めてから、創作意欲が増したというセリア。画家のパートナーの影響で、描画にも夢中に。

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幼い頃から本の虫だった彼女が所有するのは、古書や画家の自叙伝、フォトブックなど。本は、異なる文化の美意識を感じ取れるインスピレーション源になる。

Célia Bruneau
リモージュ生まれ、パリ育ち。ファッションスクール卒業後、アパレル企業で開発と販売に従事。10年前から趣味で作り始めた刺繍作品をコロナ禍にSNSで発信したところ話題に。2020年に刺繍アーティストとして独立し、作品制作やワークショップを行っている。
www.celiabruneau.com

*「フィガロジャポン」2023年2月号より抜粋

photography: Sophie Arancio text: Elie Inoue

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