Hot from PARIS いまパリで起きているコト パリジャンの意識と未来を変える、新雑誌が創刊。
Paris 2023.03.19
パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。社会課題にポジティブな視点で向き合い、美しいビジュアルで未来への行動を促す、新しい価値観の雑誌が誕生した。
「BEAU」―「美」を意味する言葉をタイトルに掲げた雑誌がパリで産声を上げた。100歳を超える哲学者エドガール・モランによる美についての考察やパティ・スミスのインタビューがあり、ジェンダーのあり方を問う若者たちのポートレートも並ぶ。変化する社会を担い、明日をより美しいものにする人たちを紹介するルポのテーマは、文化、衣食住、旅など多岐にわたる。合間にはサステイナブルな新ブランドのアドレス紹介もある。アートディレクションは人気デザインユニット、サンラザール。誌面を通して感じられるのは、未来へのポジティブな視線だ。
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編集長のシャルロット・ルドーは、ペンの力で世の中を変えたい、とジャーナリストになった。モード雑誌の編集長を10年間務めたが、「重要な問題を軽やかに語る」女性誌のあり方が変わってしまったと感じて辞職。パンデミックによる最初のロックダウンの時、彼女はグランシェフたちを動員し、病院のスタッフに食事を提供する運動を起こす。この企画の成功で、「未来のために行動する準備はみんなできている。人と人を繋ぐ誰かが必要なだけ」と実感した。そこから社会的意義と魅力的なビジュアルを併せ持ち、「クールな意識」を価値観とする雑誌の企画が生まれた。「BEAU」の表紙には、"ポジティブインパクトのガイド"という言葉がある。そこから浮かび上がるのは、「明日のためにどんな行動を?」「どんなチョイスが?」と自問するパリジャンの姿だ。創刊号発売から3カ月、編集部には、定期購読や寄付で雑誌を支えたい、という読者の声が寄せられている。
活動家たちが、告発、デモを繰り返し、メディアも報道を続けて、環境問題が最優先事項であることはパリジャンにとって共通の意識となった。今年1月には使い捨てプラスチック容器の使用を制限する法律が施行され、起業する若者にとっても地産地消やトレーサビリティへの取り組みは大前提だ。ダメなものを糾弾するだけの時代は終わろうとしている。いま求められるのは、罪悪感や不安を抱いてうつむくより、未来に向けて前進するための手段と方法を見つけること。そこには、欲しい、おいしいと思える魅力、日々の喜びや感動があること―つまり、"美しいこと"が、重要な要素なのだ。
●1ユーロ=約143円 (2023年2月現在)
*「フィガロジャポン」2023年4月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)