また行きたくなる......7区に開店した和×仏創作料理のアカベコ。
Paris 2023.04.20
55年来の夢を叶え、この春、息子とともに自分のレストランを開いたシェフのYasuo Nanaumi(七海保男)。出身地が福島ということから、魔除けで知られる会津の名物である張り子の赤い牛“あかべこ”を店名にした。場所は7区のシックな一角だ。
ラスパイユ大通りの「Maison de l’Amérique latine(メゾン・ドゥ・ラメリック・ラティーヌ)」で11年間料理長を務めていた七海シェフは、その前はムーラン・ドゥ・ムージャン、トロワ・グロ、リュカ・カルトンといったミシュランのスターレストランで経験を積んでいる。いずれも80年代に一斉を風靡した3ツ星店だ。アカベコ開店前にはパリ市内に作った居酒屋「AO」で、日本で昔から愛されている伝統的な料理を作っていたという。その彼がアカベコで提案するのは、洗練のフランス料理と和の味に精通しているシェフならではの創作料理である。アラカルトはなくランチもディナーもお任せオンリーだけれど、彼の舌、腕前、センスを信じて! 料理人としての彼の長い人生において、フランスと日本の文化がひとつに溶け合って熟成。その実りを食事客は味わうのである。厳選されたハイクオリティの季節の素材を生かした味わい深い料理が次々サービスされるお任せコースなので、季節が変わるごとに行かなければ……と食後に思うはずだ。
左: ブティックやギャラリーが並ぶユニヴェルシテ通りにオープンしたアカベコ。 右: 1階のカウンター席の棚に、さりげなく赤ベコが飾られている。photos:Julie Limont
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お任せメニューは5皿(79ユーロ、土曜を除くランチタイムのみ)と7皿(129ユーロ)の2種あり、それぞれワインのペアリングも楽しめる。食事は突き出しからで、いまの季節なら“巾着”だ。シソの葉に包んだ帆立貝の巾着の天ぷらに柚子胡椒のマヨネーズソースが添えられ、上にはフランス産のキャビアが。きれいな緑色で、天ぷらもとても軽く揚げられている。この始まりにノックアウトされて、あとはもう次のお皿を待つばかりとなり、その興奮はデザートまで続く。日本料理とフランス料理の見事な融合の例として、前菜のひとつであるフォアグラの寿司が挙げられる。酢の酸味がほどよい寿司の上に乗っているのは、フレンチ・ガストロノミーにおける3大珍味に数えられるフォアグラの軽いポワレで、味付けは照り焼きソースだ。お皿の中に色彩を添えるのは、赤カブの天ぷらとパンジーの花……これに限らず、アカベコのテーブルに登場するのはキッチュでもなく実験的でもない、繊細な完成料理である。
ある日の5皿お任せコースから。左: アミューズ・ブーシュとして帆立貝の巾着。 右: ハマチのカルパッチョ。とびっこ、ワサビ、大根が飾られ、オリーブオイル、ゴマ油、高知のユズと醤油のソースで。photos:Julie Limont
左: フォアグラの照り焼きソース寿司。 右: 舌平目のグージョネット、シャンパンソース。photos:Julie Limont
左: エリンギ、根セロリのピューレを添えたシャロレー牛の低温焼き。ブナの木のスモークを閉じ込めたガラスのクロッシュに被されて登場する。右: デザート。photos:(左)Julie Limont、(右)Mariko Omura
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地上階はカウンター席の細長いスペースなので通りに面したエントランスも控えめだけど、2階のレストランスペースはゆったりとしている。オーク材の棚、雲のようなフォルムの鏡、ガラスの花瓶に飾られた可憐な花……威圧感のない快適な食空間をデザインしたのはStudio Heklaのトマ・ピュジョルだ。5皿にしても7皿にしても、日常とはちょっと異なる食事である。アカベコに予約をしたら、その日のメインイベントとしてたっぷりと時間の余裕をとって赴くようにしよう。
左: 息子のケンと並ぶ七海保男シェフ。その昔、彼がフランスに料理修行に来た当時は日本からスパイが来たと警戒されたという。日本人の料理人がもてはやされるいまのパリとは隔世の感がある。今年72歳のシェフは、この初の自分の店で星を目指すと意欲を燃やしている。 右: 1階のカウンター席。奥がオープンキッチンだ。photos:Julie Limont
通りに面した窓から外光が入る居心地の良い空間。壁際の席なら、ひとりでも落ち着いて食事ができそう。外国人スタッフも日本語で料理を説明してくれる。photos:Julie Limont
40, rue de l’Université
75007 Paris
営)ランチ12:00〜13:45(L.O.)、ディナー19:00〜21:45(L.O.)
休)日、月
www.akabekorestaurant.com
@akabeko.restaurant
editing: Mariko Omura