晴天の週末はムードンの森へ。"Y格納庫"でアート散策と食事を。

Paris 2023.05.04

年間20万人が訪れ、フランスで最も多くの人を集める森だという、パリ郊外に広がる990ヘクタールのムードンの森。ムードンという地名はロダン美術館があり、その庭に彫刻家が葬られているお墓もあることから耳にしたことがある人もいるだろう。そこからバスを使って約20分の場所、森の一角を占めるシャレ・ムードン公園にアートセンター「Hangar Y(アンガール・イグレク)」が3月22日にオープンした。緑あふれる大自然の中にアート作品を配し、ギャラリースペースでは企画展を開催している。

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歴史、テクノロジー、芸術、自然が交差するアンガール・Y。1878年パリ万博の遺産だ。photo:Mariko OMURA

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1963年、シャガールがオペラ座の天井画を用意した格納庫。

鉄とガラスとレンガでできたギャラリーの建物は19世紀末の建築物だ。エッフェル塔が誕生するきっかけとなった1878年開催のパリ万博。その際にシャン・ド・マルスに建築された機械館(グランド・ギャルリー・デ・マシーン)の1区画が万博終了後、ムードンで飛行船の格納庫(アンガール)として活用されるために移築されたのだ。奥行き70m、ガラス屋根の天井の高さ23m。1884年、ここで飛行船の初飛行が成功し、フランスの航空界に歴史を刻んだ格納庫なのだ。19世紀末から第一次大戦の終わりまで、ここが飛行船のテストおよび製造の場だった。大戦後は航空博物館となり、現在ではその所蔵品はブルジェにある博物館にて展示されている。アンガール・Yは1981年に閉鎖され、40年間静かに眠っていた。

なお、この広大な空間は画家マルク・シャガールが1963年に12点のパネルからなるオペラ・ガルニエ宮の天井のフレスコ画の準備をした場所である。作品は約220㎡というサイズ。この巨大な空間がおおいに役立ったのだ。

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飛行船の歴史が1884年に始まったY格納庫。奥行き70m、天井の高さは23mある。40年の眠りから覚め、文化施設として新しい人生をスタートするために大がかりな改修工事が行われた。photo:ABommart

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企画展とオープンエアの展覧会。

企画展は年に2つ予定され、初回の展覧会は『Dans l’air』。飛行に関わる作品を世界から集め、時代順に展示している。吹き抜けの高い天井の格納庫内、ぐるりと3方に巡らされた中2階のギャラリーが会場。空を飛びたいという人間の願い、時代を追って変化する空間の移動法がいかにアーティストたちにインスピレーションを与えたかを見ることができる。会場構成を担当したのはNCエージェンシー。最近ではパリ装飾美術館の『ショッキング! エルザ・スキャパレリのシューレアルな世界』を手がけたエージェンシーで、ここでは飛行にまつわる想像と狂気を感じさせるキャビネ・ドゥ・キュリオジテ的な展示を作り上げた。

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左: 常設されているイ・ブルの『Willing to Be Vulnerable, Metalized Balloon V5』。 中・右: 夢が詰まった翼、空飛ぶ自転車……最初の企画展はArt Explora財団による『Dans l’air』。photos:Mariko Omura

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左: 吹き抜けのホールの中2階をぐるりと囲む展示スペース。 中: 航空科学にまつわるオブジェも展示。 右: 天井にはロール・プルーヴォ作『Airplane teapot chandelier』(2019年)。

アンガール・Yには企画展を催すこの格納庫があり、それを森が囲んでいる。ムードンはかつて王家のシャトーがあった土地で、16世紀に公園を設計したのはルイ14世に愛された造園家ル・ノートルだ。格納庫Yが面する6角形の池もル・ノートルのデザイン。この池の周囲、そして森の中で18点のコンテンポラリーアート作品の鑑賞が楽しめる。クリスチャン・ボルタンスキー、ウーゴ・ロンディノーネ……あらゆる年齢層を対象に、環境に調和した作品が選ばれているので、ゆったりとした歩みで時間を忘れて自然とともに満喫したい。

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左: 年頭にボン・マルシェでエキジビションを行なったインド人アーティスト、スボード・グプタの作品『Jalsa』(2023年)。インドのキッチンで用いられるアルミの鍋など調理道具を素材にした作品は公園内で目を引く。 中: 作品の内部でイベントが開催されることもある。 右: 作品はシャレ池に面し、対岸からも眺められる。photos:Mariko Omura

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左: アデル・アブデスメッドの『Die Taubenpost』(2023年)。爆薬を背負った2羽の鳩は日常の中のバイオレンスを象徴する。 中: ウーゴ・ロンディノーネの『Cold Moon』。時間のメタファーであるオリーブの木は白いアルミ製だ。 右: キキ・スミスの『Teeth Fountain』(1995年)。photos:Mariko OMURA

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カフェレストラン「ペルショワール」で憩う。

はるばるここまで足をのばしたのだから、ゆったりと過ごすことにしよう。池に面したカフェレストラン「Perchoir(ペルショワール)」が4月20日にオープンした。高い場所や止まり木を意味する店名のペルショワール。マレ地区やベルヴィルなど建物の上階に店を開き、いま流行りのルーフトップの口火を切ったグループによるレストランである。

ムードンの丘の上、アンガール・Yに生まれたペルショワールは池に足を浸しているという感じの横長の建物である。室内建築を任されたファニー・ペリエはレストラン内に、自然に呼応するように木素材を多用。使われているのは目に優しい色ばかりで寛ぎを感じさせる。彼女がイメージしたのは芸術家の隠れ家だそうだ。

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池に面して建つカフェレストラン「Perchoir」。営業は5月半ばまで19時30分~24時(木金土)、12時~15時(日)。5月半ば以降は12時~15時(火~日)、19時~24時(火~土)。予約者は公園の入場券なしに予約時間の30分前から来店可能。予約がない場合は、公園の入場券の購入が必要。©︎ Perchoir

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天井、床、テーブル、椅子……木の温もりが空間に広がる池に面した森のレストラン。photos:(左・中)Jérome Galand、(右)Victoire Terrade

料理はスターシェフのギヨーム・サンシェーズの監修だ。彼のDNAから生まれるのはブラッスリー料理である。ここでは季節の素材のシーフードがメニューに並ぶ。場所がら、つまんで味わうシンプルなスナックタイプも。広々としたテラス席もあり、ここで太陽を浴びながらフイッシュ&チップスや魚介の盛り合わせを前に憩いのひと時を!

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左: 前菜のジャガイモのゴーフル(12ユーロ) 中: タラのポトフ(28ユーロ) 右: 中央は海の幸の盛り合わせ(2人前60ユーロ、ロブスターをプラスすると120ユーロ)。右上はフライドポテトとロブスター(60ユーロ)。photos:Victoire Terrade

Hangar Y 
9, avenue de Trivaux
92190 Meudon
https://hangar-y.com

<4月~9月>
公園 10:00~20:00(月〜金) 10:00~22:00(土、日)
Hangar Y 10:00~20:00(週末、学童休暇期間)

<10月~3月>
公園 10:00~18:00(月〜日)
Hangar Y 10:00~20:00(土日、学童休暇期間。12/25と1/1は休館)

料金:公園+企画展 10ユーロ(6歳以下無料)、公園入場料3ユーロ。

アクセス
・地下鉄12番線Corentin Celton駅とHangar Yを結ぶシャトルバスが30分間隔で運行される。(週末、学童休暇期間)
・地下鉄9番線Porte de St-Cloud駅から、バス289号でCimetière de Trivaux下車。徒歩5分。
・高速地下鉄RER CのMeudon-Val-Fleury駅から、バス289号でCimetière de Travaux 下車。徒歩5分。

editing: Mariko Omura

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