Hot from PARIS いまパリで起きているコト ファストファッションと古着。プチプライスの行方は?
Paris 2023.07.21
パリでいま注目の出来事を、パリ支局長の髙田昌枝がリポート。
20区にオープンした風変わりな古着店がメディアを賑わせている。2台並んだATMの脇の壁がぶち破られ、有名人のネームプレートを付けた貸金庫が並ぶ店内。ユニークな店舗デザインのコンセプトは「銀行強盗」だ。なにしろ店内の品は均一価格。入荷日はどれでも1点4.50ユーロ、その後毎日価格が下がり、最後は1点0.95ユーロに。店名はLes Sales Voleurs(泥棒野郎)、まさに"持ってけ泥棒"というニュアンスだ。
量り売りからセレクトヴィンテージ、自社ブランドのセカンドハンドまで、古着市場がぐんぐん拡大している。古着を購入したことのある人の割合は、2018年の16%から19年には39%に上昇した。多くの人にとって古着の魅力は価格にあるようだが、ある市場調査では、古着を購入した人の48.8%が環境へのインパクト軽減を理由として挙げている。一部のファッショニスタのものと思われてきた古着は、いまやサステイナブルな存在。古着店でのお宝探しはクールでエコロジーな行動なのだ。
---fadeinpager---
その一方で、中国のファストファッションブランド、シーインのポップアップは、新聞やテレビも取り上げる騒ぎになった。入り口には長い列ができ、入店までの待ち時間は1時間とも2時間とも。ファストファッションは、持続性や社会的公正の対極として批判を受けることが多く、近年ことに風当たりが強い。報道も「批判にもかかわらず長蛇の列」といった論調がほとんどだ。行列する10代、20代のパリジェンヌはテレビマイクに向かって、「大量消費と環境問題への意識とは矛盾するけれど、プチプライスのおしゃれには抵抗できない」と口々に答える。物価が高騰する中、シーインに並ぶ彼女たちにはちょっぴり罪悪感の影も見える。しかし、この大盛況のあおりで、シーインには思わぬ逆風が吹いている。change.org上で、フランス国内での販売禁止を訴える署名運動が始まったのだ。運動はシーインを"ウルトラファストファッション"と位置付け、消費者側のボイコットでは不十分と訴える。目的はEUの安全基準に合わない製品をコントロールして販売を禁止するようフランス政府に働きかけることだという。目標数は100万人、開始から3カ月が経とうとするいま、25万人近くの署名を集めている。
●1ユーロ=約156円(2023年7月現在)
*「フィガロジャポン」2023年8月号より抜粋
text: Masae Takata (Paris Office)