ソフィ・カルのユニークな発想で、ピカソ没後50年展。

Paris 2023.12.12

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展覧会中、パブロ・ピカソ『La  Célestine』を展示する小さな部屋は見逃しそうな場所にあるので要注意を。photo:Mariko Omura

今年はパブロ・ピカソが亡くなって50年ということで実に多数のピカソ展が企画され、たとえばポンピドゥー・センターではデッサン展が1月22日まで、リュクサンブール美術館の『ガートルード・スタインとピカソ』展も1月21日まで続いている。多数の展覧会の中で最もユニークな展覧会はピカソ美術館で開催されているコンセプチュアルアーチスト、ソフィ・カルによる展覧会『A toi de faire, ma mignonne』だろう。ピカソ没後50年に際してピカソ美術館からソフィに声がかかったという展覧会だ。美術館からの提案に、彼女はピカソと対峙することの恐れからためらったのだが、新型コロナ感染症ゆえの外出期間中に閉鎖されている美術館を訪れた時にクラフトペーパーで覆われている作品を撮影し、そして"ピカソの不在"というテーマが浮かんだという。そこから生まれたコンセプチュアルアートの展覧会は、ピカソと共通のテーマで全館4フロアにわたるけれど、ピカソの作品の展示はごくわずかである。初めてのパリ旅行で初めてのピカソ美術館!と張り切って来た人は、ちょっと出鼻をくじかれるかもしれない。それにソフィ・カルは文字を表現手段とし、また彼女や他者の私的体験をテーマにする作品のアーティストなので、とっつきにくいと感じる人もいるだろう。ここではどこか滑稽で奇妙で、ビジュアル的に入りやすい展示を紹介することにしよう。それらを追って会場を歩くと、その合間にあるテキストに満ちた部屋にも関心が生まれてくるはずだ。

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ソフィ・カル。展示『ゲルニカ』の前で。彼女は自身が所有するオブジェ、写真、アート作品などからゲルニカのテーマに合う約200点を選び、『ゲルニカ』のサイズ(394.3×776.6cm)のコラージュを制作した。中には彼女がボルタンスキーやダミアン・ハーストなどから自作と交換して得た作品や、それにソフィの父の作品も含まれているという。©️Yves Géant

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「うちにはピカソがいる」と祖母に言わしめた、彼女が6歳の頃に描いたデッサン(父親が額装した!)からソフィ・カルの展覧会は始まる。フロアごとに大きなテーマがあり、地上階は「ピカルソ」、2階は「閉じられた眼」、3階は「母、父、そして私」、4階は「プロジェクト目録」だ。

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テーマ「Picalso」から展覧会は始まる。 photo:Voyez-Vous(Vinciane Lebrun)

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ソフィ・カルが6歳の頃に描いたデッサン。©️Sophie Calle/ADAGP, Paris 2023

最初に登場するピカソの作品はクラフトペーパーに覆われた状態をソフィが撮影した写真だ。その隣の部屋には、ピカソの3点の自画像が。歯がゆいのは「幽霊ピカソ」の部屋で、作品5点がそこにあるものの白い布ですっぽりとカバーされているのだ。その上に文字によってどんな作品かが解説されている。これらは閉鎖中の美術館をソフィが訪れた際に、貸し出されていて不在だった5作品で、彼女はその時に美術館の学芸員、警備人、清掃者などに説明を仰いだ。その時の思い出を込めて、彼女は戻ってきた5点の作品をここに展示。来場者は文字を読み、布の下にある絵を想像するのである。なお来場者がしっかりとピカソの作品に向かい合える部屋として、ソフィは『La Célestine』を小さなスペースに展示した。絵の前に置かれたディエゴ・ジャコメッティによるおなじみの美術館の椅子に腰掛けて、ここで少し時間を過ごそう。

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2020年、閉鎖中のピカソ美術館で紙に包まれて保護されているピカソの作品をソフィ・カルが撮影。photo:Mariko Omura

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ピカソの自画像3点が囲むのは、展覧会のタイトルとなったピーター・チェイニーの推理小説『A toi de faire, ma mignonnne』。タイトルは''君がやる番だよ、お嬢ちゃん''といった意味が。photo:Mariko Omura

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『幽霊ピカソ』でうっすら透けて見える5作品は『Casagemas』『Grande baigneuse au livre』『Paul dessinant』(写真右)『Homme à la pipe』『La nageuse』。photos:(左)Mariko Omura、(右)©️Sophie Calle/ADAGP, Paris 2023

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2階では、ジャン・コクトーが「画家というのは視覚障害者の仕事だと、ピカソはよく言っていた。彼は目に見えたものを描くのではなく、そこに感じたこと、彼が見たことが語りかけることを描いているのだ」と語ったことから、ソフィは自身が撮影した視覚障害など視覚に関わる写真・映像を展示している。3階で待つのは、ビジュアル効果満点の展示だ。ピカソは相続人がいても遺言書を残していない。子どももおらず遺産相続者を持たない自分は?と。ソフィは自分の死後の競売をシミュレーションしたのだ。会場には競売前の展示よろしく、彼女の作品をはじめ、家具、ワードローブ、食器など合計500近い彼女の持ち物が所狭しと展示されている。ソフィの自宅は、この間もちろん空っぽになっているそうだ。オークションハウスDrouotの協力を得て、競売の目録も制作される徹底ぶりだ。4階はソフィの完成プロジェクトおよび未完のプロジェクト、放棄したけどいつかやり直したい、というプロジェクトを総覧カタログのように展示している。

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ソフィ・カルの自宅から運び込まれた私物を並べ、競売前の展示会を模した部屋。photo:Voyez-Vous (Vinciane Lebrun)

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Drouotの動産公売官が制作した仮想オークションの目録。photos:Mariko OMURA

なおピカソ美術館ではこのソフィ・カル展の開催期間中、来年3月からの新しい展示のプレリュードとして、ピカソの絵画、彫刻、デッサンなどからの約70点のセレクションを『La collection Oeuvres choisies』と題して地下で展示している。ピカソの作品を目指して来る人には朗報だ。

『A toi de faire, ma mignonne Sophie Calle』展
会期:開催中~2024年1月7日
Musée Picasso Paris
5, rue de Thorigny
75003 Paris
開)10:30〜18:00(週末と学童休暇中は9:30〜18:00)
休)月、1月1日、5月1日、12月25日
料金:14ユーロ
www.museepicassoparis.fr/fr
@museepicassoparis

editing: Mariko Omura

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