モードのコレクターとしてのアライアを巡るふたつの展覧会/ガリエラ宮モード美術館
Paris 2023.12.30
アズディン・アライア(1935~2017年)。没後、彼の偉大なるクチュリエとしての業績は語られ続けられているが、この秋さらにオートクチュールのコレクターとしての彼にフォーカスを置いたモード展がふたつ企画された。ガリエラ・モード美術館における『Azzedine Alaïa Couturier collectionneur』展は1月21日まで、マレのアズディン・アライア財団の『Alaïa/ Grès, au-delà de la mode』は4月7日までの開催なので、パリにゆく機会があればぜひふたつとも鑑賞を。前者はコレクターとして彼が収集したクチュールピースの作品の展示で、後者は彼の仕事とマダム・グレの仕事を並列した展示という異なる視点の展覧会だ。
1990年、マドレーヌ・ヴィオネのドレープドレスをマネキンに着せつけるアズディン・アライア。photo:Patricia Canino
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アズディン・アライアが収集したコレクションを初公開。
ガリエラ美術館で展示されているアライアが集めたクチュリエとクリエイターの服は、たったひとりのコレクションによるということが信じられない点数とクオリティである。彫刻をするように服をクリエイトしたアライア。見事なカッティングは定評があった。過去のクチュリエたちへの深い崇拝が、彼のテクニックを磨き上げていったのである。
収集熱のきっかけとなったクリストバル・バレンシアガ。photo:Gautier Deblonde
アライアがクチュールピースのコレクションを始めたのは、クリストバル・バレンシアガがメゾンをたたんでクチュール界から引退した1968年である。その際にアライアはメゾンに残されたアーカイブドレスや布を入手。それによって巨匠クリストバルの仕事を研究することができ、彼はクチュール史へ情熱をかき立てられることになった。19世紀末のクチュールの初期から20世紀末のプレタも含めて、生前彼がコレクションしたのは約2万点。もっとも美術館のように体系的な保存法をとっていたわけでもなく、入手した服はそのまま無造作に袋に収められたままのものもあったり......。バレンシアガ、マドレーヌ・ヴィオネ、ポール・ポワレ......といったパリの著名クチュリエメゾンはもちろん、映画『ファントム・スレッド』のインスピレーション源といわれるチャールズ・ジェームスやブルマでおなじみのクレア・マッカーデルといった英語圏のクチュリエの服もアライアは収集。その中でもフランスにおいて貴重なのは、ハリウッド映画の衣装デザインで知られたエイドリアンによるスーツ、ドレス、コートそしてデッサンといった所蔵品だろう。
左: バレンシアガの時代から遡り、シャルル・フレデリック・ウォルト、ジャック・ドゥーセ、ジョン・レッドファーン。19世紀末のクチュールも収集していた。 右: チャールズ・ジェームス。photos:Mariko Omura
モダンスタイルの創始者と評されているアメリカ女性クリエイターのクレア・マッカーデル(1905〜1958年)。彼女はジョアン・ミロやフェルナン・レフェなどのデッサンをプリントに使用した。1940〜1958年のコレクションから。photo:Mariko Omura
クレア・マッカーデルと同世代のエイドリアン(1903〜1959年)はグレタ・ガルボやジョン・クロフォードの映画衣装で有名。1942年にMGMから独立し、自分のメゾンをブロードウエイに開いた。右は1947年のクチュールドレスの「The Egg and I」。 photos:Mariko Omura
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生前、誰の目にも触れることのなかった所蔵品の中から、ガリエラ美術館は合計140点を展示。バレンシアガのコーナーは「情熱の始まり」と題されていて、1930年から1968年までをアライアは収集していたそうだ。会場ではクチュリエごとの展示もあれば、アライアの優れたコートやスーツとの対比で見せる過去のクチュリエの仕事をまとめた展示も。展覧会の最後は、1980年代に入ってからコレクションに加え始めたという彼と同世代のクリエイターたちのコーナーだ。ニコラ・ジェスキエールのバレンシアガ、ティエリー・ミュグレー、ジャン=ポール・ゴルチエ、コム・デ・ギャルソン......。でも、ここで展覧会は終わらない。
第二次大戦後のオートクチュール。左の5体がジャック・ファット、右がクリスチャン・ディオール。アライアはディオールのアトリエで数日間仕事をした。photo:Gautier Deblonde
左: スキャパレリ。会場ではとても近い距離で展示品を鑑賞できる。 右: シャネル。研ぎ澄まされたエレガンスが感じられる収集だ。photos:Mariko Omura
ラファエル、エドゥアール・モリヌー、ニナ・リッチ、オーギュスタベルナール、メンボッチャー、フィリップ・エ・ガストン。1930〜40年代に開花したクチュールメゾン。photo:Gautier Deblonde
左: ジャンヌ・ランバンのコーナー。 右: 美しい仕立てが目を奪うBusvine、Charles James、Bruyère、Jacques Griffeのコート。photos:Mariko Omura
マドレーヌ・ヴィオネの多彩なクリエイション。photo:Gautier Deblonde
左: ルディ・ガーンライヒによる1972年ごろのプレタのロングドレス。 右: ジャン・パトゥ。photos:Mariko Omura
ガルニエ宮の展示を締めくくるのはジャン=ポール・ゴルチエ、ヨージ・ヤマモト、コム・デ・ギャルソン......。photo:Mariko Omura
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マティスによる舞台衣装も。
展覧会はお向かいのパリ市立近代美術館へと続いている。無料で入れる会場で待つのは、アライアのコレクションから画家マティスによる3点の舞台衣装の展示だ。セルジュ・ディアギレフのバレエ・リュスのために、1919年にアンデルセンの作品をベースにしてレオニード・マシーンが1幕物のバレエ『Le Chant du Rossignol』を創作した。中国の王を素晴らしい歌声のナイチンゲールが救う物語で、マティスは衣装だけでなくカーテン、舞台装飾も担当。彼の最初の切り絵制作となったのが、この舞台装飾である。3点の珍しく貴重なコスチュームは美術館で常設展示されているマティスの1931年の『未完成のダンス』と、1933年の『パリのダンス』を背景に展示されている。この希少な機会、逃したら残念だ。
近代美術館で展示されているマティスによる『Le chant du Rossignol』のコスチューム。photo:Daniel Rocco
左: 横から見ると鳥のコスチュームであることがよくわかる。 右: 『未完成のダンス』(1931年)の前の展示は、王のコスチューム。photos:Mariko Omura
会期:開催中~2024年1月21日
Palais Galliera
10, avenue Pierre 1er de Serbie
Paris 16e
開)10:00~18:00(火、水、金〜日) 10:00〜21:00(木)
休)月
料金:15ユーロ(18歳以下無料)
予約 www.palaisgalliera.paris.fr
editing: Mariko Omura