フランス第二の都市マルセイユで、 オリンピックの熱い夏を体験。
Paris 2024.05.11
オリンピックの聖火が、5月8日、マルセイユに到着した。パリまでの聖火リレーの出発点であるマルセイユは、パリのほか6つの地方都市で行われるサッカーの試合会場のひとつであるほか、真新しいマリーナにセーリング競技を迎えるオリンピックの街。夏気分いっぱいの港町で、その熱気を体験しよう。
5月8日19時、3本マストの帆船べレム号がマルセイユの旧港に入場。マルセイユ市長によると、この日23万人以上が聖火を迎えるために集まった。©Martin Colombet-Paris2024
聖火が入港し、海が競技の舞台に。
ギリシャから地中海を航行して聖火を運んだのは、1896年に建造された世界最古の3本マスト帆船のひとつ、べレム号。5月8日は朝から大小1000隻もの船が繰り出してべレム号を出迎え、マルセイユの旧港へとエスコートした。港周辺はもちろん、対岸のイフ島や海岸線にも聖火の到着を迎える人が集まり、その数は23万人にものぼった。
19時30分、港に浮かぶ桟橋にロンドン五輪の金メダリスト、水泳選手のフローラン・マナドゥが姿を現し、沸き起こる歓声の中、マルセイユ出身のラッパー、ジュールが聖火台に火を移す。花火やパトルイユ・ド・フランスのパイロット飛行が空に五輪を描くショーが迎える聖火の到着は、これまでにない大規模な祝祭イベントとなった。
いよいよパリに向けて聖火リレーが出発、オリンピックへの秒読みが始まった。
ヴァカンス気分で観戦する、セーリング
パリオリンピックは、サッカーが地方を含む7都市で開催されたり、タヒチがサーフィン競技の舞台となるなど、パリ以外にもいくつか会場がある。フランス第二の都市マルセイユは、海のオリンピック会場だ。
既存の競技場を使うケースが多いパリオリンピックにあって、マルセイユのマリーナは大会を機会に拡大オープンした新施設。セーリング競技は艇の種類によって10種目があり、このマリーナを舞台に、12日間にわたって繰り広げられる。セーリング競技にはあまりなじみがないという人も、ウインドサーフィンやカイトサーフといえば、思い当たるはずだ。
4月2日に落成を祝ったマルセイユの新マリーナ。オリンピックのセーリング競技10種目の舞台に。隣接するビーチや周辺の道路などから海上の競技を眺められるのもいいところ。photography: Ian Hanning / Matthieu Colin / Provence Tourisme
オリンピック期間以外は、子ども向けのヨット教室をはじめ、市民のための施設となる。
この地方特有の北西から吹く強風ミストラルを筆頭に、多方向からの風があるマルセイユは、アスリートにとってはチャレンジングなエリア。一方で、競技を観戦するものにとっては、青い空、広いビーチのある絶好の立地だ。風の状況に競技の開始時間が左右される競技だけに、観戦チケットは1日券。観戦スペースでは大スクリーンと解説があり、1日に2回、水上から解説付きで観戦できる200人乗りの船も運行予定。ビーチからスタートするカイトサーフやウインドサーフィンでは出発が間近に見られるとあって、一味違ったオリンピックゲームが楽しめそうだ。
一方、海沿いの散歩道や隣接するビーチなど、どこからでも海上の競技が眺められるから、チケットがなくても地元っ子と一緒にオリンピック気分を味わえる。
気になる日本人アスリートの登場は、男女混合ディンギー470級。4月にスペイン・マジョルカ島で行われた大会で、五輪代表の座を獲得した岡田奎樹と吉岡美帆のコンビだ。この種目は、オープニングシリーズが8月2日から6日、メダルレースが7日に開催される予定。チケットは5月15日にオープンする公式再販サイトで、まだ購入が可能だ。
6 Promenade Georges Pompidou 13008 Marseille
https://www.marseille-tourisme.com/offres/marina-olympique-base-nautique-du-roucas-marseille-8eme-fr-3010226/
サッカー男女10試合の舞台。
マルセイユでもうひとつ行われる競技、それが男女のサッカー。会場は、地元っ子の絶大な支持を受けるオリンピック・マルセイユのホームスタジアムであり、ワールドカップや欧州選手権など、さまざまな試合の舞台となってきたスタッド・ヴェロドロームだ。
マリーナやプラドビーチ、ル・コルビュジエ建築のユニテ・ダビタシオンなどがあるプラド地区に位置し、ショッピングにも便利な立地にある。
街の中心地の便利な立地。2014年に完成したモダンなデザイン。人気チーム、オリンピック・マルセイユのホームスタジアムだけに、サッカーファンなら一度は観戦に訪れたい。© HELIOS IMAGES R. GRUNCHEC Provence Tourisme
7月24日、男子サッカーがお膝元フランス対アメリカ戦で幕を開ける初日、そして30日のフランス対ニュージーランド戦は大きな盛り上がりになりそう。決勝リーグでは男女の準々決勝、男女の準決勝の4試合が予定されている。果たして日本チームがマルセイユで戦うことになるかどうか、活躍に期待したいところだ。
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この夏、マルセイユを楽しむヒント。
マルセイユは、古代ギリシャの時代に開かれた長い歴史を誇る港町。南フランス独特のお国訛りがあり、地中海の文化と人種が混じり合う。マルセイエたちのパリへのちょっとしたライバル感覚は、サッカーのパリ・サンジェルマン対オリンピック・マルセイユの試合の熱い盛り上がりに象徴されるもの。パリからTGVで3時間あまり。港町の熱い素顔を、この機会に発見しよう。
街を見守る、ノートルダム・ド・ラ・ガルド。
マルセイユで最も多くの見学者が訪れる場所、それがノートル・ダム・ド・ラ・ガルド寺院。標高150メートル余りの丘から、旧市街と海、周囲の山々までを望む360度の眺望で知られる名所だ。13世紀の昔に建てられた丘の上の小さなチャペルに始まった教会は、19世紀半ばに現在の姿になった。内部には、船乗りと漁師たちが捧げたたくさんのエクス・ヴォトが飾られている。てっぺんには高さ11.2メートルの巨大な聖母像があり、海を見つめている。「ボンヌ・メール」という愛称で親しまれる、マルセイエたちの守護神的存在だ。
旧港を見下ろす丘の頂上に。教会の塔の上には黄金に彩られた聖母マリア像が。
鮮やかな装飾の教会堂。天井からいくつもの船形のEX VOTOが下がっている。現在の教会堂は19世紀半ばに建てられたもの。
旧港と旧市街パニエ地区を散策。
マルセイユの発祥の地は、古代ギリシャ人がやってきたこの旧港。長きにわたって商業港として栄えた港は、いまでは桟橋にヨットがずらりと並ぶプレジャーボートのマリーナになっている。魚市場が毎朝立ち、港を横断するフェリーボートが発着し、周囲を歴史的な建物に囲まれた旧港は、文字通りマルセイユの中心。
プレジャーボートが桟橋に鈴なり。旧港はマルセイユのシンボル。©JoYanaOMTCM
マルセイユに来たら必ず味わいたいのが、名物のブイヤベース。漁師が釣った魚から自分用に取り分け、家で作ったのが始まりだという気取らない料理だ。オーセンティックなマルセイユのブイヤベースは、2皿からなる。魚を煮込んだスープと、スープで茹でたジャガイモと魚の切り身を分けてサーブするのがお決まりだ。旧港に面したレストランでブイヤベースを試すなら、シェ・マディ・レ・ガリネットがおすすめ。
旧港に面した大きなテラス席が目印のシェ・マディ・レ・ガリネット。©Chez Madie les Galinettes右はひよこ豆の粉とオリーヴオイルのペーストを揚げた、南仏名物パニス「Panisses」。アペリティフにどうぞ。
魚のスープにチーズを加え、ルイユをつけたクルトンを浸していただく一皿目。続いて、スープで煮た5種類の魚とジャガイモが供される。「Bouillabaisse en 2 temps」 55ユーロ。©Chez Madie les Galinettes
138, quai du Port 13002
営)12:00〜14:00、19:00〜22:00(月〜金) 12:00〜14:30、19:00〜22:00(土) 12:00〜14:30(日)
無休
Instagram:chezmadielesgalinettes
港の北側、市役所の裏に広がるパニエ地区は、海からやってきたギリシャ人が最初に住み着いた、マルセイユで最も古いエリア。小さな路地が入り組み、オレンジやピンク、色とりどりの建物が並ぶ様子は、ちょっとしたタイムスリップだ。11、12世紀に建てられた教会や病院とともに、アーティストのアトリエや小さなブティックがあり、ストリートアートとカフェやバーのテラスが肩を並べる。目的もなく、道に迷いながら散策するだけで、マルセイユのエスプリが感じられる。
色使いが楽しいカフェのテラス、ストリートアートが小道を彩る。©OTCM
左:壁の色、日除けの色が愛らしい。坂や階段があちこちに。©joOMTCM 右:名物のサボン・ドゥ・マルセイユや海綿を売る店も。
パニエ地区の一角に小さな店を構えるのは、1986年創業のレ・ナヴェット・デザクール。ここでマルセイユの伝統ビスケット、ナヴェットをぜひ味わいたい。ナヴェットとはフランス語で小舟の形を意味する言葉。このお菓子は聖書に登場する3人のマリアが船でプロヴァンス地方に着いたことを寿ぐために18世紀に生まれたのだという。
コルシカ島出身、手仕事でナヴェットを作り続けた創業者のジョゼ・オルソーニを継ぎ、現在は娘夫妻が店を守る。酵母を使わず仕上げるビスケットはほんのりオレンジフラワーの香り。長く日持ちするのでお土産にもぴったり。
左:ナヴェット2個入り2.50ユーロ。パッケージもかわいい。右:コルシカ名物カニストレリやプロヴァンスのマカロンも毎日手作業で作っている。船の形の素朴なビスケットは、ほんの少し温めるて食べるのがおすすめ。
68, rue Caisserie 13002 Marseille
営)9:30〜19:00(月〜土)、10:00〜18:00(日)
無休
www.les-navettes-des-accoules.com
アスリートの食を手がける3ツ星シェフの店へ。
パリオリンピックとパラリンピックの選手村での食事をクリエイトするために、ガストロノミーを代表する3人のシェフが選ばれた。パリで活躍するアクラム・ベナラル、アマンディーヌ・シェニョと並んで腕をふるうもうひとりのシェフが、マルセイユのアレクサンドル・マッジアだ。ミシュランの3ツ星を持つ彼のレストランAMは、サッカーの舞台となるスタッド・ヴェロドロームから徒歩15分ほどのところにある。
バスケット選手としての経歴を持つだけに、アスリートのための食事への思いはひとしおというシェフ。オリンピック期間中は毎週、自分のレストランの定休日には選手村に足を運んで監修を続けるという。
バスケット選手の経験を持つシェフ、アレクサンドル・マッジア。厨房もチームワークが大事、という。©David Girard
ヴォヤージュ、と名付けられたおまかせメニューは、毎日のインスピレーションで変化する。大小のさまざまな器に盛り付けられた色とりどりの料理が次々にサーブされ、その数は30点にも及ぶ。鮮やかな食材とソース、花やハーブの鮮やかな色合いは、まるで絵画のよう。コンゴ共和国でフランス人の両親のもとに生まれ、ヨーロッパ各地を旅した記憶を盛り込んだ彼の料理は、思いがけない素材やスパイス使いでフレンチの枠組みを軽やかに超えたもの。ゆっくり時間をとって訪れたい名店だ。
目にも色鮮やかな料理は異国の風味も生かしたクリエイティブな味。ランチは195ユーロから、ディナーは295ユーロから。©David Girard
彼の味がもっと手軽に楽しめるアドレスがもうひとつ。それはフードトラック。レストランから程近い場所に位置するミシェル・パール・AMでは、ランチタイムにオリジナルのストリートフードを提案している。シリアルパンにグリル野菜や海藻のフムスを挟んだクロック=マズ、パンに子羊のソーセージを挟み、野菜を加えたホット=マズなど、クリエイティビティあふれるメニューにはご近所の常連も多い。テイクアウトして3ツ星シェフのランチを野外で味わってみてはいかが?
上:フードトラックはランチタイム限定。漁師だったという祖父にちなんでミッシェルと名付けたのだとか。下:スパイスの効いたパンに、ガランガル風味の子羊のソーセージが入った「Hot'Mazz」19ユーロ
9, rue François Rocca 13008 Marseille
営)12:00〜14:15、19:45〜21:45
休)日、月、火 要予約
www.alexandre-mazzia.com
Michel par AM
17, rue François Rocca 13008 Marseille
営)11:30〜14:00
休) 日、月
www.michelparam.com
www.provence-alpes-cotedazur.com
ブッシュ・デュ・ローヌ県観光局
https://www.myprovence.fr
マルセイユ観光局
www.marseille-tourisme.com
フランス観光開発機構
www.france.fr/ja
text: Masae Takata (Paris Office)