印象派150周年記念、オルセー美術館で『パリ1874年』展。

Paris 2024.05.11

今年は印象派150周年ということでフランス各地でさまざまな展覧会が開催されている。ひとつの芸術運動について明快に始まり、年を示せるのが印象派のおもしろいところだろう。150年前、つまり1874年に印象派という言葉が生まれることになったのは、写真家ナダールのスタジオの2フロアを会場に、その年の4月15日から1カ月間開催された30名の画家たちによる『画家、彫刻家、版画家などによる共同出資会社』展においてのこと。一種のグループ展である。展示されていたのは当時潮流だったアカデミックな絵画と一線を画す日常や屋外の光景などを描いた作品で、その中にクロード・モネの『印象・日の出』(1872年)があった。そこから芸術評論家のひとりがいささか嘲笑を込めて風刺新聞の記事で、この展覧会を"印象派の展覧会"と表現。これがきっかけとなって印象派という呼び方が生まれたのである。

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会場では、1874年のナダールのスタジオとその中で行われた展覧会を映像で紹介。クロード・モネの『ひなげし』や『キャプシーヌ大通り』『印象・日の出』などが展示されている様子を見ることができる。photos: Mariko Omura

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印象派という言葉が生まれるきっかけとなったクロード・モネの『印象、日の出』(1872年)。© Musée Marmottan Monet / Studio Christian Baraja SLB

自主的に展覧会を催して"蜂起"したクロード・モネ、ピエール=オーギュスト・ルノワール、カミーユ・ピサロ、ベルト・モリゾ......。いまでこそ高い評価を得て世界中の人々に愛されている画家たちだが、1874年において傑作とされていたのはフランスの王立絵画彫刻アカデミー主宰による公式美術展覧会(官展/サロン)に出品される宗教や歴史を主題とした作品である。オルセー美術館で7月14日まで開催中の『印象派を創成する』展では、1874年の展覧会での印象派たちの作品を見せると同時に、同じ年に開催された官展に出品されたアカデミックな作品も展示。その時代にこれこそが絵画とされた作品を前にすると、日常や屋外の光景などを主題に"見るものを自分たちが見るように"描く印象派たちの作品は全く趣を異にしていたことが理解しやすい。

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1874年の印象派展を再現するセクション1に展示されているピエール=オーギュスト・ルノワールの作品。左は『La Danseuse』(1874年)、右は『La Dame en bleue』。photo: Mariko Omura

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1874年の印象派展で展示されたエドガー・ドガ『Classe de danse』(1870年頃)。The Metropolitan Museum of Art, H. O. Havemeyer Collection, Bequest of Mrs. H. O. Havemeyer, 1929, 29.100.184 Image Courtesy of the Metropolitan Museum of Art

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左は1874年の官展に展示されたJules Emilie Saitinの『麻の洗濯女』(1874年)、右は1874年の印象派展に出たエドガー・ドガの『アイロンかけ女』(1869年)。描かれているのはどちらもこの時代の女性にとって数少ない職業についている女性だが、官展と印象派展では表現がまったく異なることは2点を並べてみるとわかりやすいのでは? なお会場内、 この2点の展示は同じセクションではない。photos: Mariko Omura

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左: Camille Cabaillot-Lassalle が描いた『Le Salon de 1874』から、1874年の官展の雰囲気がつかめる。© Musée d'Orsay, dist. RMN-Grand Palais / Sophie Crépy  右:  オルセー美術館で、1874年の官展が再現されているセクション4。photo: Mariko Omura

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どちらもエドゥアール・マネの作品。左は『鉄道』(1873年)。テーマが列車という新しい乗り物であり、また少女が背を向けている作品ながら1874年の官展に出た作品である。この時代は官展もモダニティに少しオープンとなっていたようだ。右は『オペラ座の舞踏会』(1873年)。こちらは1874年の官展に拒否された作品である。『パリ1874年』展ではこの他にも拒否された作品を展示している。photos Mariko Omura

その前、1871年に普仏戦争の敗北でナポレオン3世が失脚し、革命自治体(パリ・コミューン)が生まれ、1875年には第三共和制が成立し......。世の中が大きく変わろうとしている時だった。ナポレオン3世による第二帝政期に始まったオスマンのパリ大改造でもたらされた工事で、パリの街の近代化が進んでいた時代である。ブルジョワ階級の台頭で贅沢と快楽が求められるようになり、絵画を買う画商やコレクターたちの中にもモダニティを感じさせる印象派の作品に興味を示す人も出始めていた。絵画の世界にも革新が起きる時が来ていたようで、ナポレオン3世は1863年に官展から拒否された作品を集めて『落選展』を政府公認で開催している。落選続きの前衛画家たちの抗議にこたえ、その判断を一般人に委ねようという趣旨からだった。

オルセー美術館の展覧会はイントロダクションとして、オペラ座の工事を含めパリの当時の様子を紹介し、時代背景からスタート。印象派展は1874年から1886年までの間に8回開催されていて、オルセー美術館では10のセクションで1877年の3回目までを取り上げている。この3回目は商業的成果は期待外れだったものの、画家たちは自分たちが印象派であることをここで宣言。8回の開催中、この3回目の開催が最も"印象派"な展覧会だったそうだ。なおこの3回目のメセナは画家のギュスターヴ・カイユボットである。

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第3回印象派展に出品されたオーギュスト・ルノワールの『ムーラン・ド・ラ・ギャレットの舞踏会』(1876年)。© Musée d'Orsay, Dist. RMN-Grand Palais / Patrice Schmidt

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クロード・モネの『サン=ラザール駅』(1877年)も第3回の展覧会に出品された。© RMN-Grand Palais (Musée d'Orsay) / Hervé Lewandowski

ヴァーチャル・リアリティで1874年の第1回印象派展に潜入。

この展覧会の開始と同時に、オルセー美術館では、「今宵印象派たちと共に パリ1874年」という約45分の没入型 VR(ヴァーチャル・リアリティ)を体験できるようになった。こちらは展覧会より会期が長く8月11日までだ。印象派やその誕生の時代を簡単にわかりやすく、というのであれば、展覧会で絵を見て回る前にこちらを先に、あるいはこれだけを体験するのもいいだろう。VRヘッドセットを装着するだけで、1874年4月15日にタイムスリップ!

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会場の入り口。ポスターに描かれている赤い建物がナダールのスタジオだ。ガス灯をともし、展覧会は夜も来場者を迎えていた。photo: Mariko Omura

印象派の画家たちのモデルであるローズ(もちろん架空の人物!)が案内役となり、オペラ座(この時代は完成前)前広場から脇を馬車が走るキャプシーヌ大通りを歩き、のちに第1回印象派展と呼ばれることになる展覧会の会場となったナダールのスタジオへと導かれる。大通りにはカフェやブティックが並び、すれ違う女性はクリノリンドレスで男性はシルクハットにルダンゴト! 展覧会場では2フロアに展示された作品を鑑賞し、ルノワールやモネ、モリゾといった画家たちとすれ違うのだ。早足のローズを追いかけて体験者たちも歩みを進めることになる。VR会場は平地なのだが実によくできているVRなので、ローズの後をついて段差の床や階段などを歩くと、つい足を上げてしまったり。エレベーターの上下にしても、本当に乗っているかのように上昇も下降も体感してしまうのがとても不思議。この後、ナダールのスタジオを後にし、ローズとともに17区にあるフレデリック・バジールのアトリエへと向かう。エミール・ゾラ、ルノワール、マネ、モネが集うバジールの作品『バジールのアトリエ ラ・コンダミンヌ通り』(1870年)で知られた光景が目の前に広がる。そしてサン・ラザール駅から鉄道に乗って、ローズは画家たちがイーゼルを立てて絵を描くセーヌ河岸のラ・グルヌイエール、モネが『印象・日の出』を描くル・アーブルへと我々を連れて行き......。

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VRヘッドセットは開始前に、各人の頭に合わせて担当者がセットしてくれる。架空世界の中で人とぶつかりそうになっても実在の人物ではないし、池に架かる橋を渡る際に落ちそうになっても危険はゼロ。初めてだと最初は少し戸惑うかもしれないが、すぐに慣れる。VRはこのオペラ座前広場からスタート。彼らに混じって広場からキャプシーヌ大通り35番地の展覧会場に向かうのだ。©️Excurio - GEDEON Experiences- musée d'orsay

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ナダールのスタジオの2フロアに渡る展覧会で、この時代の衣装を纏った招待客たちに交じって、画家たちと至近距離ですれ違いながら作品を鑑賞。©️Excurio - GEDEON Experiences- musée d'orsay

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鉄道のおかげでサン・ラザール駅からノルマンディー地方へと、画家たちが屋外に絵を描きに気軽に出かけられるようになった時代だ。©️Excurio - GEDEON Experiences- musée d'orsay

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クロード・モネの『印象、日の出』の誕生にル・アーブルで立ち合う!©️Excurio - GEDEON Experiences- musée d'orsay

終了後、ヘッドゴーグルを外して会場に目を向けると、パリからノルマンディーまで延々と続いた旅は小さなスペースの中をぐるぐるしていただけとわかって、ちょっと笑ってしまう。入り口にロッカーが備えられているので携帯も何もかもここに預け、身軽に印象派の誕生を体験してみよう(11歳以上が対象)。

『Paris 1874  Inventer l'Impressionnisme』展
開催中〜7月14日

『Un soir avec les impressionnistes  Paris 1874』
開催中〜8月11日

Musée d'Orsay
Esplanade Valéry Giscard d'Estaing 75007 Paris
開)9:30〜18:00(木 21:45)
休)月
料金 常設展・特別展入場料/ 16ユーロ、常設展・特別展・VR入場料/32ユーロ、入場券保持者および無料来場者のVR入場料/ 16ユーロ
www. Billetterie.musee-orsay.fr

editing: Mariko Omura

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