農家とパリジャンを結ぶ、パリの新世代エピスリーに注目。

Paris 2024.09.16

毎週土曜日に行くマルシェで、ひときわ長い列ができるスタンドがある。パリ近郊、ピカルディ地方の農家によるスタンドにルバーブやイチゴが出れば春の印。アスパラガスやソラ豆が並ぶと夏はすぐそこだ。その代わり、冬にトマトやナスを探しても、パイナップルやバナナが欲しくても、この店では決して手に入ることはない。

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パリ11区のマルシェにて。生産者が直接販売するスタンドに行列ができる。

パリといえばマルシェでお買い物、というステレオタイプを思い浮かべがちだけれど、一般的な街の青果店やマルシェに並ぶ食材は、中央卸売市場で仕入れたものだ。スペインの大規模農業の温室ものやケニア産インゲン、南アフリカのオレンジ。人気のアボカドやザクロは南米から。遠い国から届く野菜は季節を問わないが、輸送に由来するカーボンフットプリントの点では劣等生。多少形が悪くても、品物の数は限られていても、生産者直売のスタンドに人が集まる様子には消費者の意識の変化が感じられる。

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ピカルディ地方の農家によるスタンド。赤く熟した摘みたてイチゴがずらり。

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「畑の先に」「季節限定」「農家の量り売り」――パリ市内でそんな店名の看板をよく見かけるようになった。どれもピカルディやノルマンディ、ロワールなど、パリからなるべく近い農家と提携し、農作物を直接買い付けて販売するエピスリーだ。2013年に17区で自動販売機方式から始めたオ・ブー・デュ・シャン(畑の先に)は、その日の朝に150km圏内で収穫した作物を販売する。レ・セゾニエ(季節限定)はコロナ禍直前の19年に1号店を出し、いまでは13店を構えるまでに成長した。

生産者と消費者を直接結ぶことは、輸送による温室効果ガスを減らし、トレーサビリティを約束し、熟した果物や採れたての野菜を提案するだけではない。エネルギー価格上昇に苦しみながら他国の廉価な作物との競争を余儀なくされる農家に、労働に対する適正な対価を支払うことに繋がるという考えがある。30代を中心とする世代が起業するこれらの新世代エピスリーの増加は、シルキュイ・クール(短い流通)への関心を象徴しているのだ。

2000年代、パリジャンが求めたのはビオ(オーガニック)食材だった。ビオが一般化し、食品産業の加工食品がビオを謳い、輸入のビオ作物がスーパーに並ぶいま。パリジャンは、近くで収穫された季節の食材がいちばん、という基本に立ち返ろうとしている。

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2019年に誕生したレ・セゾニエは、パリ周辺の生産者とパリを結ぶ。野菜や果物だけでなく乳製品や食肉も扱い、定期的に生産者との交流の場も設けている。写真は昨年後半にパリ15区と18区にオープンした12、13軒目の販売店。 photography: Les Saisonniers

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パリとその近郊の9店舗で、朝採れ野菜と果物を販売するオ・ブー・デュ・シャン。

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ペイザン・ヴラック(農家の量り売り)も市内と近郊に5店舗を構える。

*「フィガロジャポン」2024年9月号より抜粋

text: Masae Takata (Paris Office)

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