フランス映画界の嵐と産まない自由。女性の権利の理想と現実。
Paris 2024.10.02
フランス映画界に、#MeTooの嵐が吹いている。いま頃?という声もあるかもしれない。ハーヴェイ・ワインスタイン事件が明るみに出た2017年、フランスにも運動は波及した。
だがその一方で、「言い寄る自由」と題した意見記事にカトリーヌ・ドヌーヴをはじめ100人の女性が署名して世界を驚かせたのは18年。性被害で告発されているロマン・ポランスキーがセザール賞の最優秀監督賞を得たことに反発し、アデル・エネルが「恥を知れ」と叫んで授賞式を去ったのは20年。以来、セクシュアルなシーンの撮影にインティマシーコーディネーターを招くなどの改善を試みてきた映画界だが、激震は昨年末にやってきた。
すでに複数の性被害で告訴されているフランス映画界の聖なる怪物ことジェラール・ドパルデュー。彼の北朝鮮訪問ドキュメンタリーが昨年12月に放映されると、繰り返される性的発言の数々に猛反発が起きた。国を挙げての炎上ぶりに、映画界の56人がバッシングを糾弾した意見記事「ドパルデューを抹殺するな」に署名すると、若い世代のアーティスト600人から「反対記事」がぶつけられた。これを受けて今年1月、セザール委員会は暴力で起訴されている人物を授賞式に招待しない旨を発表した。
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続いて爆弾を投げたのは、沈黙を破ったジュディット・ゴドレーシュだった。自分がまだ14歳だった1986年から6年間、映画監督ブノワ・ジャコと公認カップルだったことを語り、15歳の時にジャック・ドワイヨンに性的暴力を受けたと告発し、それを当然のこととしていた映画界、メディア界を強く批判。2月23日のセザール賞授賞式に招かれてスピーチし、「少し前から発言を繰り返してきましたが、あなたたちの言葉は聞こえてこなかった。あなたたちはどこにいるの?」と映画界に訴えた。「私の過去は何千人もの女性の"現在"です」という言葉に、会場で拍手する女優の中には涙ぐむ姿も見られた。
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そのちょうど2週間後。3月8日の国際女性の権利デーに、フランスは人工妊娠中絶の権利を認める文章を憲法に記載した。世界中で女性の権利の後退が危ぶまれる時代にあって、憲法への記載はほぼ全会一致で可決され、誇りを持って迎えられた。世界初の「産まないことを選ぶ権利」の憲法記載と、遅ればせながらの映画界の#MeToo。それは、社会の変化の理想と現実の乖離を象徴しているように見える。
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*「フィガロジャポン」2024年6月号より抜粋
photography: Alamy/amanaimages (4) ZUMA PRESS/amanaimages(5) text: Masae Takata(Paris Office)