ドゥラフォンテーヌ母娘が語る、ロンシャンとパリジェンヌ。
Paris 2024.10.21
メゾンのエスプリ漂う新オフィスで、2025夏のコレクションを発表したロンシャン。常にカラフルでハッピーな現代のパリジェンヌ像を描くクリエイティブ・ディレクターのソフィとイベント・ディレクターのジュリエット、創業ファミリーの3代目と4代目母娘が、ロンシャンとパリジェンヌについて語ってくれた。
パリ・トロカデロ広場近く、ロンシャンの新社屋。色とりどりのランプがリズミカルに下がるレセプションの向こうに、緑あふれる中庭がのぞいている。過去のアーティストとのコラボレーション作品やデザイン家具、アート本が並ぶ棚の前には座り心地のいい肘掛け椅子が置かれ、まるで個人宅のリビングルームのような暖かさを感じさせる。
3階には、ランチタイムやミーティングに社員が集う"ル カフェ ロンシャン"とテラスがあり、最上階からはエッフェル塔を大きく目の前に望む。カラフルな色とアートに囲まれたオフィスは、まさにロンシャン・ファミリーのメゾンといった雰囲気だ。
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ロンシャンは1948年創業。93年に「ル プリアージュ®」と「ル ロゾ」を発表し、パリを代表する人気ブランドとなったのはご存知の通り。現在のCEOは、創業ファミリー3代目のジャン。弟のオリヴィエがアメリカでの事業を支え、妹のソフィがクリエイティブ・ディレクターを務める。ジャンの2人の息子もともに働くロンシャンに、今年1月、ソフィの娘のジュリエットがイベント・ディレクターとして入社。創業ファミリーが手を携えて経営とクリエイションに携わる、生粋のパリブランドだ。
――毎シーズン、とてもパリジェンヌらしいイメージのコレクションですが、どんな女性像を思い浮かべていらっしゃいますか?
ソフィ 私はパリに住んでいますから、友人や家族など、周囲の現代のパリジェンヌがたくさんのインスピレーションをくれます。パリジェンヌは自由で自立したエスプリの持ち主。それはロンシャンのシンボル、"ロンシャン・ホース"のダイナミックな姿に通じます。軽やかで、自由に生き、前進する女性たちの毎日の暮らしに跳躍を与えようとクリエイトしています。
――25年春夏は、ピンクとグリーンの鮮やかな色使いが印象的ですね。
ソフィ 私はいつも色からコレクションを発想します。今年は、人生をバラ色にするオプティミストなエスプリが表現したくて、薄いピンクからビーツのような赤に近いピンクまで、さまざまなピンクを選びました。また、女性たちは都会に住んで仕事をし、活動的に生きる一方で、自然や土に触れ、小鳥の声や葉のそよぎを聞くことがますます必要になっています。だから、春に芽を吹くフレッシュなグリーン、菜園を彩るグリーンと、ブランドカラーに結びつくあらゆるグリーンを使いました。こんなふうに色から出発し、ドレスやタブリエ、庭仕事のようなジャケットといったアイテムに落とし込みます。
――ロンシャンのプレタポルテは、ソフィさんが始められたのですか?
ソフィ 1995年に入社し、プレタポルテは2006年にマネキンに着せるためのいくつかのルックから始めました。当時はバッグや小物はあったけれど、そのイメージに合致するシルエットはなかった。私はロンシャンのバッグの背後にある女性像を描こうと思ったのです。服によって、パーソナリティや1日のある時間を表現することができますから。
――ジュリエットさんは4代目として、ロンシャンに何をもたらしたいと考えていらっしゃいますか?
ジュリエット 私は今年1月に入社しました。前の3世代が成し遂げた仕事にオマージュを捧げ、これからの年月にさらに輝かせることができるのは大きな誇りです。私はメゾンのイメージにまつわる仕事が好き。ママンが手がけるコレクションを生かし、さまざまな方法で光を当てたい。イベントは人を集めます。私は人をもてなし、迎えるのが好きですし、和気藹々として祝祭感のある瞬間が大好きなんです。
――サステナビリティについても取り組みを続けていらっしゃいますが、今シーズンはどんなアイテムがありますか?
ソフィ ロンシャンにおける私の目的は、適正で美しいオブジェを作ることです。今シーズンは、生産終了後に残った革やバッグのストラップを使った「リプレイ」という小さなラインを出しました。プレタポルテでは、使用後もリサイクル可能な再生ポリエステルのキモノジャケット。丈夫でスーツケースに丸めて入れられ、アイロンをかける必要もない。変幻自在で色々な着方ができる流行にとらわれないピースです。
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――人気のバッグ「ル プリアージュ®」と「ル ロゾ」は30周年を迎えるそうですが、おふたりにとってどんな思いがありますか?
©️Longchamp
ソフィ 絶えず再発明し、再生させてきたバッグで、メゾンの2本柱と言えるものです。「ル プリアージュ®」とはさまざまな探求をしてきました。素晴らしいアーティストたちとのコラボレーションは出会いと発見をもたらし、メゾンの創造性とエナジーを発展させてくれた。一方の「ル ロゾ」は、サヴォワールフェールの継承と前進です。リバーシブルや、ビジューのように輝く"バンブー"トグル、クロコダイル風の型押しなど、いずれもチームとアトリエと協働して冒険してきました。
ジュリエット 「ル ロゾ」とは、私もちょうど30歳で同い年なんです。学生時代、大人の女性のバッグを持っている気分で誇らしく、学校でも週末でも手放しませんでした。ティーンの頃から母親になったいまもいつもそばにいる、暮らしに密着したバッグです。
――おふたりにとっての、パリジェンヌスタイルとは?
ジュリエット パリの暮らしはスピードが速く、1日の間に何日分もの要素が入っていて、外出も多い。自転車に乗り、バスを追いかけ、仕事がしやすく、ディナーには小物を変えてエレガントになれる......どんなシーンにも対応できるアイテム選びが大事です。
ソフィ パリジェンヌはエフォートレスと言われますが、本当は反対。とても気を配っています。現代のパリジェンヌには生まれつきとも言える感性があって、自分らしさと自分のスタイルを認めている。それが特徴ではないかしら。
ジュリエット 1日のどんなシーンにも合うルックを選ぶのは簡単ではありません。今回のコレクションで私の一番のお気に入りは、どんなシチュエーションにも合わせられるキモノジャケット。また、ストレッチレザーは体の動きに沿ってくれて、着やすく快適な上に美しいアイテムなので、ビジュアル効果も抜群です。
――おふたりにとって暮らしをより豊かにするためのアール・ドゥ・ヴィーヴル(生活の美学)とはなんですか?
ジュリエット 私は微笑みがポジティブを呼ぶと信じています。ちょっと落ち込んでいる時も、無理に笑ってみるといいですよ。ロンシャンではオフィスではいつも笑い合いながら働いています。これが私のウェルビーイング法です。
ソフィ 私を幸せにしてくれるのは家族。週末はマルシェに行き、ランチの用意をし、たくさんの人を迎えます。家族や友達を迎え、楽しい時間を分かち合うことですね。
ジュリエット それは我が家の血筋かもしれません。おもてなしのアートは、私も祖母と母から受け継いでいます。お皿を選び、花を飾り、美しいテーブルを演出したいという思いです。
――一緒に働くお互いについてはいかがですか?
ジュリエット 私はなんでも急ぎ足。ママンはそんな私に、時間をかけ、正しい判断をするよう助け、経験と解決策をもたらしてくれます。小さい時から、決断が必要な時、どうしていいかわからない時に呼ぶのはママンでした。小さいことも重要なことも。
ソフィ 仕事でジュリエットがもたらしてくれるのは、新しい世代のビジョンです。彼女が母親として、働く若い女性として発展していく姿を見ること。それが私の発展に繋がり、新しい世代と繋いでくれます。
text: Masae Takata photography: Ayumi Shino