刺繍ルサージュの100周年展、シャネルのメゾンダールle19Mのギャラリーで開催中。

Paris 2025.01.08

フランスの手仕事、サヴォアフェールといった言葉に、モード関係者の大勢の頭にすぐに思い浮かぶ名前が刺繍のルサージュだろう。今年100年を祝うメゾンは、現在シャネルのメティエダールを集めたパリの19区にあるle19Mで活動を続けている。そのle19Mのギャラリーで1月26日まで『100ans de mode et de décoration(モードと装飾の100年(仮))』展が開催中だ。ファッション部門だけでなく、あまり世間に知られていないインテリア部門でも発揮されている刺繍のサヴォアフェールの豊かさも発見できる展覧会である。

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パリ19区のle19M内にアトリエを構えるルサージュ。©le 19M x Lucie Khahoutian
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刺繍のディテールを間近で見ることができる贅沢な展覧会だ。photography: Clarisse Ain
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展覧会ではイヴ・サンローランの仕事も紹介されている。16区のイヴ・サンローラン・ミュージアムで開催中の『イヴ・サンローランの花々』展でも、ルサージュが施した花の刺繍を見つけられる。photography: Clarisse Ain
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イヴ・サンローランのクチュールピース。右は1988〜89年オートクチュール秋冬コレクションのケープ。左は1988年オートクチュール春夏コレクション「キュビズム」のジャケット。photography: Mariko Omura

メゾン・ルサージュの歴史は、1924年にアルベール&マリ=ルイーズ・ルサージュ夫妻が刺繍のメゾン「Michonet(ミショネ)」を買い取ったところから始まる。服飾芸術が華やかに開花した第二帝政期、1858年にアルベール・ミショネがパリに開いた刺繍のアトリエで、ルサージュ夫妻はそのストックも含めてメゾンを継いだ。そのためミショネ時代の19世紀の刺繍見本も残されていて、メゾンのアーカイブは75000点ととてもリッチなのだ。ミショネはフレデリック・ワース、パカン、ヴィヨネ......ルサージュといった名だたるクチュール・メゾンの刺繍を託され、彼のアシスタントを務めていたのがアルベール・ルサージュの妻となるマリ=ルイーズだったという繋がりがある。

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スキャパレリとルサージュ。右は1941年のオートクチュール春夏コレクションのジャケット。photography: Mariko Omura

ルサージュ夫妻は買収後、1930年代にスキャパレリとの密接に仕事をして刺繍史に残る見事なクリエイションを生み出している。新しいテクニックも開発され、前衛的な刺繍のメゾンとしてますますオートクチュールに不可欠な存在となるのだ。1949年に息子フランソワがアトリエを後継してからの顧客にはディオール、バルマン、ジバンシィ、イヴ・サンローラン......90年代になるとジャン=ポール・ゴルチエやティエリー・ミュグレーといった若いメゾンがこれらに加わる。ルサージュの歴史にシャネルが登場するのは、意外にも遅く1983年にカール・ラガーフェルドの時代になってからのことだ。スキャパレリの刺繍を請け負っていたルサージュにガブリエル・シャネルが仕事を依頼しなかったという長い歴史に終止符を打たれ、コラボレーションが始まるのである。

ヴィジョネアたるフランソワ・ルサージュはメゾンの仕事の可能性を広げたいと願い、テキスタイルのアトリエを1990年代に設置。オリジナルツイードのクリエイションを1998年からシャネルのプレタポルテのため、その10年後にはオートクチュールのためにも手がけるようになったのだ。

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カール・ラガーフェルド(右)とヴィルジニー・ヴィアールによるコレクションから、ルサージュが施したコロマンデルの刺繍のコート。1950年代にショー会場で用いられたというコロマンデルの屏風を背景に。photography: Mariko Omura
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左はヴィルジニー・ヴィアールによる2023/24年秋冬 オートクチュール コレクションから。右は2021/22年 メティエダール コレクション「paris -19M」から。
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ニコラ・ジェスキエールによるルイ・ヴィトンのパニエドレスやジェニー・ハイトーネンのドレスにもルサージュの刺繍が。©19M photography: Clarisse Ain
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写真左はカール・ラガーフェルドによる2019年春夏 オートクチュール コレクションのアンサンブル。右はイエールの第36回モードフェスティバルで展示されたLaima Jurca & Marta VeinberegaによるアンサンブルHighest Quality Adviser。photography: Mariko Omura
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ルサージュがクリエイションするツイードのサンプル。©19M x Elea Jeanne Schmitter
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左: 展覧会の入り口スペースに展示されているツイードの織り機。 右: ルサージュによるツイードを用いた2着。左はカール・ラガーフェルドによる1998年春夏 プレタポルテ コレクションより。右はヴィルジニー・ヴィアールによる2023/24年 メティエダール コレクション「Paris- Manchester」より。photography: Mariko Omura

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インテリア部門がフランソワの息子ジャン=フランソワ・ルサージュとその同僚たちによってインドのチェンナイに設立されたのは1993年。インドとフランスの両国の伝統的な刺繍技術および革新の技術がルサージュ・インテリアでは用いられている。モード、インテリアに加えて最近ではアーティストたちとのコラボレーションも活発に行われている。メゾン100周年を記念して、アーティストのAristide(Barraud)とルサージュは作品「Murmuration」を制作。またモードについていえば、著名なクチュールメゾンばかりではなく若いクリエイターたちの仕事にもそのサヴォアフェールを提供しているのだ。

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インドのチャンキナにあるVastrakalaアトリエ。©19M x Madhavan Palanisamy
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Vastrakalaのアトリエで制作されたVoictoire de Brantes作「Chaise Pompei」©19M photographe Clarisse Ain
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ルサージュのアーティスティックディレクターのユベール・バレールと刺繍のアトリエがアーティストAristideとコラボレーションした作品「Murmuration」。アリスティッドのデッサンは、大陸から大陸に移動するムクドリの群れがテーマ。オーガンジーの複数の布で構成され、マルセイユ、ダカール、ヴェニスなどで開催のアトリエでそれらの布のモチーフの鳥が複数の人々の手によって刺繍されて展覧会の最後にパリのle19Mに戻ってくるという趣向だ。photography: Mariko Omura
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「Murmuration」のディテール。©19M photographe Clarisse Ain

ルサージュがシャネルの傘下に収まったのは2002年。2011年からルサージュのアーティスティック・ディレクションはユベール・バリエールに託されている。シャネルのクリエイティブディレクターに就任したマチュー・ブレイジーによるコレクションにどのようなルサージュの刺繍を見ることができるか。その新章を楽しみに待ちながら、8章で構成された展覧会でルサージュの伝統と卓越が込められた100年の広がりやまぬ活動を辿ってみよう。

『Lesage, 100ans de mode et de décoration』展
会期:開催中~2025年1月26日
La Galerie du 19M
2, place Skanderbeg 75019 Paris
営)11:00~18:00 11:00〜19:00(土、日)
休)月、火
入場無料
@le19m

editing: Mariko Omura

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