LVMH メティエ ダール、ショールーム初の特別展に選んだのは、西陣織・細尾の「環境を織る」。

Paris 2025.01.14

2025年の日本の話題のひとつは、4月に開幕する大阪・関西万博。1200年の歴史を誇る西陣織が高松伸の設計によるパビリオンの外装に用いられるという驚きも、世間の関心を集めている。幅150cm×長さ7000mを織るのは創業を1688年に遡る京都・西陣織の老舗HOSOO(細尾)である。半年の期間中、雨風に耐え、屋外での使用に適応できるよう、生地には特殊なコーティングが施されており、伝統技術と現代のテクノロジーを融合させている。メゾンの代表取締役社長で12代目の細尾真孝は「これほどのサイズの布を外壁に使うというのは初めてのことで、我々にとって大きなチャレンジです。桜づくしの柄ですが、平面の織物の柄が立体の建物を覆っても繋がっているんですよ。これはプログラミングチームの仕事を立体から平面に戻して可能となる仕事です。常にいろいろな人と関わることで、職人たちは大変ですがこれまで存在しなかったものを生み出せるんですね。楽しんでやっています」と語っている。

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細尾の『Ambient Weaving(環境を織る)』展。

2023年2月にミラノにショールームを構え、ミラノサローネにも参加して、と世界そして未来に目を向けた活動を推進している細尾。伝統的なクラフツマンシップの革新と発展を目指すLVMH メティエ ダールとパートナーシップを締結したのもこの年のことだ。そしてLVMH メティエ ダールのショールーム「La Main(ラ・マン/手)」が2024年の初夏にパリ3区にオープンしたショールームでは、初秋にこけら落としとして細尾の「Ambient Weaving (アンビエント・ウィービング)」展を開催した。LVMHとの縁の始まりは、細尾の海外の初クライアントがディオールと建築家ピーター・マリノだったということから。「現在世界中の100都市近いディオールのブティックで、うちの生地が内装に用いられています。帯の織幅は30cmですが、2010年に西陣織の技術が使える150cm幅の機械を独自に開発したんです」とのことだ。西陣織という卓越した日本のクラフツマンシップに目をつけるとは、さすがマリノである。

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LVMH メティエ ダールのショールームがあるのはギュスターヴ・エッフェルによる建築物で、最初は織物問屋で次に印刷工場、そしていまはLa Mainというようにサヴォワールフェールに関わりが深い。photograhy: Mariko Omura

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細尾は伝統工芸と最先端のテクノロジーを組み合わせ、機能性と美しさを併せ持つテキスタイルの開発に取り組んでいて、2020年から東京大学筧康明研究室と株式会社ZOZO NEXTと共同研究を進めている。2021年にはテキスタイルの新たなビジョンとして、京都で「Ambient Weaving(アンビエント・ウィービング)」展を開催した。ここで展示したのは「環境情報を表現する織物」「環境そのものが織り込まれた織物」。パリのLa Mainでの展覧会「Ambient Weaving」はその最新版で、「環境を形づくる織物」の可能性を模索し、色や光などの環境と共鳴する新たなテキスタイルを発表した。

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「Woven Pixels」より。

展示されたのは最先端の9点だが、テクノロジーを感じさせず工芸的にも美しいものでもあることにこだわった、と細尾社長は語る。通りに面したウインドーにも2点展示され、毎日その前を通る人を楽しませたのは毛細管現象を生かした糸を伝って色が動くという「Drifring Colors」だった。会期のはじめは白い糸だったものが、日々、4色の染料が染めてゆくという仕掛けだ。色によって染める速度が異なり、また温度や湿度でも異なるそうで、こうして糸に環境が織り込まれてゆくのである。

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ウインドーのもうひとつの展示は「Tension Weave <Blossom>」。2種のカーボンバーを緯糸として織り上げ、柔らかな平面の布を立体形状化した3点だ。西陣織の重厚感を感じさせる展示作品で、花が咲く段階(蕾、半開き、全開)を表現。

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会場内の最初の展示は「wave of warmth」。25度を超えると青色が発色し、周囲の温度によって色が変わる生地だった。次の部屋で「Woven Pixels」と名付けられていたのは、横糸にLOLED(有機発光ダイオード)が織り込まれてドットマトリックス状に発光する布だ。部屋の中央で鈴のような高音を発していたのは布の大きなサークルで、これは環境とサウンドのふたつの言葉を掛け合わせて「S(urr)ound」と題されている。布にCO2センサーが織り込まれていて、CO2の量によって音が変化するというように織物自体がスピーカーなのだ。素材の厚みや寸法で音質が変わるそうで、この展示のために綺麗な音を求めて改良を重ねたという。会場内、圧倒的な美しさを放っていたのは「iridescene」。これは特殊な箔の重ね合わせの効果で、見る角度によって表面と影が表情を変えるテキスタイルでまるで虹のようで見飽きない。「この布のカーテンとかあってもいいですね。これは色がないのに色があるように見えるモルフォ蝶と同じなんです。実際はこの布には色がなく、光の反射で出る色、つまり構造色。この構造色をプリントできる機械を開発した富士フィルムの最新技術がここに詰まっているんです。こういう研究をしていると、このようにいろいろな企業から『こんな技術がうちにはあるけれど何かできないか』というコンタクトがあるんです」と細尾社長。

テキスタイルと環境を融合して、新たな形のインタラクティブアートへと昇華する「Ambient Weaving」の没入体験。これは伝統と最先端技術の融合を推進するLVMH メティエ ダールの理念にぴったりと叶う見事な初展覧会だった。

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布地がスピーカーという「S(urr)ound」。
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「iridescene」。photography: Mariko Omura

会期の後半には、La Mainの上階のガラス屋根のフロアにお茶室「織庵」が組み立てられ、ここで予約者たちに御点前が振舞われた。茶室を取り囲む障子のように透け感のあるテキスタイルには西陣織の伝統的な「紗」の織技術が応用され、また室内の床の間の掛け軸は革新的技術3つを取り入れて織られた布だ。茶会参加者にとって、古来の伝統と前衛的なテクノロジーの会話、布地と環境の出合いを体験する場となった。フランス人も正座を試み、未知の日本文化に親しもうとする姿が印象的だった。なお、このお茶室はその後京都の本社の最上階に戻され、細尾社長はそこでお茶会などを催すことを考えていると語っていた。もし参加できる機会があれば、ぜひ。

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建物の最上階、自然光が差し込むスペースに組み立てられ、布と色の遊びを見せた「織庵」。
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左:狭いにじり口の先に広がる茶室。床の間が設けられ、花と掛け軸が飾られた。 右:モダンなモチーフで織られた布が覆う水屋。photography: Mariko Omura

なお展覧会期間中、La Mainの地下1階では細尾の豪奢なテキスタイルコレクションも展示。一点一点が京都の職人たちのサヴォワールフェールと銀糸や金糸といった贅沢な素材の融合の実りである。これほどの西陣織がパリでまとまって紹介されたのは初めてに違いない。細尾の伝統技と革新的な活動をここで知ったフランス人たちは、大阪・関西万博で西陣織が外装のパビリオンに関心を持たずにはいられないだろう。

editing: Mariko Omura

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