日の沈む国から、日の出る国まで。金糸織物の装いをケ・ブランリー美術館で。

Paris 2025.03.19

アフリカやオセアニアのプリミティブアートの展覧会を見る美術館、というイメージが強いケ・ブランリー美術館。2月11日から、珍しいことにモードがらみの展覧会が始まった。

『Au fil de l'or. L'art de se vêtir de l'Orient au soleil-levant』展は、タイトルにあるようにマグレブから近東諸国そして日本にいたるまでの金糸織物の衣類をテーマにしている。文明の異なる国々の時代もさまざまなゴールドを織り込んだ服が展示されているのだが、この展覧会ではゴールドにまつわる歴史的や科学的な驚き、発見も待っているという単なるモード展を超えた豊かな内容のユニークな展覧会だ。

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ケ・ブランリー美術館。ガラスの外壁も金糸でおめかしして来場者を迎える。photography: Mariko Omura

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星から生まれたゴールド

黄金は金鉱ということばがあるように、地球で採掘される金属である。でもその起源をたどると何十億年も前に宇宙で起きた小惑星の衝突や新星の爆発によって、金を含む隕石が地球に降り注いだという歴史がある。まだ地球が熱かった時代のことで地球の核に融合された金が、いま採掘されているというわけだ。この歴史が語られる映像の前にはベンチが用意されているので、じっくりと耳を傾けてみよう。ちなみにこれまで発見された中で、1869年にオーストラリアで発見されたのが最大の金塊で72kgだという。

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左:1万個のゴールドのスパンコールがあしらわれた、グオ・ペイによる2016年秋冬クチュールコレクションのドレス。8名が2万時間をかけて制作した。 右:ロシアで1842年に発掘された35キロの金塊(複製)。photography: Mariko Omura

これも金?貝、クモ、蚕が生み出すゴールドスレッド

この展覧会では金属のゴールドではないけれど金色の糸を生む3種の自然界の驚異にもスポットが当てられている。

1つめは海のシルクと呼ばれる貝のPinna nobilis(ピナ・ノビリス)。貝がはきだして岩に自分をつなげている分泌物を採取し、カーディングして紡ぐので海のウールとも呼ばれている。その素材はプロテインとケラチンで、ゴールドの輝きを持つ糸だ。1992年に自然保護のためピナ・ノビリスの採取は禁じられているが、例外としてイタリアのサルデニャ島の近くの島でいまも織られているとか。2つめはマダガスカルのクモが生み出すゴールドスレッド。3つめはカンボジアの蚕だ。蚕が吐き出す糸は純白に限らず......。

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左:貝のPinna nobilis(ピナ・ノビリス)。右:19世紀初期、ナポリでピナ・ノビリスの金糸で織られたショール。photography: Mariko Omura
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左:マダガスカルのシルク・クモ。右:くもから金糸をつくりだす工程を示す20世紀初頭のボックス。photography: Mariko Omura
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カンボジアの蚕。photography: Mariko Omura

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中国人クチュリエのグオ・ペイとのコラボレーション

リアーナが2015年のメットガラで纏ったゴールドのドレスがその名前を有名にした中国人クチュリエのグオ・ペイ。この展覧会は彼女が過去にクリエイトしたゴールドドレスのミニサイズ5体で幕を開ける。メインとなる金糸織物の衣類については地域別の展示で、その区切りごとにグオ・ペイによるクチュールピースがゴールドの輝きを放つという構成だ。彼女の過去のオートクチュールコレクションからの展示だが、最後のウエディングの花婿のコスチュームだけはこの展覧会のために制作された。

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展覧会会場に入るとゴールドの輝きに目を奪われる。photography: Mariko Omura
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グオ・ペイのクチュールコレクションから。最後の展示の中国の伝統的婚礼衣装の花婿についてはこの展覧会のためにクリエイトされた。photography: Mariko Omura

先史の時代から太陽のように人類をひきつけたゴールド。金糸を用いた富裕層の装い、宗教の装い、祝祭の装い、埋葬の装い......さまざまな文明における織物芸術がテーマごとに会場に並べられている。

展示は''太陽の沈む国''であるモロッコ、チュニジア、アルジェリアのマグレブ3国から始まり、次いで「オリエントにおける盛装」ではエジプト、トルコ、レバノン、イラク、イエメンへと。さらに東へ移動しテーマは「アラビア半島の飾り立てた衣服」。そして「インドと東南アジアのゴールドのドレープ」でカンボジア、ラオス、インドネシアを経由して、中国と日本が締めくくる。でも展覧会はここで終わらない。「フランス刺繍の華麗」と題された小さな部屋で、フランスが誇るオートクチュール、フランスを代表する刺繍のメゾンのルサージュの仕事へと来場者の目をむけさせるのだ。

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モロッコのコーナー。photography: Mariko Omura
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左:イラクのコーナー。右:イランの19世紀中頃のウエディングドレスと、19世紀後半の自宅用スカート。photography: Mariko Omura
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中国。手前は20世紀初頭の戦士の甲冑。photography: Mariko Omura
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日本の打掛。photography: Mariko Omura
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左:ジョン・ガリアーノによるディオールの2004年春夏オートクチュール・コレクションより。右:カール・ラガーフェルドによるシャネルの1996年春夏オートクチュール・コレクションより。ルサージュが1200時間をかけて刺繍し、アトリエが90時間で仕立てた。

 

『Au fil de l'or . L'art de se vêtir de l'Orient au Soleil -Levant 』展
Musée du Quai Branly
37 Quai Jacques Chirac,
75007 Paris
会期:開催中~2025年7月6日
開)10:30~19:00(火、水、金~日)、10:30~22:00(木)
休)月
料)一般14ユーロ
https://www.quaibranly.fr/en/

editing: Mariko Omura

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