夜空に浮かぶ気球の聖火台
オリンピックが始まる前、競技会場の近くに住むフランス人は皆んな「オリンピック中は絶対にパリにいたくない」と言っていた。彼らのことを「楽しまないなんてもったいない人たちだなぁ」と思いつつ、せっかくの機会だし観戦にも行って雰囲気を楽しむつもり満々だった。
ところが、始まってみると想像を遥かに超える人混みと騒音に毎日悩まされることに。自宅から複数の会場が近いため、観客の「ウォーーー!!」という歓声と司会者の叫び声が風に乗って大音量で届く。一日中アパルトマンの上空を、ヘリコプターがバタバタと音を鳴らしながら旋回している。家から50メートルほど離れた場所に設置された観戦用の巨大スクリーンからは朝9時から夜中1時まで大音量が響き、オリンピックのテーマソング「パレード」は耳にタコができるほど聴いた。
8月は猛暑で、窓を開けて寝たくても朝方までお祭り気分の酔っ払いが叫んでいるので開けたら眠れない。でも閉めても暑くて眠れない。ロードバイクや競歩のように自宅の前がルートになっている競技を見ることができたことはラッキーだったけれど、真夜中に金属の柵や金網の設置や撤収作業が行われるのがまた煩かった。オリンピックの盛り上がりに比例して寝不足と疲れが溜まって観戦する気も失せて、パリから逃げるように予定を数日前倒ししてバカンスへ出発したのでした。
ところで、オリンピック開始前にサロンに来てくださったオリンピック関係やボランティアの方、観戦でパリに滞在中の方が、バカンス明けにも再び来てくださった。どなたもこんがり日焼けしていて、観戦を楽しまれた様子。
でも、今更ながら皆さんの話題はこぞって賛否両論あった開会式の話。
開会式のチケットはスタート地点のオステルリッツ橋の立ち見の100ユーロ以外の着席席は、600、900、1200、1600、2700ユーロとエッフェル塔の前のイエナ橋に近づくにつれて非常に高額になり、サロンに来てくださった方は大抵1600ユーロか2700ユーロの席を購入されていた。それなのに、どの場所にいても川岸で行われるスペクタクルをスクリーンで見ながら、選手の乗った船を延々と待つだけだったので心底がっかりしたそう。私も開会式の招待状をもらって喜んで行ったものの、雨が激しくなってきたので早い段階で帰宅してテレビで見ました。
思い出しても心が痛むのが、7月に日本から来てくださった方。「一緒に行くお友達の予算が1600ユーロだったから、お友達の差額をこっそり負担して2700ユーロの席を買いました。一生に一度だからどうしても良い席で見たいし、エッフェル塔の花火が楽しみです!」と嬉しそうに仰っていたけれど、唯一の花火は開始直後のオステルリッツ橋であがったトリコロールの花火だったし、あの激しい雨の中でどうなさっただろう・・。
結局のところ一番楽しめたのは、まだ小雨のうちに花火やスペクタクルが肉眼で見える距離だった100ユーロの立ち見の人達だったのでは?殆どのスペクタクルは肉眼では遠目に見える適度だし、どの場所にいてもスクリーンで見るんだったら均一料金にするべきだったはず。一生に一度だから奮発しようとか、高い席は素晴らしいものが見えると期待を込めて買った人達の心理を利用したかのようで酷い。レディ・ガガは録画だったし、ましてや2700ユーロの観客席から見えたのが、日本でも"青いおじさん"として話題になった、ドラッグ・クイーンに囲まれたほぼ全裸のフィリップ・カトリーヌだったという衝撃ったら。
それにしても、不思議だったのが返金を求める声やクレームを聞かなかったことだ。高いチケットを購入していたのはフランス人ではなく外国人だからだろう。だってフランス人だったら、絶対に返金を求めるデモが起こしているはずだから(苦笑)
先週バカンス先のイタリアからパリに戻り、家に帰る途中に夜空に浮かぶ気球の聖火台を見て感激!ものすごくきれい。
そして、パラリンピックは巨大スクリーンの爆音もなく夜中の喧騒もなく、テレビでブラインドサッカーを見て感動した。結局会場に足を運んで観戦することはなかったけれど、一応開会式に行ったし、少し競技も見たし、お祭りムードは十分過ぎるほど体験して、オリンピック関係の方からも興味深い裏話を伺って、別の角度から楽しんだオリンピックでした。
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