
恋の駆け引き「カルテット」
アルゼンチンタンゴの仲間であり、画家、彫刻家、ミュージシャン、俳優として多才に活動し、いつも私に新しい世界を見せてくれるオランダ人の友人マルセルの一人芝居「Les Liaisons Sulfureuses」を観に行ってきました。場所は19区のビュット=ショーモン公園からほど近い50人も入れば一杯になる小さな劇場。パリにはこのような小さな劇場がたくさんあります。
サブタイトルの『カルテット』はドイツ人劇作家ハイナー・ミュラーの戯曲ですが、有名なピエール・コデルロス・ド・ラクロによって書かれた“Les Liaisons Dangereuses(危険な関係)"をもとに書かれており、マルセルはそれを「Les Liaisons Sulfureuses(地獄のような関係)」としてアレンジ。
フランスvsドイツの第三次世界大戦のシェルター内で繰り広げられる、貴族社会のドロドロとした恋の駆け引き。マルセルは男女4人の役を演じるのですが、通常の「カルテット」の芝居と異なるのは、もう一つのオブジェ・・。
マルセルの後ろに見える男性のペニスが今回のキーワード。もともと成熟した男女の歪んだ愛憎関係や心理を描いた戯曲ですが、そこにさらにセンシュアルな意味を深めた演出でした。
去年、彼のアトリエに遊びに行ったらちょうど製作中で、自分のをモデルに作ってるというので、驚いたのでした。余談ですが、もともと彼は背が高くて容姿が良いので、よく演劇のポスターなどのモデルになっています。その中には十字架に貼り付けられた素っ裸のキリストを演じているのがあり、よく見るとペニスの先がぽっちりと白いので「印刷のミスなの?」と尋ねたら、「気がついた人は初めてだよ!実は撮影直前にトイレに行ってトイレットペーパーで拭いたら、ペーパーがちょっぴり張り付いてだんだよ」。印刷されてから彼もカメラマンも気がついたけれど、遅かったらしい(笑)
彼は母国語のオランダ語はもちろん、英語、ドイツ語、フランス語も堪能で、ドイツ語で原書を読みフランス語で演じるという、彼にとっても新しい試みでした。マルセルは軍服姿で男性に、そしてドレス姿で女性にとコロコロと役を変え、そして後半は軍服もドレスも脱ぎ捨てて、一糸まとわぬ姿でそのどちらでもない性を演じ、残念ながら私のフランス語程度では難しくて半分位しか理解できなかったのですが、詩的な言い回しや表現など、雰囲気を肌で感じることができて、とても面白かったです。
可愛かったのは、彼の15歳の息子。劇場のチケットのもぎり、バーの売り子、アシスタントとして、3ヶ月の公演の間ずっと手伝ってくれたそうで、終了後、裸でうろうろする父親を後ろで手早く片付けをしていました。13歳の娘は初日に来たきり冷たい態度を貫いているんだとか。
「芸術のために裸になってるんだ」と、マルセルは舞台の後ビールを飲みながらすっごく不思議そうでした。そして「親切な娘じゃないけれど、彼女の冷たい性格は僕の問題じゃないから」と、どこまでも自由人なマルセルなのでした(^_^;)
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